Episode 48 Death
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「これで………良かったのかな………」
「知らねーよそんなの」
「…………………………」
平和がいい。
戦争とかではなく、話し合いで解決したい。
俺は数年前まで、平和しか知らなかったから、ここにいる人達にも知って欲しい。
ほとんどの人は死ぬのが怖いと思ってるはずだから。
「さ、着いたぞ。お前のことは話してあるから」
「なんだよお前、優しいじゃん」
「あぁ!?そう命令されたからやってるだけだってーの!」
………?
コイツ、ツンデレか?
ツンデレなのか?
「まあ、色々ありがとう」
「いいよそんなん」
一応サーディアの電源は切った。
一つ一つの選択がここまで重要になるとは思いもしなかった。
1回でもミスをしたら即終了。
世界平和の実現とは、分かっているけど難しい。
俺は政治関係は詳しくないけど、俺の行動でいい方向になるのなら手伝いたい。
そもそも、俺の存在がこの世界にとってどれほどのものなのか。
「始めまして。メリス・アレリウスと申します」
扉が開き、最初に出てきた年老いた女性が口を開いた。
「あ、どうも。クラウス・アレリウスです………」
「あなたが………ねぇ………とにかく、今日は寝ましょう。疲れたでしょう?明日色々と教えてくれるかな?」
「俺は全然大丈夫ですけど………」
「いいからいいから」
「はぁ………」
「部屋まで私が同行します。付いてきてください。お荷物、私が持ちますよ」
「は、はぁ………」
世話人やボディーガードみたいな人もいる。
随分とまぁ………
金持ちなのが良く分かる。
だが以前想像していた場所と違っていた。
家は確かに他の人と比べれば大きい。
だが、いかにも高そうな壺や絵画は見当たらない。
「こちらです。狭い部屋ですみません」
「いえいえ全然!」
家は確かに大きい。
だが、贅沢な家というイメージはない。
アレリウス家が政治を裏で操っていると聞いたから、想像と全く違う。
………………………………
とにかく、今は寝よう。
世界平和だとか、望んでるだけじゃ叶えられないし、俺が考えてどうこう出来る問題じゃない。
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「あれ?この家のリビングどこだ?」
「クラウス様、お困りですか?宜しければ、私が案内しますよ?」
「あ、お願いします」
あんまり眠れなかった。
ここに来てから考えることが多すぎる。
今後どうすればいいかとか、そもそもここは一体どういう所なのかとか。
毎日そんなことばかり考えて寝てる。
「あら。おはよう」
「えっと、おはようございます………」
「よく眠れた?」
「いえ、あんまり………」
「そう………」
「あ、この人!?」
そう聞こえて振り返ると、そこには子供が3人いた。
子供の母親らしき人も2人来た。
「お前新しい奴なんだってな!よろしくな!」
「あ、うん。よろしくね」
「こらこら。この人大変だったんだから、今はそっとしてあげなさい」
「俺は大丈夫ですから。というか、色々教えて下さいよ。俺何も分かってないんですから」
「………そう。分かったわ。私はフィーネ。」
「私はアリス。あなたのお母さんの………妹よ」
「え?」
完全に忘れていた。
ここはアレリウス家。
ここにいる人の中には母さんの親族もいる。
色々なことを考えていて忘れていた。
「あの、俺、母さんについて聞くためにここまで来たんです。本当は他にもありますけど、1つの目的で………」
「そう。分かった。分かる範囲で教えるね」
「ありがとうございます。ですけどその前に、この世界ってなんなんですか?」
「何だって言われても………ねぇ………」
「ああ、ごめんなさい。えっとじゃあ………ライン・フェルターって人物を知ってますか?」
「ええ。時々ここに来たりするから会ったことも話したこともあるよ」
「話したことも!?………じゃあ、ラインさんがどこから来たか知っていますか?」
1つの疑問はこれだ。
ここでは、魔法を使っている人が少ないにも関わらず、魔力を受けても影響がない人しかいない。
一通り調べたが、魔法を使っちゃいけないわけではなく、使えないそうだ。
そして、結界の外に普通に人間が住んでいるのか。
某巨人漫画みたいに壁の外に人がいる、というのも当然考えていた。
だが、ここにいる人達は俺がいたあの場所について知ってる人はいない。
「昔調べたことがあったけど、大した情報は出なかった。海の向こう側にあるのは分かっているけど―――」
「見えない壁があるせいで俺達、閉じ込められちまってんだよ!」
「見えない壁?というか海って………」
「伝承で海とは巨大な塩水地というのは分かっているけど、正直、あれが海なのかすら分からない。見えない壁っていうのはこの子が言ったようにこの世界の周りにあるもの」
結界みたいなものか?
しかし、あれが海なのかすら分からないとはどういう意味だ?
「それで、見えない壁っていうのは仕切りなんじゃないかって言われているの。世界をいくつかに分ける仕切り」
「仕切り、ですか?」
「ラインさんにも調べてもらったら、確かに見えない壁というのがあることが分かったそうよ」
「え?それいつですか!?」
「確か………1週間前くらいかしら?」
1週間前にも来てたのか。
また会えるのかな?
しかし、だったらラインさんはどうやってここに来れた―――
………いや、転送装置を改造したら行けるのか?
「あ、皆いる!お婆ちゃんが苦しみだしたの!」
「え?すぐに様子を見に行くわ」
「ええお願い!次発作が起こったら死ぬかもって言われてたから一応、覚悟しといて」
「………あ、君のお婆ちゃんだよ。君のお母さんの、お母さん」
「分かりました。行きましょう」
そんな人がいるならもっと早く言って欲しかった。
死ぬ前に、一言、一言でいいから言いたいことがある。
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「お婆ちゃん!ソティスの息子さんが来てるよ!」
その人の口には酸素マスクが繋がれていて、瘦せ細っていた。
俺ですら、この人がいつ死んでもおかしくない状態にあるのは分かる。
「………………………………………」
言葉は無い。
目だけがこちらに向いている。
「お婆ちゃん!」
「婆ちゃん!」
「お婆ちゃん!血は繋がってなくても、私達、ずっと家族だから!」
「………………………………」
返事はない。
一瞬笑って見せたが、何か思い残すことがあるような表情だ。
「………………ソティスは………今………生きているの………?」
小さな声でそう言った。
「5年前に………もう………」
「………………そうかい………」
気付けば、この場にいる者は10人、20人、どんどん増えていった。
「聞いて………いいかい………?」
「はい!何でも!」
「………………ソティスは………………幸せそうだったかい?」
そう言われ、ハッとした。
5年も前のことでも、はっきりと覚えている。
テストでいい点数を取った時。
夜ご飯を食べて「おいしい」と言った時。
妹が生まれた時。
あの時の表情は、間違いなく―――
「はい。とても、幸せそうでしたよ」
「………………………………」
「お婆………ちゃん………………?」
「すみません、どいてください」
医師がやってきて、生死を確認する。
「………………ご愁傷様です」
「あぁ………………」
「婆ちゃん…………婆ちゃん………………!」
死んだ。
目の前で死んだ。
「クラウスくん、見て。お婆ちゃんの顔」
「………え?」
「さっきまでと違って、すごい、嬉しそうな顔でしょ?」
「………………ええ。そうですね」
死んだ。
人が目の前で死んだ。
俺じゃ助けられない。
だけど、後悔はない。
俺は、今まで生きた中で普通に死んだ人を見たことが無かった。
人は死ぬ。
そんな当たり前なことを忘れてしまうくらいに、俺にとっては衝撃的だった。
この人は、凄く幸せそうに死んだ。




