(元)剣聖をなめんなよ?
「もっと速度を上げてくれ!このままでは追いつかれる!」
「む、無理ですよ!馬もこれが限界なんですって!」
父さまと御者の男の人が叫んでいました。後ろを猛スピードで追いかけてくる熊の魔獣から逃げるきるには、馬車の速度が足りません。
「父さま、私が囮になれば・・・」
「馬鹿を言うな!一人娘を死なせるわけにはいかん!」
提案は一刀両断されましたが、状況は改善されそうにありません。
「どうにか・・・ん?お、おい御者!あそこに人が立っていないか!?」
「女の子です!それにまずいです!このままじゃあの子が代わりにやられかねない!」
つられて馬車の前を見ると、進行方向に私と同じくらいにみえる子が立っていました。
「父さま!あの子を拾いましょう!あの子が死んでしまいます!」
「くっ!御者、あたらない程度にあの子に近付けてくれ!私が扉を開けて拾う!」
「ああぁぁぁ!もう、やったりますよぉ!こんちくしょーっ!」
御者がヤケクソ気味に叫びます。父さまは扉を開け、少女の方へ手をのばします。
「君!掴まりたまえ!」
父さまは少女に呼びかけます。そして、馬車が少女の横に来て―――――
パシッ!
父さまの手が払われる音がやけに克明に響いて、馬車は少女の横を通り過ぎました。
父さまも私も、御者でさえ目を見開いて少女を見ます。少女は剣を手に取っていました。軽く振るっただけでバランスを崩しています。
「戦う気なのか・・・!?」
「父さま、あの子に勝ち目があると思いますか!?」
「あるわけがない!」
そうしているうちに少女と魔獣の距離が近づいて―――――
◇ ◇ ◇
「振って見ただけでフラつくとは・・・こりゃ、斬り合いはなしかなぁ」
だんだんと近づいてくる熊を睨めつける。体格差は優に倍以上ある。はっきり言えば不利だが、
「別に剣を使わなきゃならんっていう決まりはないんだよな」
剣を前方に突き出す。
集中力と魔力を集める。
そして、接敵直前――――
「喰らってけ。《剣影狭刺撃》」
無数の剣が熊を突き刺し貫いた。