第8話、まんじゅう先生の48の得意技
第8話、まんじゅう先生の48の得意技
3人に励まされた理恵は、優に会うために面会に行こうとしたのだが、こういう時に限って外せない仕事が入る。
書籍化関係の仕事だったので、さすがの先生もサボれなかった。
出版社に出向いていた理恵。
ジャージ姿ではなく、ちゃんとした背広姿で化粧もしていた。
それだけ大事な用件だったのだ。
「何とかして時間を作って、お母さんに連絡して面会出来るようにしてもらわないと、いけないンゴねえ…………(。´・ω・)ん?」
理恵がマンションの階段の下まで来ると、階段の下で荷物をぶちまけて倒れている人がいた。
右腕と右足が無くて松葉杖を使っている女の子だった。
「ふぉっ、優ちゃん⁉」
どうやら理恵の知らないうちに優は退院していたようだ。
右腕と右足以外は、そんなに酷い怪我でもなかったからだろう。
理恵は優に駆け寄って、安否を確かめる。
「優ちゃん、大丈夫?」
「あっ、先生。すみません、平気なので……」
と理恵に謝りつつ、ぶちまけた荷物を拾う優。
そして荷物を持ちつつ階段を登ろうとする優だが、松葉杖と荷物のバランスが見ているだけで悪いとわかる。
階段を滑り落ちて、怪我を増やしそうだ。
それに、悪いことしていないのに、優に謝ってほしくなかった。
「ふんごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「へ⁉先生?」
大声で叫ぶ理恵に、驚く優。
さらに優と松葉杖と荷物を脇に抱えて、凄いスピードでマンションを駆け上る。
優の部屋の7階まで、あっという間だった。
「すごい……」
優も驚いて、顔をポカンとさせていた。
まんじゅう先生の48の得意技のひとつ、特盛の牛丼以上の重いものは持ったことないの、と言っていたあれは嘘だ、本当は結構腕力あるンゴ、だ。
技名が長い……
優の住んでる部屋に入るとゴミ袋や洗濯物が溜まっていた。
以前から優がやっていたのだが、怪我をしてからは作業が遅くなり少しずつ溜まっているのだった。
「優ちゃん、部屋の合鍵を貸すンゴ。暇な時に掃除してあげるンゴよ。」
「えっ、そんな先生にわるいですよ。」
「わるくないンゴ‼」
理恵は優の頬を指で摘まんで伸ばす。
痛くないように気を使いながら……
「大丈夫だから……それに悪いことじゃないんだから、謝るのはやめてほしいンゴ。」
「先生……」
優は自分の分の部屋の鍵を理恵に渡した。
翌日、優が自分のマンションの部屋に帰ると、驚くほど部屋が綺麗に掃除されていた。
洗濯物も全部洗って畳まれている。
隅々まで埃がなく、正月の大掃除より頑張った感じだ。
「先生、すみま……じゃなかった、ありがとうございます。」
と笑顔で御礼を言ってくる優に、少し明るさが戻った気がする。
満足そうに理恵も、
「別にたいしたことじゃないンゴ。」
と笑顔で自慢げに言う。
これは、まんじゅう先生の48の得意技のひとつ、試験前や締め切り前になると部屋の掃除とか頑張ってしまうよね、だ。
まんじゅう先生は学生の頃から、試験前になると部屋の掃除や模様替えをやっていた。
一人で重いタンスなどを運んでいたので、このころから腕力がついたのだった。
優の部屋の掃除も頑張ったのは、もうすぐ締め切りの仕事があるからで……
また締め切り前に苦しむ事になるのだろうが、毎度のことなので大丈夫だろう、多分。
と考える理恵だった。
続く