第2話、戯言と見栄と後悔
第二話、戯言と見栄と後悔
理恵が優に出逢ったのは、もう5年以上前だった。
その頃の理恵は就職浪人中で色々と疲れきっていた。
「はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
凄く大きな溜息を吐く理恵。
既に100以上の面接に落ちていて、精神も肉体も辛かった。
受ける会社を何度も妥協しても採用されず、始めに何がやりたかったのか忘れかけていた。
『実家に帰るのも、考えるンゴねえ…………………………』
という考えが理恵の頭に過る。
トコトコと理恵に近寄る足音。
理恵は顔を上げて誰が近づいて来たのか確かめる。
目の前に赤いランドセルを背負った小さな女の子が立っていた。
初めて会った時の優だった。
今の姿を色々と小さくした感じだった。
優が心配そうに理恵に尋ねる。
「おばちゃん、大丈夫?」
「おっ、おば……」
怒りそうになる理恵。
まだそんな年じゃないンゴーーーーーーー!と怒鳴りそうになるが、優が本気で心配しているようなので、怒ることはなく元気になる程度になる。
「離婚したの?お母さんも同じような時があるから……」
「離婚⁉うーーーーーん。」
理恵は年齢イコール彼氏いない歴の人だった。
否定するのも、なんだか釈然としない理恵は、どういう事にして誤魔化そうと考える。
そこで思い付いた。
「いやー、違うのよ。私は、こう見えても女流作家なのよね。ちょっと次の作品のアイデアに詰まって考え込んでいたのよ。」
この頃の理恵は、まだ作家ではなかった。
まあ、趣味でネット小説を投稿していたが、それで儲けてはいなかった。
「女流作家?」
「うーんとね、ほらテレビアニメあるじゃない。あれの字ばかりの本を書いてるのよ。」
そういう説明の方法も、いかがなものかと……
優は目を輝かせて尊敬の眼差しで理恵を見て言う。
「アニメの話を作っているんだ、凄いなあ。どんなアニメの話を書いてるの?」
「へ?えーーーーと、ねーーーー。」
優は小学生だったから、多分深夜アニメは見ていないだろう。
理恵は、そう考えて大人気の深夜アニメ作品のタイトルを言う。
「……………………SBOっていう作品かな。」
SBOとは、正式名称はソードバトルオフライン。
黒い双剣の騎士キリヒトが、ヒロインの女の子とイチャイチャしたり、子供を作ったりして、塔を攻略していく冒険の物語だ。
何度もアニメ化されたり、映画化されたりしている、大人気作品だ。
勿論、理恵の作品ではない。
「へえ、凄いんだねえ……」
優は目をキラキラさせて、感心したように言う。
純粋な子供に尊敬される、悪くない気分の理恵。
更に調子に乗って理恵は言う。
「他にも、どうまちって作品もね。」
どうまち、正式名称は洞窟で彼女を見つけるのは絶対に間違ってる、と言う。
青年エロが、結婚を前提に付き合ってくれる彼女を作るため、女神エウロペのギルドに入り洞窟を冒険する物語だ。
これも、何度もアニメ化と映画化されている。
勿論、これも理恵の作品ではない。
「凄い先生なんだねえ。」
この時から、優は理恵の事を先生と呼ぶようになり、まんじゅう先生の初めてのファンになった。
理恵のその場の勢いで言う戯言だったが……
日が暮れるまで優と喋って、優が帰る時間になると手を振って別れた。
「趣味のネット小説を、もう少し頑張るンゴねえ……」
この後、頑張って書いた小説が人気になり、書籍化された。
それから、本格的に女流作家として頑張っていくことになる。
だが、たまにツブヤイターのコメントで理恵が、
まんじゅう@生誕祭「SBO、どうまち、私が作ったことにならないかな?」
と、つぶやく。
ファンから、『お前、何言ってるの?』『また先生が変な戯言を始めたよ。』『あっちのファンに刺されますよ。』と返信がくる。
今でも優に言った嘘を訂正できないまま、後悔している理恵だった。
「優ちゃんに嫌われたくないンゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
続く