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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
私の部屋とキミの世界編
12/98

12、男性化

 てるの助くんとウーターニャのおかげで体調が戻ったあと、さっそく新しい服を着て見せてほしいとお願いされた。

 ワルサーの顔立ちをより引き立てるものを選んだから!とウーターニャは自信たっぷりだ。


 ワルサーの顔立ちを、ねぇ。


「いつもと違う服装だから楽しみなの。ワルサーっていつもスリムストレートのパンツに上半身は裸にローブだけなんだもの」


 ナルシストだからね。


「強力な防護魔法を常にかけているから暑くも寒くもないし、怪我をすることはないって言ってもさ。歳に不釣り合いな色気を振り撒き過ぎなのよ」


 それ、ウーターニャが言っちゃうの?

 あなたも同じじゃないの?

 おっぱいも生足ミニスカスリットもかなりの魅力だだけれど、ポニーテールに対しても日本の一部分の個性的な嗜好の持ち主から色気が堪らんとか言われていたりするんだよ。

 この子が変な人に狙われていないか心配になる。


「さっき私の患者さんから連絡があったの。3日前に魔王討伐の補佐に入るから診察できないって伝えていたのにこの城へ受診しに向かっているって言ってて。もうじきに着くと思うの。ヘプタグラム城の階層がすでに一段増していたし、ここの魔王が攻略されたことにきっと気付くと思うわ。そうしたら人がたくさん集まってきちゃうでしょうから、早めに着替えておいで」

「え、人が来るの?」

「建物って魔王を倒して相続された場合には階層が増築されて高くなるからね。分かりやすいのよ」

「なんで人が来ちゃうの?」

「そりゃ頂点の國の『お城』だもの。城主と親密になりたくてお祝いに駆け付ける人は多いでしょうし、魔法の最高峰の知識ばかりが集められているこの城に自分が作った魔法石を並べてほしいって考える人も多いわよ。箔がつくもの」

「えー」


 人が集まると言うのか。

 密になるじゃないか。

 この世界にはコロナはないんだろうけど。


「…ねぇウーターニャちゃん。この世界で病気とか流行っていたりはしないよね?」

「病気?もう2000年前には人類は病を克服しているわよ。イサナの世界では違うの?」

「克服どころか…蔓延しているよ。どうしよう…病気のない世界に来てしまったりして私、ウイルスをこの世界にたくさん持ち込んでしまったかも!」

「大丈夫よぅ。世界中に病を消失させる魔法が満ちているもの。心配要らないわ。でも…そうなの。イサナの世界は大変なのね」

「うん…」


 病を消失させる魔法、かぁ。

 いいな、それ。

 地球に持ち帰ることできないのかな…。


『今持ち帰ったところで地球の時間は吾が止めているのでなにも変わらないですよ。安心して叶球(ウィクト)での生活を楽しんだ方がいいと思いますけど』


 まぁ、確かにワルサーの言う通りなのかもしれないけど。

 私ばかりがこんなに素敵な世界にやって来てしまったことが申し訳ないんだよぅ。


『それはつまり、この世界にイサナを連れてきた吾に対しては感謝の念があるということですよね。つまりは好意が芽生え始めているという意味でいいでしょうか?』


 …何故そうなるのかな。

 なんかワルサーと会話をする度に悩むことが馬鹿馬鹿しくなるね。


『イサナの悩みを取り払えたのならば光栄です』


 ワルサーのキザったらしい返答に思わず吹き出してしまう。

 ワルサーとの会話がわからないウーターニャは私が吹き出したことが不思議なようだ。

 とはいえ今のワルサーとの会話を説明するのは恥ずかしい。


「ごめん、心配してくれてたのに笑っちゃったりして。着替えてくるね」


 そう言い残して私は着替えのために今朝泊まった部屋へと向かった。

 部屋の壁に埋め込まれた金縁の大きな姿見の前に立ち暫し悩む。

 この服ってどうやって脱げはいいのだろう?

 ローブを脱いでからパジャマを脱げばいいのだろうか?

 この半分になったパジャマのボタンは一体どうなっているんだ?

 服の構造を確認しているときに鏡に写った自分の首に僅かな膨らみが出来ていることに気付く。

 ん!?

 これはまさか喉仏ってやつでは…?


『気付きました?』

「え、ワルサーって無性別じゃなかったの!?」

『つい先ほど男になってみたんです。男の俺はどうですか?』

「一人称も『吾』から『俺』に変わってる!どうですかって…え、困る!着替えようとしてたのに」


 え、じゃあ何?

 今、私の股間にはあるはずのないものが半分存在しているってこと!?


『気になりますか?』


 嬉しそうな声がする。

 セクハラ発言をする気だろ。


『見たいですか?俺の』

「わー!」


 急に左側の視界に鏡に映したあちらの姿が見えた。

 2m四方はある巨大な鏡は私の物ではないので魔法で取り出した物なのだろう。

 こんな鏡、倒れてきたら死んでしまうぞと思ったが巨大な鏡はわずかに宙に浮いているようで私の考えは杞憂に過ぎないことがわかる。

 ワルサーの動きに合わせて全身が映るように自動で角度を調整する鏡が捕らえているのは裸にオーバーサイズのパーカー1枚という出で立ちのワルサー。

 裾を両手で押さえているが、それは隠そうとしているのか、捲ろうとしているのか。


「っていうか、勝手に着替えてるじゃん!」

『やだな、魔法で変えただけですよ。でもあまり楽しくないんですよ。この体は俺が動かしているから表情が無さすぎるんです。だからようやくイサナの姿を鏡に映して見せてもらえて嬉しいです』

「だから、じゃないわ。もう見せないよ。ばかたれ」

『そうか、ずっとその格好のままでいるからイサナには羞じらいはないのかと思っていましたけど、そうじゃないんですね』

「煽ってもダメだよ。だいたいワルサーのその格好の方がおかしいよ!?ノーパンなの?」

『ド変態じゃないですか、それ。イサナが下着泥棒避けに用意していた男物のボクサーパンツを穿いています。見たいですか?』

「見せなくていい!」


 パーカーの裾を捲って見せようとするのを断固阻止する。

 ボクサーパンツ派の男性は好きだけど、こういう形での見せられ方はいやだ。


『そうですか?安心させてあげたかったのに。アレはこちらの体の方に付いているからって。右ポジみたいです、俺は』

「なんの話をしているんだ。いや、言わないで。わかる、わかるから」

『そちらの体の左側は無性別みたいな状態ですから安心して着替えも、お風呂も済ませられますよ』

「安心できないんですけど」

『俺はこれから初お風呂です。楽しみだなぁ』

「や、やめて…。お願い。」

『ふふ、いい声出しますね』


 はい?


『体は魔法で清潔に保てますよ』


 はい?

 魔法?

 そうだ、魔法があるんじゃん!

 今朝私もウーターニャにかけてもらったやつ!


『いたずらの度が過ぎましたか?』


 鏡に映るワルサーは魔方陣を出現させて魔法を発動。

 ウーターニャはこの黄金の魔方陣に魔法石を投じてから魔法を発動させていたけれど、あれは自分では獲得していない魔法を使う場合の発動方法。

 魔法石には使用回数に制限があるが、自己で魔法を習得していれば何度でも使用可能になる。

 ウーターニャはより多くの医療魔法を獲得しようとしており、その他の自己魔法は一切獲得してきていない。

 それなのに翼を出現させることができたのは医療従事者にはすぐに患者のところに駆けつけることができるようにと飛行魔法の魔法石が支給されることになっているからなのだそう。

 医療従事者は飛行魔法だけではなく、潜行魔法の魔法石も持っているそうでその魔法石を使い人魚の姿に変わることもあるそうだ。

 もちろん人魚になって水中を潜って進む速度も時速90㎞に及ぶほど速いのだが、天使になって空を飛んで進む方がより速く移動できるため医療従事者は多くの場合で天使の姿で死が近くなった人の前に駆けつける。

 そのためこの世界では医療従事者のことを『天使(ドクター)』と呼ぶのだそうだ。

 以上、ワルサーの知識をお借りして説明してみました。


 ワルサーの服装が変わる。

 左右バラバラの服ではなく、彼が元々愛用していた服の本来の姿。

 けれどローブの中にパーカーを残しているのは私の素肌を晒さないようにするためなのだろう。


『貴女にだけは嫌われたくない。俺は【イサナの心と体の両方を貰えたら死んでもいい】と願っているのですから』


 真剣な表情で、そして次第に瞳を潤ませながらワルサーが【願い】を吐露する。

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