Episode 59 Lost
--ロイド視点--
さて、建物内部までは潜入できなくとも、とりあえず近くまではたどり着いた。
これからどうするか。
どうすれば、この巨大な壁の先へ行けるのか。
門の奥には当然警備もいる。
アイツ、クラウスが来るのを待つってのも、あの様子じゃ当分は戻って来れなそう。
とすると、やるべきことは………
「ここに残ってる奴等の味方のフリをして……は厳しいか」
そう考えていると、ふと思い出したことがあった。
「サーディア、そういえばどこに置いたっけか」
あんな小型メガネみたいな見た目してる割に、出来ることはかなりある。
全ての機能を把握してはいないが、知っている限りで出来ることは………
外部との連絡はもちろん、透視や盗聴、熱感知や機械人間との会話。
自身の心拍や写真及び動画撮影、音が聞こえた方向や距離の特定。
等々。
元々軍事用として作られた物らしいが、あまりにも機能が多く感じたのを覚えている。
サーディアさえ入手出来れば、ディクソンの場所の特定も行けるかもしれない。
「いずれにせよ、内部に入るのには慎重に…………行く必要は無さそうだな」
偶然窓を見ていたら、そこにディクソン本人の姿が見えた。
そこまで距離も遠くはない。
「強行突破だな」
そうと決めたからには、逆に注目されるよう堂々と門をくぐる。
「ん?あの子は確か……」
「ロイド様じゃないですか!のこのこと帰ってきましたが、簡単に戻って来れるとは思わないでください!お仕置きが―――」
「帰って来た?違ェな……」
「……?」
「潰しに来た。もちろん、俺の意思でな」
--クラウス視点--
(全てを終わらせて来い。一緒には帰れなさそうだが、俺は海の向こうで待ってる)
ラインさんは去り際にそう言った。
そんなことを言うから気になって話を聞きに戻った。
聞くと、ここからアルケニアまでそう遠くないらしい。
ちゃんとした船に乗って帰るか半年以上待つかの二択。
船に乗れば二日で着くとのことだから船で帰ると言っておいた。
アレリウス家にいた時に聞いた「見えない壁」は
そして、詳しいことは口で説明できないが、アルケニアは酷い状況だから覚悟しておけとも言われた。
「……気になる、けど」
今はそんなこと考えている場合ではない。
終わらせる。
今この場から、この状況からは逃げたくない。
人が、いるから。
「! 眩し……」
ようやく外に出た。
そして、初めて外がどうなっているかを知った。
街が燃え、人の死体がごろごろ転がっていた。
「……こんなことして、何が……」
魔力の大量生産。
それが敵の目的。
魔力とはそんなに凄いものなのだろうか?
……いや、聞いた情報だけで凄いのは分かるけれども。
「急がな―――」
急がないと。
そう言おうとした時、すれ違った気がした。
「……!?エリス!?」
ラインさんと一緒に来たのか?
父さんと一緒にいるんじゃないのか?
そんなことが一瞬で頭を駆け巡った。
後ろを振り返り、もう一度見てみる。
エリスじゃない。
妹ではない。
少し似ているだけの別人だ。
ホッとしたような、残念なような。
直後に、こんな状況なのにそんなことを思ってしまった自分が嫌になる。
最近この調子が続いてばかり。
「……あれ?」
エリスに似た子はずっと一人でうろうろしている。
迷子にでもなったのだろうか?
「アンタ!さっきから突っ立って何してんの!?」
「えっ?」
「音聞こえなかったのかい!?」
「え?何か鳴ってましたっけ?」
「ああもう!付いてきなさい!早く!」
「え?あっ……少し待ってもらってもいいですか?」
「待たない!」
「ごめんなさいすぐ済みますから!」
そう言って、すぐに子供の傍に駆け寄り、話しかけた。
「君、親は?」
「……いない」
「分かった。付いてきて。
すみません!すぐそっち行きます!」
子供を抱きかかえて走っていった。
走って数十秒。
防空壕のようなところにたどり着いた。
いや、防空壕なのだろう。
「すみません。助かりました」
「いいから奥行きなさい」
奥に行くと、他の人が九人程いた。
「ん?誰だオメェ……」
「あ、実は―――」
「道端で突っ立ってるから拾って来たのよ。アンタ、ここら辺にいる奴じゃないだろ?服装が違う」
「あ、はい。色々あって……」
「……んま、詳しいことは聞かないからさ。ただ、しばらくしたら出てってもらうからね。食料とかもあげん」
「あ、はい」
防空壕って長期間いるんじゃなかったっけ?
優しいのだろうけど、流石にそこまではしてくれないか。
「ところで君、名前は?」
「……サリア」
「そうか。ごめんね。勝手に連れてきちゃって」
「………………」
「何歳くらいとかって、聞いてもいい?」
「………………9」
「9歳か!よく頑張ったね!」
……親はいないって言ってた。
だから、なのかな。
「じゃあサリ―――」
ころんと何かが転がる音がした。
小さな音。
だが確かに音がした。
音がした場所を見た。
「爆………!逃げ―――」
反射的にサリアをぎゅっと抱きしめた。
「痛っっっ………………!!皆さん!大丈夫です!?」
爆煙のせいで何も見えない。
見えないだけじゃなく、聞こえない。
聞こえないのが何よりも怖かった。
恐怖の中、数秒。
経ってようやく見えるようになった。
「………………ぁ………………」
もう人と呼べる形をしている者はいなかった。
一瞬で血と内蔵でいっぱいになってしまった。
そして、恐る恐る下を見る。
自身の右手の薬指と小指、そして左腕は肘から先が無くなっていた。
サリアに至っては、頭の前半分が飛び出ていた。
「ぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!」
また失敗
また助けられない
誰も
「なんだよぉぉおお!!何も……全っ然上手くいかねぇなぁ!!なんで!?」
「俺は助けられたってのに…………誰もっ……助けられないでっ!!」
「どうして俺だけいつも生きてるんだよ!!生きる価値なんて……もう既に死んでるのにぃっ!!!」
「俺だけ生きてたって……意味ねぇのにっ!!」
「…………………………………………」
「ハァ……ハァ……………………」
「ハァ……………………ハァ……………………」
……変わらないだろ。
叫んだって。
………………………
「ごめん、なさい………………………」
この戦いが終わったら、埋葬しよう。
ここにいる人達だけじゃない。
この戦いに巻き込まれた人全員。




