第3話、【グロ注意】失って気付く大切なモノ
第3話、失って気付く大切なモノ【グロ注意】
優は嬉しそうに理恵に色んなことを話す。
友達たちがスマホを持っているのに、自分はまだ持っていないので友達に借りて動画を見ていること。
その動画の料理を真似して作ってみたこと。
優が陸上部に所属していて、朝からクラブの朝練があること。
もうすぐ陸上の大会があること。
テスト期間が終わると林間学校があり、楽しみにしていること。
今夜、お母さんと豪華なレストランに行くこと。
理恵は話し続ける優を見つめながら話を聞く。
普段は理恵は喋るほうなのだが、あまり喋ると勢いで言った嘘のボロが出そうなので優と会話する時は、ほとんど優が話して、理恵は聞く側だった。
っていうか、一体いくつ嘘をついているのやら……
「優ちゃーん!!」
理恵と優がコンビニ前まで来ると、優を待っていた友達二人が手を振っていた。
優は駆け出しながら、理恵に振り向いていう。
「先生、行ってきまーす。」
「いってらっしゃい。」
理恵は笑顔で優を見送る。
コンビニに入ると、理恵は力が抜けて、いつもの感じになる。
「ンゴ、優ちゃんと話す時は就職の面接や編集部での書籍化の時みたいな、マジメモードになるンゴねえ。」
まんじゅう先生の48の得意技の1つ、一時的に猫かぶりで誤魔化す、だ。
他に、締め切りギリギリでもツブヤイターをする、という得意技もある。
得意技なのか?
「雑誌、雑誌っと……おっ、あったンゴ。」
理恵が見つけた雑誌を手に取ろうとした時、目の前の歩道を凄いスピードで車が走っていった。
「ふぉ⁉」
ビックリする理恵。
すぐに何が起こったのか理解できなかった。
だが、外から数名の悲鳴が聞こえて何が起きたのか理解する。
コンビニの店員も驚いていて、理恵と一緒に外の様子を見に行く。
「……」
その惨状を目にして、理恵もコンビニ店員も言葉を失う。
まだ登校時間には遅かったので人が少なかったが、それでも何人もの子供が血塗れで倒れていて、泣き叫んでいた。
コンビニの店長さんも出て来て驚いていたが、そこは年の功なのか店員に指示を出し、警察や救急車を呼ぶように言っていた。
「あっ、優ちゃんは⁉」
理恵は優が大丈夫なのか、学校の方向に走る。
悲鳴を聞いた近所の住人たちも、スマホで連絡したり、手当てをしたりしていた。
しばらく行くと、車が壁に衝突していた。
周りに女の子が倒れていた。
制服が優と同じだったので、優の友達なのだろう。
確証がないのは、つまり……
「うっ……」
呻くような声がした。
この声は優の声だった、理恵は声の聞こえた車の近くに。
運転席を覗くと顔を歪めて息絶えている高齢者の運転手が倒れていた。
運転中に発作でも起こして亡くなったのだろう。
「あっ、優ちゃん‼」
優は車と壁の間に挟まれていた。
優の右腕と右足は、理恵が目をそむけてしまうくらい、ぐちゃぐちゃになっていた。
小説で死体の話を書いていても、さすがにリアルの死体やグロい怪我は辛い。
それでも理恵は優の安否を確認しつつ、スマホで救急車を呼ぶ。
到着するまで応急処置の方法などをスマホで聞き、優に施す。
「うっ……ぐっ……」
「優ちゃん、しっかり。」
警察や救急車が到着して、優は助け出される。
救急車で運ばれて行く優を見送る理恵。
徹夜明けの疲れと一緒に、一気に疲れた理恵は、買い物をせずに部屋に戻り、泥のように眠るのだった。
寝ていても強烈すぎた出来事に、理恵は思う。
『優ちゃん、大丈夫かな……』
続く