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9話 彼氏コーデ対決! 綾音VS千歳

「しかし、なんとも酷い目に遭ったな」

「運よく座れたのはよかったけど、降りるのに手間取っちゃったもんね。綾ちゃんや進藤くんともはぐれちゃったし……」

「む? 噂をすればか。そちらも無事に降りられたようでなによりだ」


白斗の言葉を聞いてオレたちの存在に気づいた倉田が「おーい! こっちこっちー!」と手招きする。


 やっとの思いで満員電車から飛び出たオレたちは、人の波に飲まれないように手を繋いでホームに留まっていた。

 そんな波も収まった頃。階段の側で話し合って待つ二人の姿を見つけ、オレたちは手を離して近寄ることにした。


「よかったあ。大丈夫だった二人とも?」

「なんとかねー。押し出される形で出れたけど、階段まで遠いし降りる人の波にも逆らわなきゃいけないしで、もうムチャクチャだったし」


 一通りの会話も済ませ、改札に向かうために階段を降りる。

 人もまばらになっていたことで、他の人たちとのタイミングをずらして階段を使えたのは不幸中の幸いだ。


「口数が少ないな優也。電車内で何かあったのか?」


 合流してから無言のままだったオレを心配したのか、白斗が階段を降り切ったところで声をかけてきた。


「ん? まあな」

「差し支えなければ聞くぞ」


 先を行く女子二人を他所に白斗は会話を続ける。


 しかし、今の話が耳に入った様子の綾音。オレが勝手に幻視した猫耳をピクッと反応させたその綾音が、次の言葉はまだかと、聞き耳を立てているのが否応なしに分かってしまう。


「別に大したことじゃねえよ。満員電車って大変だよなって、改めて思ってただけだ」


 一応無難な解答をしておく。綾音くらいしかさっきの車内のことは分からないだろうし。


「……なるほど。夜にラインさせてもらおう」

「察するな。今ので何かを察するな」


 なんだかんだでこいつも切れ物だった。綾音も頭の回転が早いが白斗も相当なものだ。


 右を見ても左を見ても察しが良い奴ばかりだよなぁ。

 けどまあ、そんなのが周りに何人もいたのもあって、オレに恋人が出来た訳で……本当にありがとうございます。


「二人ともどうかしたの?」


 何気なく後ろを振り返ったらしき倉田。尋ねたせいか、サイフからカードを取り出そうとする手も止まっている。


 一人いるじゃないか。そう、倉田だ。天然で純真な心を持つ倉田は正に綾音や白斗とは真逆な存在。

  オレたちの癒しでもある彼女には、是非今後も変わらずにいて欲しいところ。


「うん。どうもしないぞ。倉田はそのままの倉田でいてくれ」

「え? んん?」


 なんのことだかさっぱりと言った顔をする倉田。むしろ分かられたら困る。

 そんなこんなで、滞りなく駅を出て再度デートプランを話し合うオレたち。


「とりま服見る感じでおけまる?」

「そんなこと言ってたな」

「俺はそれで構わない。自分の物を買う予定はないが、ウインドウショッピング自体は慣れている」


 オレも服は、この前出かけたときに姉ちゃんが買ってくれたばかりだしな。

 にしても、慣れてるってことは倉田とのデートでよく荷物持ちや見守る役に徹してるのか?


「私、みんなの試着してる姿見てみたいかも」

「ファッションショーみたいな感じにか?」

「いーじゃんそれ! あたしもちーちゃんを映えなコーデに盛ってあげんよ!」

「ええ!? 私を!? し、進藤くんじゃなく!?」

「え? ユーヤを?」


 一瞬キョトンとし、オレをまじまじと見つめてくる綾音。

 間髪入れず、その目が丸々とし始め、輝きをまといだしたことでオレはすごく嫌な予感に襲われる。


「あー、いや……オレはそんなにこだわりとかないし……」

「てことはよ。こだわりないってことは、これを機に新規開拓できるってことじゃん! しかも自分の彼氏のコーデを、ってことっしょ!」


 ――っ!? 非常にまずい流れだ……! このままではオレは綾音の着せ替え人形と化してしまう……!


 助けを求めて倉田。続けて白斗にも視線を向ける。

 倉田は事態を察したようで「あ、やっちゃったかも……」と申し訳なさそうな顔で顔をそらす。

 対する白斗は他人事なのか楽天的な顔をしている。その顔が崩れることになるのを、オレたちは予想すらしてなかった。


「よし決めた! ちーちゃんしょーぶしょーぶ!!」

「……ショウブ?」

「そそ! あたしVSちーちゃんによる、彼氏コーデ対決の幕開けじゃんよ!」


 ほら来た。オレですら斜め上に感じる展開が。

 オレの右隣で腕を組み、我関せずといった表情だった白斗が「なん……だと……」と血の気が引いた顔してやがる。


「それって私は白斗くんの服を選ぶんだよね?」

「当たり前じゃんよ。まっ、あたしのコーデ力に加え、元がいいユーヤを盛るんだから、ぶっちゃけユーヤしか勝たんけど」


 倉田を指差し、ニヤニヤして挑発する言葉を吐く綾音。

 その挑発に乗るように倉田は不機嫌そうな顔をする。


「む……! 進藤くんも下地は悪くないけど、白斗くんが世界で一番だもん……! いいよ綾ちゃん! その勝負乗った!」

「千歳!?」

「大丈夫だよ白斗くん。私だってやるときはやるんだから」


 こうしてオレの意見が挟まれるよりも早く、否応なしに対決が決定したのだった。




「さあ! 熱盛でパリピな服探すよユーヤ!」


 そんな訳で、白斗たちと一旦別れてやってきたのはメンズ物の服も取り扱ってると思われる店だ。

 これまでのオレの人生で立ち寄ったことのないタイプの店名をしていた。英名苦手なんだよ……。


 一応コーデ勝負とやらのルールとして、制限時間一時間で服を見繕うとのことらしい。金額は一万円以内。

 買い終わって合流したのち、トイレで着替えてのお披露目会という内容だ。


「安物ならUGとかウニクロ、有印(ゆうじるし)とか鉄板だけど、背伸びしてアメカジなラゲブルやHorM、ウナアロを攻めるのもありよりのありなんだよねー。てことで、ラゲブルに来たわけなんだけどー……」


 綾音は唇に人差し指を添え店内を見回す。店内はゆるりとした内装で、オレが行くタイプの所狭しに陳列された店とは大違いだった。

 しかもオレに至っては「前半の店名は分かる。あと、しもむらなんかも余裕。で後半のは、なんの呪文それ?」な状態だ。


「それで? オレはどうすればいいんだ?」

「ん? ユーヤは普通に付き添ってくれてればいいし。試着のときに選んだの着てくれたらおけまる水産」


 ということらしい。


「さあさあ! マジでバイブスアゲアゲなコーデ決めてかないとねっ!」

「そんなに熱くなることか? 悪くない、それっぽい組み合わせならいいと思うんだが」

「はあ!? ユーヤはなんにもわかってないし!」

「えぇ……」


 あまりにもコーディネートに対する熱量の差があるため、若干困惑してるオレがいる。


「これは女と女の、自分の彼氏をアピールするための戦いでもあるんだかんね! 相手に「あれ? あの子の彼ピめっちゃカッコよくない!?」って思われることが、どれだけ彼女にとって嬉しいかっ!」


 うーん? ……逆で考えてみるか。もしオレが綾音の、白斗が倉田の服をコーディネートして発表するとしてだ。

 その結果白斗が「なんということだ……! 鞍馬さんがこんなにも可愛いだなんて! ち、違うんだ千歳! もちろん一番は千歳に決まっている! 本当だ! 信じてくれ!!」なんて展開になったら……。


「確かに。嬉しいし優越感も半端ないな」

「でしょーっ?」


 満足気な顔で歯を見せて笑う綾音。


「っと、時間もあんまりないし早速探さなきゃ」


 綾音は足早に店の奥の方へと消えていった。

 となると、オレは手持ち無沙汰になってしまう訳で。


「えっと……」


 周りを見ると、二十代くらいの男女がどの服がいいかを話していたり、渋めなおじさんも両手に持つ服を見比べている。

 彼らにならって手頃な服を手に取って見てみた。


「んー……良い生地使ってるんだろうなぁ。けど分からん。というかいくら……げっ!?」


 オレがいつも買う値段よりも倍以上高い。やっぱUGが至高なんだよなぁ……。


「……っ……」


 改めて考えると、自分がすごく場違いな存在に思えてきた。

 買ってる人はみんな身だしなみが良いし、オレなんかと違って店相応に見える。


 ふと目に入った備え付けの鏡。そこに映るのは、眉毛が隠れるほどの前髪をした隠キャなメガネ男子だった。

 何が不満なのか、そいつは物言いたげな顔をしている。


「髪……そろそろ切らないとな……」


 服を元の場所に戻し、自分の髪に触れる。母さん譲りの濃いめの栗色の髪は、あまり手入れしなくても毛並みが良い方だ。

 それでもこう……自分の性格や髪型故によるのか、ナヨナヨとした髪質にも見えてしまう。


 いっそのことバッサリ切って短くするか?

 それとも綾音がしたイメチェンみたいに明るい色に染めてみるとか?

 ……ははっ、想像もつかねえや。果たしてオレは、ここで綾音の隣に立つのにふさわしい格好が出来てるんだろうか?


「なーに黄昏てんのさユーヤ」

「ん? ……綾音か」


 鏡を通してオレの背後に映る綾音の姿があった。手に持つカゴには何着も服やズボンが入っているようだ。

 それを持ち上げるようにしてオレへ差し出す。


「とりま、よさげなの何着か持ってきたから着てみんしゃい。どーせユーヤのことだから、こんな自分とは無縁な場所に来てしまっていいのか? とか考えてたんでしょー」

「うっ……」

「図星で草生える」

「草生やすな」


 ったく、いつもながら調子を狂わされる。

 そのおかげで憂鬱な気分も吹き飛んじまった。


「そんなユーヤを綾音ちゃんが生まれ変わらせてあげようじゃないか。ギャルの本気、とくと見せちゃる♪」

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