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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
私の部屋とキミの世界編
11/98

11、天使

 こちらの世界に来てからはじめてのお出掛け。

 しかも友達と一緒にお買い物だなんて久々過ぎてドキドキする。

 マスクを着けずに外に出るだなんて悪いことをしている気分だ。

 少し前まではマスクを着けないことが当たり前だったのに、感染対策にすっかり慣れてしまっているみたい。


 また中央ホールまで向かい、外へ行きたいと念じると背の高い玄関扉が現れてくれた。

 高い技巧を用いてある荘厳なデザインのアイアンで装飾された硝子扉。

 これはすごく重そう。

 引いて開けるのだか、押して開けるのだかわからないけれど、これを開くのは重労働だなと思っているとてるてる坊主が扉の前に進んだだけであっさりと扉が開いた。

 どうやら建物の入り口の開閉は家付き虫が行うものであるらしい。

 外の冷たい空気が流れ込んできて私は僅かに身を震わせた。

 てるてる坊主は扉を開けると速やかに脇へと移動をし、従者であるかのように(うやうや)しく私達を見送ろうとしている。

 扉の先の景色は予想通りの果てがないアプローチ。

 舗装されているとはいえ、裸足で歩くのは覚悟が要りそうだ。


「はい、イサナ」


 そう言ってウーターニャは右腕を差し出してきた。

 腕を組めってことだろうか。

 とりあえず誘いには乗る。


「いつもワルサーとは腕を組んでお出掛けしてるの?かわいいね」

「え?あ、ちがう!こっち!右のイサナの体と腕を組むに決まってるじゃない!もうイサナっ、からかっちゃイヤ」


 組みかけた腕を振りほどかれて、反対側の腕を組もうと言われた。

 ワルサーと腕を組むのは恥ずかしいんだ。

 へー、なんかキュン。


 腕を組むともっとしっかり捕まってと言われる。

 胸を押し付けろということかな?

 押し付けてもAAカップにはそういうセクシーハプニングは起こり得ないのだけれど。


『イサナ、すぐにその腕をほどいてください』


 と、ワルサーが言っているが女同士で腕を組むことの何が悪いと言うのだろう。

 ウーターニャがフリーになっている右腕を軽く上げ、柔らかく握りこんだ手を開きながら腕を顔の前を通して横に振り下ろすと彼女の目の前に繊細な透かし彫りが施された黄金が現れた。

 今朝、清浄魔法をかけてもらったときにも見たのでこれ見るのは2度目になる。

 この魔法陣は魔法の発動装置。


 そしてここからの彼女の仕草は非常にあざと可愛くて私のお気に入り。

 なので期待で私の瞳は魔法陣に負けずに輝いていることだろう。


 ウーターニャは右手の手首を左手で握り込みハンドモデルがする美しいポーズでマンホール大ほどの魔法陣の前にその手をかざす。

 するとウーターニャの全ての爪が光りだした。

 彼女はさらに長い右脚に重心を乗せ、反対足を折り曲げるぶりっ子ポーズも追加。

 仕上げにお茶目な笑顔にウインクまで添える。

 すると中指の爪の中からたくさんの小さな宝石が現れる。

 小粒の宝石たちは魔法石。


 んー!かわいい。

 かわいいし、本来であれば魔法陣は出現を願うだけで現れるし、魔法石もただ魔法陣の前に中指の爪をかざすだけで出てくると言うのに、毎回このポーズをとるウーターニャのあざとさが最高に素晴らしい!


 ゆっくりと手の周りを回転している物の中から一粒を選び、指で弾き出す。

 吸い込まれるように魔法石は魔法陣に飛び込んでいく。

 魔法陣に魔法石が吸収されたことを確認した後に指をぱちんと鳴らすと、黄金の魔法陣が魔法石を包み込んで丸くなり、縮小して、そして弾け、消える。

 するとウーターニャの背に大きな白い翼が現れた。

 翼は小翼羽(しょうよくう)と呼ばれる部位のみが彫細工のある金で補強されており、美しい。


「は!?天使!?」

「そうよ、言ったじゃない。天使(ドクター)って」

「ちょっと私の世界のドクターと違い過ぎるようなんですけど?」

「スピード出してもいい?」


 にこりと微笑んで聞かれると同時に翼はバサリと羽ばたきをして風を作る。

 羽を動かした瞬間だけ僅かにウーターニャの体が浮き、私の体も軽く持ち上がる。

 マジか、こんな羽で飛べるんか。

 羽ばたきを止めて地に足を着けなおし、前のめりになって歩みを進めたウーターニャに釣られて私も数歩だけ地を駆けたかと思うと足が空に浮き、滑らかに舞い上がる。

 てるてる坊主が屋敷の中から見送ってくれていたのだが、気流で飛ばされてしまっていた。

 大丈夫だろうか。

 っていうか、これは、ちょっと、速すぎる!

 敷地を北東側に抜けると現れる切り立った崖を翼を畳んで一気に下るだなんて想像してなかった!

 あと寒い!

 上半身の前身頃は生身のワルサー側の左半身はなんとも感じないというのに私側の右半身の方が寒くて痛い。

 暖気を感じられる私の左半身は地球の暖かな部屋の中にあるのだということを肌身で感じる。

 ワルサーの肉体はこの寒さに耐えられていのだろうか。

 防護魔法がどうのと言っていたのでワルサーは大丈夫なのかもしれない。

 腕を組んで触れあっている箇所からウーターニャの体温を分けて貰っていなければ私の体は凍傷を負い、壊死してしまうところではなかったのだろうか。

 高いところは平気とはいえ、このスピードと寒さは

 つらい。

 けれど怖すぎて声を出せない。

 ワルサーに至っては恐怖で思考まで止めてしまっている。

 ウーターニャの長いポニーテールが風に靡き、きらきらと煌めいている。

 1分とかからず山を下り、町に出たところで翼を広げて飛行スピードを緩めて貰えた。

 空気に弾性が生じて身が弾む。

 その後は水平飛行で進んだ。

 標高の違いのせいなのか気候がとても心地いい。

 風を切っている今で涼しく感じる程度なのだから地上に降りたらぽかぽかした春の陽気を浴びることができるのではないのだろうか。

  振り返って見てみるとヘプタグラム城は遥か遠くまで連なる山脈の中に存在していたことがわかった。

 それもどうやらこの世界で一番高いという『龍の角』という山の頂きに建っていたらしい。

 賑やかな大通りに出る。

 眼下の車がゆっくりと進んでいるように見えるのだから、先程よりマシとはいえウーターニャの翼は今もかなりの速度を出していることがわかる。

 そこには車が往来の他に小型のジェットエンジンで飛ぶ人や歩道を歩く人の姿。

 そしてその人々の姿形は通常の人の形とは異なるタイプも見受けられた。

 宙を不器用に泳ぐおたまじゃくしに人の手足が生えた人に、肌に葉を生い茂せ日光浴を楽しむ人というような多様な外見。

 おたまじゃくし型は究極の生物形態への変化途中らしく、葉を繁らせる人は究極のヴィーガンなのだそうだ。


「…なんでも望むままなんだね」

「そうよ、願えば叶うわ」


 高速飛行に体温低下、さらにきょろきょろと視点を動かし回っていたせいだろう。

 店に到着する頃には私は体調不良を起こしていた。

 治癒魔法を施してもらったが乗り物酔いの違和感は拭えなかったので、買い物は全てウーターニャにお任せした。

 私は道行く人を眺めながら待機する。

 みんなマスクを着けてない。

 ノーマスクだからわかる私に気付いた人々の失笑と嘲笑。


 そうだよね、変な格好だよね。

 私が買い物に付いてくる意味なかったよね。

 恥をさらしているだけだよね。

 それでも私はこのウィルス感染の心配のない日常風景が目の前にあることが涙が出るほど嬉しい。

 でも、ちょっとだけ早めにお買い物が終わってくれるとありがたいなとか思ってしまう。

 そこの道向かいにいるちびっ子とか笑いを堪えられずに吹き出してるし。

 いや、わかるよ。

 冴えないパジャマ姿の女が脂汗をかいて具合悪そうにしゃがみこんでいることに気付いて、1度通りすぎてしまったあとで振り返ってそうっと様子を見ると、汗1つかかないキラキラした髪の美形の半裸の人に変わっているんだもんね。

 びっくりして笑っちゃったんだよね。

 でも笑いすぎじゃない?

 ツボに入ったのか。

 そうか、それはよかった。




 帰宅後にドローイ()グル()ームにて買ってきた洋服を広げて見せてくれるウーターニャは満足そう。

 ウーターニャの強い希望で服はプレゼントしてもらえることになった。


 この子、貢ぎ癖があるのではなかろうか…?

 お返しを何か考えないとな。


『貢ぎたいと言うのだから放っておけばいいのでは?

 』


 ワルサー、あなた常に貢がせていたんじゃないでしょうね?

 …だめだ、まだ浮遊感が残っていて気持ちが悪いや。


 帰りの飛行は緩やかだったとはいえ、城に近付くに連れて増していく鋭い寒さに再度体調不良を起こしてしまった私。

 治癒魔法を施してもらい、カウチに横たわって洋服に備わった体感温度調整機能などの説明を聞いていると、てるてる坊主がコップに入ったお水を2つ運んできてくれた。


「ありがとーう。でもてるの助くん、お水は危ないよ。きみを濡らしてしまったら大変だ。嬉しいけれど、これからはお水には近付かないようにしようね」


 手のひらでコップに蓋をして受け取りながら注意すると、てるてる坊主はこきゅこきゅと頷いてくれた。


「てるの助ってその家付き虫の名前?安直でかわいいね」

「なんとなく男の子っぽい気がして」


 と答えながらコップを片方ウーターニャに渡す。

 自分の分を口に含むと常温の水が優しくて一気に飲み終える。

 空になったコップはパッと手元から消える。

 てるの助くんが片付けてくれたようだ。


 手前味噌だけれどてるの助くんはすごくかわいい気がする。

 この地味さを目にする度になんだか和む。

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