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1話 ギャルと始める恋人生活

本作は、前作【ラブレターを間違えて受け取ったギャルが、オレのことを好きだと言って陥落させにくる件】の続編となります。

ここから読んでも前作の流れが分かる形にはなっていますが、主人公とヒロインが付き合う前の話を先に知りたい場合は、作者ページから前作をお読みください。


※後日談ということもあり、前作のネタバレを含んでおります。ネタバレが嫌いな方は先に前作を読むことをおすすめします。

 オレの名前は進藤(しんどう)優也(ゆうや)連城(れんじょう)高校に通う二年生だ。

 そんなオレにこの春、初めての彼女が出来た。そいつは同じクラスに通う白ギャルの鞍馬(くらま)綾音(あやね)だ。


 金色に染まった、外ハネ気味な腰まであるロングヘアー。赤みがかったつり目の片方には泣きぼくろがある。

 ニヤリと笑ったときに覗く八重歯も、あいつにとってのチャームポイントだ。あと穴を開けないタイプのピアスもよく身に付けてるな。


 まあなんだ。綾音の特徴を色々と羅列してみたけど、要するにオレは、それだけスラスラと言えるほどあいつにベタ惚れなのだった。

 容姿に性格、あと生い立ちとか。色んなものをひっくるめて、オレは綾音のことを好きになったんだ。


 そんな綾音との恋はまあ、紆余曲折としたものだった訳で、語ると長くなりそうなので今回は省く。

 とにかくオレは、鞍馬綾音のことを一生涯懸けてでも幸せにする。そう誓ったんだ。


「――ヤ。ねえユーヤ!」

「ん?」

「もう! やっと気づいたし。さっきからボーッとしてどーしたの? もしかしてぇ……綾音ちゃんに見惚れちゃってたのかにゃー?」


 件の綾音が、オレのことを見上げながらニヤッと悪戯っ子のように笑みを浮かべた。


 今日は五月五日、子供の日。ゴールデンウィークと考えれば最終日――。


 オレたちカップルは、近所にある運動公園の芝生の上にいた。

 付け加えるのなら、あぐらをかくオレの足の間に、綾音が仰向けの体勢で頭を乗せてる状態だ。

 この場合も膝枕って呼び方であってるんだろうか?


「……別に見惚れてはねえよ」


 ニヤつく顔を見つめながら、オレは綾音の言葉を否定する。


「ウソだー? 誤魔化したっしょ今」

「誤魔化してねえって。色々考え事をしてたんだ」

「考え事?」

「ああ。お前のことを考えてた」

「ふぇ!?」


 逆さ向きになってる綾音の頬がわずかに赤く染まる。


「ど、どーいうことっ?」

「髪の毛綺麗だよなとか、目や肌が綺麗だなとか」

「ちょっ!? ちょいタンマ! 綺麗連呼し過ぎ! 恥ずいってば!」


 言葉通り恥ずかしいのか、綾音は片手で目元を隠してしまうと、もう片方の手で待ったをかける。


「じゃあ八重歯が可愛いとか、今日の服装のオーバーオールが可愛らしいとか」

「だーかーらー! 言葉が変わればいいってもんじゃないし! てかさ! それやっぱ見惚れてたってことじゃんか!」

「お? バレたか」

「む〜〜っ!!」


 綾音の顔が更に赤くなった。見た目はギャル風だけど、こいつは至って純情な女の子だ。


 綾音がギャル化したのは、中学時代にオレが活発な女子に気があったのを知ったことで、高校入学に合わせてイメチェンをしたからだった。

 好意を持っていなかったオレに振り向いてもらいたい一心で、自分の内や外まで変えてしまった綾音。その一途さがまた愛おしくなってくる。


 けど内面はまだまだ、黒髪&眼鏡着用時代だった頃の、恋愛下手で内向的な性格が抜けてないらしい。


「バカ……ユーヤのバーカ、バーカ」


 頬を膨れさせて拗ねる綾音は、横向きになるとそんなことをぼやいていた。

 返しが子供かと言いたくなるオレがいる。


「おいおい、拗ねるなよ」

「拗ねてないし……ふーんだ」


 どの口が言うのやら……。


 しかし、このまま機嫌を損ねられ続けるのも困るので、オレは彼女のご機嫌取りをすることにした。


「お詫びにそこのクレープ屋で何か買うからさ。機嫌直してくれって」


 オレの視線の先には、キャンピングカータイプのクレープ屋さんがあった。

 それを指差しながら綾音に打診する。


「……ックス」

「え?」

「デラックスフルーツクレープ」


 ん? なんかそれって一番高そうな予感が……。


「マジ?」

「マ。あたしの心はすっごく傷ついたのに、彼氏であるユーヤは値段で躊躇(ちゅうちょ)するんだね……? 酷いよぉ」

「うくっ……」


 思った通り高い奴かよ。てかメニュー知ってるくらいには利用してるのな。


 綾音が両手の甲で目元を隠す。「ぐすんぐすん」と泣いている素振りを見せる綾音だけど、間違いなく嘘泣きだ。

 しかし、分かっていても抗えないのが惚れた男の弱みな訳で。


「分かったよ。買えばいいんだろ買えば」

「やったー♪」


 ほら見ろ。やっぱり嘘泣きじゃねえか。


 泣きマネをやめた綾音は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

 約束だし、仕方がないから買いに行こうと思って足を崩そうと――したんだが、重みのせいでその場から動けない。


「おい綾音。どいてくれないと買いに行けないだろ」

「んー…………まだいい」

「いいのか?」

「うん。買うのは確約なんだし、あとにする。それにもう少し……」

「もう少し?」

「ユーヤに触れたまま寝ていたいんだもん♡」

「っ!?」


 仰向けになり、蕩けた幸せそうな顔で見つめてくる綾音。そんな顔で言われたら反論のしようがない。

 可愛すぎるだろオレの彼女。マジで可愛い。


「にゃははー♪ 顔が真っ赤だよユーヤ?」

「そ、そうか?」

「仕返し成功だしー♪ なんだけど、もう一個お詫びが欲しいなー」


 わがままなお姫様だ。オレは、まだ何かを所望するのかと聞き返す。


「えっとね、頭なでて欲しいなぁって……♡」


 言いながら気恥ずかしそうな顔をする綾音。その目が、オレに撫でられるのを待つかのようにスッと閉じる。

 たまに大胆に、ときには悪戯好きにもなるのが猫属性の綾音だ。そんな彼女が照れてまでして欲しいことを口にするもんだから、オレはついつい叶えたくなってしまう訳で。


「ったく、しょうがないな」


 面倒臭さを醸し出した照れ隠し。自分でも分かってるけど、オレは相当な捻くれ者だ。

 本当は髪の毛をクシャクシャにするくらい撫で回してやりたかった。それだけ綾音に触れていたいんだ。


 だけど、女の子の髪をそんな風に雑に扱う訳にはいかない。だから優しく、大切なものを扱うように手の平で触れ続ける。


「ふふっ♡ くすぐったーい♡」

「我慢しろよ。お前が言い出したんだから」

「わかってるし♡」


 幸せだ。本当に幸せな時間だ。

 他の何も見えない、聞こえない。それだけオレは、綾音と過ごす時間に没頭してしまっていた。


 とはいえ、知り合いに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。からかわれるのはごめんこうむるので、撫で続けながら周囲へと目を配った。


 遠くでは親子が仲良く遊んでいたり、オレたちみたいなカップルがクレープの食べさせ合いをしている。

 みんな幸せそうだ。悩みも苦しさもなさそうな顔をしてる。


 きっと一年前のオレだったら、妬みも混ざって直視なんか出来なかったんだろうな……。


「むぅ……ユーヤが難しい顔になった」

「え? あ、すまん」


 視線を綾音に戻すと、あいつは目を開けてオレのことを見つめていた。

 目を開けてしまったのは、きっと手の動きが止まっていたせいなんだろう。


「どったのさ? そーいう顔されると気になっちゃうじゃんか」


 眉毛を八の字にさせた綾音が、手を伸ばしてオレの頬に触れてくる。


「言ってユーヤ。ちゃんと聞くからさ」

「綾音……。いや、そんな深刻な問題じゃないんだ。なんとなくさ、一年前のオレだったら、こんな風に過ごせてなかったんだろうなって思って」

「恋人と芝生で膝枕?」

「まあ、それもあるけど。……前なら周りのさ、幸せそうな人たちのことが目に付くと、にらんだりとか、不機嫌な顔になってたはずなんだ。今は自然に、それを受け入れられるっていうか。オレもだいぶ変われたんだなぁって考えてた」


 オレは気恥ずかしくなり、綾音を撫でていた手で自分の頭をかいた。


「なるほどね。そーいう意味の顔だったのなら、あたしから言うことはないかな。あるとすれば……うん。ユーヤが前に進めてることが素直に嬉しい」


 綾音が手を引っ込めながら微笑む。

 オレの事情を知る綾音だからこそ、そんな言葉が口をついて出たんだろう。


 昔、オレは手痛い失恋をした。好きになった相手の本質が悪女で、振られた挙句、盗み聞きする形でその事実を知ってしまったんだ。

 結果、中学校の卒業を前にしてオレは人間不信に。特に馴れ馴れしく関わってくる女性を警戒するようになっていた。


 高校入学後は、しばらく自分の意思で孤立していたほどで、今みたいな幸せなんて毛嫌いするような人間だったんだ。

 綾音はそんなオレの事情を知っていた一人。だからこそ、今の前向きな発言に喜んでくれたんだろう。


「よっし! そんなユーヤの成長を祝わないとね!」


 綾音はオレの上半身を押してのけぞらせると、勢いよく起き上がった。

 動きに合わせ、長い金髪がフワッと目の前に広がると、シャンプーの良い香りが漂ってくる。それを感じながら芝生に手を突くオレ。


「っと……祝うってどうやってだよ?」

「決まってんじゃん。あたしがクレープをおごったげるってこと♪」


 振り返った綾音が目を閉じて嬉しそうに笑う。


「おごるって大丈夫なのか?」

「お金持ってきてるからへーきだし」

「ほー、そっか。……んじゃまあ、お言葉に甘えて。オレもお前が頼んだデラックスフルーツクレープって奴でも頼むかな」

「ええっ!? 一番たっかいやつじゃん!?」


 言質取れました。やっぱり一番値段が高いのじゃねえか。


「お前もリクエストしてただろ」

「ぐぬぬ……痛いところを……! むぅ……しょうがないにゃあ」


 そんなこんなで、クレープを買うために二人揃って立ち上がり歩き出す。オレの腕には当たり前のように綾音の腕が絡みつきながら――。

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