第二話『異界人』A
平日の朝。相変わらず家具の少ない狭い空間で青葉海斗の朝が始まった。
小さな食パンを片手に一口、パクリと噛んで制服に着替えると、すぐ様古びたアパートを出るのだった。
両親は別の街に住んでいる。これから通う公立高校『帝葎高校』に通うにはどうしても通行料が掛かるとの事で、学校に近いアパートを借りて一人暮らしをしているのだ。
「少し遅れそうだなぁ」
いつも通りの道を小走りした。
公立高校『帝葎学園』は名門校と言う程では無いが、不評をあまり聞かない事から県内の受験生から人気がある学校らしい。だからと言って、不良が居ないと言えば嘘になる。というか、海斗もその不良の一人と言われている。別にチンピラの意味で不良って訳ではない。
居眠りと言った授業の態度の悪さと、テストの点数の低さを含めて何かと頭を抱えられているのだ。無論、人付き合いもそうだ。
友人の数多くは、補習を受けるか受けないかの境界線を共にさまよっている同志。簡単に済ませるなら類友である。
「よぅ、海斗」
他人から声をかけられたのは2-Aと掛けられた教室に入った瞬間だった。
扉を開けた海斗に近づくと乱雑に制服を着こなした、茶髪の男が姿を現した。
身長は彼と差ほど変わらないが、相手の方が高く髪も立っている。そして制服のボタンを開いたまま、陽気な笑顔が浮かんでいた。
男の名前は杉村蓮司、高校生活の中で海斗と一番付き合いの長い悪友の一人だ。
「蓮司……今日は早いんだな」
感心したように海斗は言った。自分よりも遅く遅刻をする常習犯、蓮司が自分の目の前に現れたのはあまりにも珍しい事だからだ。
「杉村君が遅刻しないなんて、本当に珍しいよね」
と、横から現れたのは肩にまで伸びた黒いセミロングの女性。
蓮司とは対照的に埃一つすら見あたらない清楚に整えられた制服。
スカートは学校の規則通りに膝の上辺りにまで伸びている。
名前は桜井愛海。
海斗や蓮司と親しい友人の一人だが、彼らと違って成績は一桁は必ずランクインする程の秀才。
クラスメイトから親しまれ誰にでも話しかける事から、影では理想的な女性の一人として名前が上がる事がちらほら。
「そんなに珍しいのかよ」
「うん、珍しいし。なんか詰まらない」
桜井は断言するように微笑んだ。
「詰まらない? 俺、悪いことしちゃったかな?」
「それだったら、いつもしてるだろ。」
海斗は断言した。