それは突然に
何となくな着地を目指しつつ、見切り気味に発車でごさいます。
不定期極まりないかと思いますが、生温くお付き合い下さい。
私は普通の、一般的な、唯の社会人である。
繁忙期に入る今時分は、学生時代からの友人達から比べれば、それは忙しいけれど。
それでも特殊でも特別でもなく、普通の社会人。
今年で26歳になる私に、母はそろそろ良い人はいないのか?と、心配し始めた様だけど。
大学生時代から付き合っていた彼とは、去年残念ながらお別れして、それ以来気楽な身でいる。
就職と同時に実家を出た私は、ワンルームマンションで独り暮らし。
本当は賃貸料金をもっと抑えたかったから、アパートメントの方が良かったのだけれど、若い娘の独り暮らしは、オートロックが最低条件だと父に言われてしまい、仕方なく今の部屋に決めた。
住めば都・・・キッチンが少し狭い事を我慢すれば、今の部屋は十分私のお城になった。
そんな只々普通の一般人の私に、超級の不幸が降り掛かったのは本当に突然で・・・
繁忙期で忙しくて、クタクタに疲れた仕事からの帰り道、目の前が有り得ないくらいに強く光り、私は思わず反射的に目を瞑る。
それはもう、反射だった。
あっ・・・と思った時には瞑ってしまっていて、出しかけていた足を踏み込んでしまっていて・・・
後から思えば、せめて足は踏み込まなければ良かったかな・・・?なんて、しても仕方ない後悔をしたけど、それは見事に後の祭り。
程なく光りは収まり、目を開いた私は唖然とした。
仕事の帰り道だったはずなのに・・・後2回ほど角を曲がれば、自分の家が見える場所だったはずなのに・・・目に映るのは見覚えの無い光景・・・
「・・・・・は?・・・何これ・・・・・てか・・・何処、ここ・・・・・?」
道にいたはずの私は、見覚えの無い広い石造りのホールの様な場所で、鞄を抱きかかえ一歩出した足を踏みしめる様にして立っていた。
広いホールの様な場所に、結構な人数が集まっているようで、何を話しているかまでは聞き取れないけれど、ガヤガヤと大人数が話している声が聞こえる。
なんとなく、大きな声は聞こえて来ないけれど、全体的に興奮している様な雰囲気を感じながら、無意識に眉間に力が入っていく。
斜め後ろ辺りの近場から、『やった!』とか『成功だ!!』と言う声が聞こえてそちらを振り返れば、黒のくたびれた感じの揃いのコート?フードが付いているから、ローブと言うのかも知れないけれど、それを身に纏った男性が5人、疲れた顔ながら喜び合っている。
― この顔知ってる・・・繁忙期終わりの同僚や上司だ・・・ ―
疲労と達成感が綯交ぜになった表情に、思わずそんな事を考える。
その5人組を確認してから、再び周辺へと意識を向ければ、だいたい5〜6人一組の様な感じでチーム分けされた様な集団が、10組ほど居るのが確認出来る。
ほとんどの人達が、疲労困憊で力尽きた様にしている中、比較的まだ気力がありそうな雰囲気を出しているのは、さっき私が確認した5人組と、私から見て前方に有る1段高いステージの様な場所の近くにいるチームだけの様だ。
ざっくりではあるものの、一通り周辺の様子を観察して、【何も解らない】と言う事が解った私は、斜め後ろの5人組に話を聞こうと、再度そちらに視線を移そうとした。
その瞬間、前方のステージ状の場所でバタバタと数人が動き出し、慌ただしくなりだす。
程なくして、ステージの上中央辺りに、遠目で見ても他の人達と雰囲気の違う・・・何と言うか、偉そう・・・傲慢そう・・・たぶん、高貴な雰囲気?たぶん・・・きっと・・・そんな感じの人が現れる。
遠目でも解る、長身で細身だけれどガリガリに細いと言うわけではなく、しっかりとした身体付き。
髪は鮮やかなブルー・・・纏う衣装は遠目からでも高そうに見える。
そんな感じでステージ上の人を観察していると、周りから『殿下だ』とか『殿下がお出ましに』とか言う声が聞こえ、その場に居る人々が次々と膝を付き傅きはじめる。
あ然と周りを見回していると、ステージ近くに居る少女が1人、その場で立ち尽くして居るのが見えた。
「良くぞ参った。異世界からの、聖女殿!」
ステージ上の『殿下』と皆から呼ばれたらしい人が、少女に向かいにこやかに右手を差し出す。
それを見ながら私は・・・
― ・・・は?異世界・・・?聖女・・・・? ―
そう心で呟き、半眼になった。
パニクるより先ず観察・・・冷静大事!と思いつつ、実はパニックで動けないとか、良くある話しです。