Episode 57 Benefacter
--ライン視点--
「これが、新兵器 ジェリコです」
「ほう……これが……この動画が本当だったらとんでもないものだな。あのG5をも超えるのでは?」
「いえ、G5はこれの20倍です。あれこそが最強の兵器です」
「G5はそれほどまで強いか……」
ディクソンはその動画を何度も繰り返し見る。
ただじっと、静かに見ていた。
「………聞いてもいいかな?何故君がここまで支援してくれるのか」
「あれ?言った気がするんですが……魔力の量産。その研究をいち早く完成させて欲しい。それだけです。我々も魔力が必要になりましてね」
「すまない。記憶を代償にしているのでね。所々忘れている部分がある」
「そうでしたか………でしたら――」
『ピリリリ!!ピリリリ!』
「鳴ってるぞ。私達のことは後回しでいい」
「………すみません。では―――」
そう言って一度外に出てみた。
だが誰からの連絡かが分かった途端、出るべきか悩んでしまった。
「エリス………」
向こうではどうなっているか、現在の状況を聞きたい。
だけど、そんな簡単に彼女と話すことはできない。
「………皮肉なものだな。魔物の源である魔力を使うしか術がないとは」
着信音が鳴り止んでくれない。
--クラウス視点--
登るのと違って、下るのは楽だった。
ルクスリアの口から左肩に向かう。
肩と言っても、肩甲骨部分だから移動距離はこれまでと違ってかなり短い。
「やっぱり攻めてきてるね……」
確かに、軍人らしき人々が大勢攻めてきている。
とはいっても、攻め込まれているのはザクトリア前部のみ。
比較的富裕層が多い後部までは来ていないようだ。
「えーで、ここの建物に入ってーの、
---
地下に行き―の、
---
奥に進んで、ハイ町長!」
3分もしない間に会えちゃった………
もっと時間掛かると思ってた。
「アストかーっ!結構早く来たんだな!」
「いや~お久しぶりです!」
「久しぶりに会えたというのに、まさかこんな状況になるとはな………」
「それで、例の鍵は?」
「ああ。この鍵だろ?持ってけ持ってけ。それで、お前さん達は何をするつもりなんだ?」
あっという間にここまで来て、あっという間に話が進んでいく。
ぶっ飛んだ作戦だった割には意外と順調に行ってる。
正直怖い。
というか、この町長さん何も聞かされてないのかよ。
「ちなみにこの鍵は?」
「サブアジトの鍵。といっても、アジトの地続きに出来た倉庫みたいなものだけどね。脱出の準備してくる。終わったらすぐ行くよ」
「……ちなみにどうやって脱出するんですか?」
「どうやってってそりゃあ、飛び降りるんだよ。もちろんパラシュート付きだから死なないよ」
「………ここ上空3万メートル以上ありますよ?」
「うん。そうだね」
「あ………が………」
あ、もうソアラさんがダメそうだ。
目が死んだ。
そんなに体力ありそうな人じゃないし、当然か。
「……ともかく、あとは攻めればいいんだよな?」
「そうそう。君の家をぶっ壊すことになるけど、いいよね?」
「構わない。元々そのつもりでコイツに付いてきたんだから。想像の100倍は戦力が足りなかったが」
「………え?」
元々、自分の実家をぶっ壊すために俺達に付いてきたってこと……?
ロイドは何のために?
前と違って、あんまり喋らないから何を考えているのか全然分からない。
大丈夫だと良いんだけど………
「あ、そうだアストさん。このお菓子袋、いつ頃開けた方がいいですか?」
「そうだね………すごい痛みに襲われたら、かな? それじゃ!」
「?………分かりました」
一見ただのお菓子が入っている袋だが、お菓子以外にも何か入っていそう。
その勘はどうやら当たっていたようだ。
何故こんな方法で渡したのかは謎だが……
そもそも、『凄い痛みに襲われたら』とは、どういう状況なのかは分からない。
ただ、その状況になるまではこの袋を守っておかないと。
「じゃあ俺達も行くか」
「確かこっちに行けば―――」
その時、かすかに声が聞こえてきた。
物音とかではなく、確かに人の声だった。
「こっちに誰かいるぞ!?」
声が聞こえた方向に真っ直ぐ進んだ。
「ワシは!?お前さん達が何やるか聞いてないんだけど!?あ、ちょっと!行かな―――ったく、最近の若いもんは………」
前に進み続けると、見覚えのある扉の前にたどり着いた。
「ここ……俺が捕らえられた拷問室だ」
まさかまたここに来るとは………
それにしても、俺が抜け出した後に誰か入れられたのだろうか?
そう思いながらも扉を開けた。
扉を開いた先に、確かに人がいた。
静かに椅子に縛り付けられていた。
「生き……てるの?」
指は全て無くなっていて、体中に刺し傷がある。
顔は包帯で巻かれていてよく分からない。
恐らく想像以上に酷いのだろう。
「………敵ではないよな!?味方なのか!?」
「生きてる!?」
俺達の話を聞いて、敵ではないと思ったのだろう。
「………味方かどうかは貴方の返答次第です」
ソアラさんは落ち着いた声色で話し始めた。
「まず最初に聞いておきましょうか。貴方、名前は?」
「………ケアラ・マグワイア」
「え?」
「……………あ、あなたは……何故捕らえられたのですか?」
「………言えない」
「では、生年月日は?」
「記憶に関してはバッチリだ。やっぱり貴方達は―――」
「じゃあ!!私のことは!!ソアラ・エリアスのことは!!………覚えていますか?」
「………こりゃあ、運が良かった………」
「え?」
「忘れるはずないよ、ソアラ」
………どうしよ。
生きてるのはかなり驚いたが、これは………
……………俺、薄情な奴だな。
いやまあ、そんなにケアラさんと関わりがあった訳では無いけども………
「あ、じゃあソアラさんはケアラさんを解放して、鎮痛剤でも打っといてください。ロイドと俺とで行こうか」
「あ、あぁ………」
「待て、まさか直接叩きに行くつもりか?」
「あーっと………正解です」
そう言うと、少し驚いた後にため息をついた。
「この先にある橋は爆破された。地上軽油じゃないと行けないぞ」
「爆破って………もしかして敵に移動ルートとかバレてる可能性は?」
「いや、多分関係無い。爆発の振動がザクトリアで作られているものとは少し違った」
よく分かるねーそんなこと……
「分かりました。じゃあ行きます。ソアラさん、連絡があったら起動してください」
どうしようもない最悪の事態の時にソアラさんに連絡する。
その後はソアラさんがルクスリアの血液採掘場に爆弾を放り込む。
そうなったら―――
「あれ?………………ロイド、隙を作るから先に行ってて」
「2人で倒した方が早いだろうが」
「いや………2人だけで話し合いたいんだ。この人は、絶対に殺したくない。怪我もして欲しくない」
「なんで………」
「俺にとって、親同然の人だからだよ。ラインさん」
突然目の前に現れた、俺の恩人。
この人無しではここまで生きられなかったと思う。
それがなんで。
なんで敵意剥き出しで来るんだ。
「ロイド、だったか?行くんだろ?進みなよ」
「………え?」
「君に用は無いからな。ほら、行きたきゃ行けよ」
「それじゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ」
「あ、行ってらっしゃい………」
相手が相手。
気が緩んでしまう。
油断なんてしちゃいけないのに。
「………まあなんだ。とっとと帰る予定が、思ったより時間が掛かってね。だけど、やっぱり一緒に帰れなさそうだよなぁ………」
「俺は………帰りたいな。さっさとディクソンって奴を倒して、魔力の大量製造方法の研究を止めたら、一緒に帰れるかな?ああ、でもオラシオンを見つけて破壊もしないといけないし………」
今はこんな世界で大変なことをやってるけど、帰りたい。
またエリスと会って、
「え?なんで奴等のやってる研究を知っているんだ?」
「アストって人に教えてもらったんです」
「そのアストってのは、誰なんだ?」
「北原さんの親友らしいです!北原さんの妹さんとも付き合ってるらしくて―――」
………あれ?
違う。
そんなこと俺は知らない。
魔力の大量製造方法の研究をしていることも、オラシオンというものがあるというのも知らない。
何より、アストさんのことなんて俺は何も知らないはず、何も聞いていないはず。
なのに、なんで俺は知ってるんだ?
「………クラウス、お前がゼウ………北原さんの生まれ変わりだってのは聞いた。信じたくなかったけどな」
「え?いやまあ……確かにそうなんですが」
「今、俺達の世界では北原が敵だ」
「………え?いや………そんな………まさか………」
聞きたくない。
戦いたくない。
どうか、勘違いであって―――
「決めたぞ………俺は……お前を殺す。三英雄が一人、ライン・フェルターが相手だ。覚悟を決めろ!!クラウス!!」




