悪魔ですが、秋葉原でオフ会を楽しもうと思います!
「よし! 終わり!」
罪人台帳を書き終えると、声高に言った。
隣にいる男の同僚が呆れたように頭を振ったのが見えた。
「もう終わったのか。こっちは数が多くてさ」
「ああ。地獄行きの連中?」
相手は首を縦に振った。
「悪いことさんざんしてきたくせに、自分が痛い目に合うと泣き叫ぶわ暴れるわ。面倒な連中が多いよ」
下界というのは人間界のことだ。連中はどいつもこいつも、罪を借えば天国に行けると思ってやがる。
行けるわけねぇだろ。地獄に来た時点でもう終わってんだよ。
「なんか今日は下界の連中が多かったな」
「そうなんだよ。だから記録するのが大変でさぁ。おまけに下界の連中、おかしなこと言う奴が多くて」
「ああ~」
オレは頭の中で、罪人共の戯言を思い浮かべる。
「"イセカイ"で死んだとか、変な世界に連れ去られて、モンスターに食われた~とか嘆いてたな。あとは"イセカイ"行こうとして自殺したとか言っているアホもいっぱいいた」
「幻覚でも見えてんのかな、あいつら。下界は何かと苦労人が多いらしいし」
「まぁ、オレたちには関係ねぇし、どうでもいいさ! お疲れーっす」
「お疲れ~」
気にせず、オレは意気揚々と拷問室からじた。仲間の視線を背中に浴びながら、あとは家に帰るだけだ。
空を飛び、自分の家の前に降り立つと、勢いよく扉を用ける。
「ただいま!!」
「おかえりー。ご飯は~?」
眠そうな同居人の声が聞こえた。
「いいや、適当にやるよ。あと風呂も!」
「またゲーム~?」
呆れたような溜息がオレの耳に入ってくる。まぁもう慣れたものだ。
「そうだよー。チャットだけ見て風呂入る!」
「ねぇ、洗濯物廊下に置いていくのやめてよー!」
「はいはーい。あとは頼んだわ~」
適当に返事をすると、オレは自室に入り鍵を閉めた。これで”こもり"の準備は整った。
最近、仕事から帰ってくると、毎回この流れになっているなと思いながら、服を脱いでPCの電源ボタンを押し、人間界から取り寄せたゲーミングチェアに座る。
起動画面が出てくる。起動するまでの時間が長い気がする。メモリ不足かな。
パスワードを入力する画面が現れた。「akumakumakuma」と入力し、ロックを解除する。
デスクトップが映し出されると同時に、ゲームが起動し始めた。
「あれ、メガネどこいったっけ」
職場とは別の、ゲーム用のメガネを探している間にロゴがフルスクリーンで表示された。
【ヴァルハラ・リアクト】。下界で流行っている一人称視点のシューティングゲーム。俗にいう、FPSだ。
最近では天界でも地獄界でも流行り始め、職場でもたびたび話題になっている。
ゲームを始めたきっかけは、憎たらしい天使共や哀れな人間共の嫌がらせをしてやろうと思い立ったからだ。
だが、嫌がらせをするために戦っている間に、負けず嫌いな性格も相まってか、いつの間にか強くなってしまった。かなり上達していたらしく、いつの間にかフレンドが大勢できてしまった。
敵を倒すのと、フレンドからの称賛の声が意外と心地良くて、ドハマりしていた。正直言ってクソ面白い。バトルロワイアル系のゲームであるため大変スリリグだ。
タイトル画面からキャラ選択画面に移動する。キャラクリしたゴリラのような見た目の男キャラを選ぶと、ゲーム画面に遷移する。左下にあるチャットウィンドウを見ると。ログインしているフレンドがいたがいた。このゲームの中で、一番仲がいいプレイヤーだ。
♦♦♦♦
【キューバス】 「お疲れ様ですー」
【てんてん】「お~、お疲れ様! (*'ω'*)」
【キューバス】「仕事速攻で終わらせてきましたー!」
【てんてん】「そんな焦らなくてもぃいのに~( *´艸`)」
♦♦♦♦
ウサギ耳を生やしたキャラが跳ねている。オレは、この【てんてん】という小さな女キャラと行動を共にしている。
【てんてん】は右も左もわからないオレに、色々と操作方法から戦術まで教えてくれた恩人だ。言うなれば師匠だ。ダメダなプレイもフォローしまくってくれる、優しく強いプレイヤーである。
♦♦♦♦
【てんてん】「あ、そうだ。キューバスさん」
【キューバス】「なんすか?」
【てんてん】「その~、相談というか提案なんだけど」
【キューバス】「うん」
【てんてん】「オフ会、やってみない!?」
♦♦♦♦
オフ会か。聞いたことはある。ネトゲのプレイヤーが、実際に顔合わせをして交流を深める会のことだ。
実際に出会って友好を深めると、チームワークがよくなったり、情報交換がよりしゃすくなったりといったメリットが多い。
だけど、オレは悪魔だ。相手は恐らく人間だろう。人間界に行くことは容易いが、そんなほいほいと顔を見せていいものか悩む。
♦♦♦♦
【キューバス】「オフ会か~。オレ、行ったことないですよ」
【てんてん】「いや、実は私も初めてでー」
【キューバス】「う~ん」
【てんてん】「やっぱり、駄目かな? オフ会で、レア武器とかレアスキンの交換とかしたいなー(´・ω・`)」
【キューバス】「あ、行きますー!」
【てんてん】「本当!? じゃあ、アキハバラで待ち合わせしませんか!(≧▽≦)」
♦♦♦♦
しまった。レアっていう響きのせいで了承してしまった。何をやっているんだ、オレは。騙されていたとしたらどうするつもりだ。ていうかアキハバラってどこだよ。
いったんウィンドウを切り替えて調べてみる。
アキハバラ……秋葉原……人間界の日本、とかいう国にある、電気街らしい。ゲーマーやら電子系に興味を持つ者が多く集まる場所か。
なるほど。出会うにはいい場所だな。
♦♦♦♦
【キューバス】「行ったことあるんですか?」
【てんてん】「ないんですよ~これが;つД`)」
♦♦♦♦
おいおい、大丈夫かよ。
苦笑いを浮かべてしまったが、実は結構楽しみでもある。
それからは適当にプレイをこなしつつ【てんてん】とオフ会の話で盛り上がり、待ち合わせ場所を決めて、ゲームを終了した。
出会うのは来週の休日か。有給取れるかな。
まぁオレの働きぶりからすれば、1日や2日の休みは出て当然だろう。そう気楽に考えたところで、ようやく腹が減っていたことに気づいた。
★★★
オフ会当日。慣れない環境と、電車という謎の乗り物のせいで、気分は最悪だった。おまけに夏ということもあって非常暑い。アキハバラに着いた頃には、汗だくだった。
凉しい所に行きたいなと思いながら歩いていると、道行く人がオレを凝視していることに気づく。
「どこもおかしくないよな」
ひとりごとを呟いて、視点を下に向けて服装を確認する。ちゃんと下界のファッションを見てきたため、そこまでおかしな点はないはずだ、同居人にも確認してもらっているから、平気だと思うが。
不安になりながらも、待ち合わせ場所である改札口付近に到着した。
「えーと、白髪で、黒縁メガネで」
チャットで教えてくれた特徴を思い出しながら探していると、目的の人物はすぐに見つかった。
同時に、目を見開いた。
輝きを放つような白髪は、綺麗に整った顔立ちを一際目立たせている。高身長で、全体的にシュッとした印象を受ける。イケメンというやつだ。白肌と雪のような髪色も相性がいい。
だがそれはどうでもよかった。【てんてん】が男だ、メガネイケメンだとか、あの見た目で顔文字使うのかよとか思ったが、そんなことはどうでもいい。
問題は、【てんてん】が”天使"だったことだ。
「マジかよ」
普通の人間の格好をしていてもわかる。人間には見えない、そしてこの世の物質では触ることができない、白くて大きな片翼が、オレにはうっすらと見えていた。
「マジか。逃げるか」
天使と悪魔は犬猿の仲だ。決してお互いの領域に踏み込もうとはしない。自然と警戒するのは当たり前だろ。
いや、でも待てよ。せっかく来て、悪いことなんかひとつもしてないのだから、友人として堂々と会えばいいではないか。
最悪、なんか変に絡まれたら、全部相手のせいにしてやる。人間界は女性に甘い。
「キャー、痴漢!!」
とか叫べばいいだろう。そしたらあいつの天界での評判はガタ落ちだ。
そう思って、オレは声をかけた。
「よ、よぉ。【てんてん】」
【てんてん】が顔を上げて、こっちを見た。最初は小さな目でこちらを凝視していたが、どんどん大きく見開かれていく。
「えっと、【キューバス】、さん?」
聞かれて、オレは頷いた。
「あ、あなた悪魔……ていうか、サキュバスだったんですか!!?」
オレは急いで相手の口を塞いだ。履きなれてない踵の高い靴のせいでこけそうになった。
「大きな声で、んなこと叫ぶなよ!」
「ご、ごめんなさい。いや、でも、あの、女性だったんですね……」
凝視するような視線だった。ちょっとショックだ。
「な、なんだよ、気づけよ!」
「だって一人称「オレ」だったじゃないですか!」
「なんでもいいだろうがそんなもん!」
「普通は気づきませんよ!!」
「ま……マジか」
口を押えていた手を下ろす。【てんてん】は、オレの格好を凝視する。
「て、ていうかですね。いくら夏だからってそんな薄着で……」
「ん?」
もう一度自分の姿を確認する。
白いワンピースの下には小麦色の肌。自慢の長くて細い足を大胆に出して、胸元も強調して谷間も露出させている。
デブに見えないよう、ウエストベルトで腰回りを締め、ボディラインを強調している。
「おかしくないだろ?」
艶のある、自慢の長い黒髪を払って言ってやった。
「い、いや、胸元は隠した方が」
「はぁ? せっかく大きい物持ってんだ。アピールしないでどうするよ」
「体冷やしちゃいますよ!」
「うるせぇなぁ! 母親かお前は!」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、周りの目がこちらに向けられた。
「美男美女のカップルが喧嘩してる……」
「あの男の人、コスプレイヤーかな?」
「黒髪ロングの子可愛すぎねぇ!?」
「どっかのモデル? 初めて見たんだけど」
周りの声が聞こえ、カメラが向けられたところで、オレは【てんてん】の腕を掴んでその場から離れた。
「と、とりあえず、どっか落ち着ける場所行こうぜ」
「そ、そうですね。ごめんなさい。騒いじゃって」
「いいよ。別に。気にしてねぇから」
「あ、あの」
おどおどした様子で、【てんてん】が言った。
「ホテルとか、連れこんだりしないでください!!」
「連れこむわけねぇだろ! バカか!!」
おかしな組み合わせだが、今日はただのオフ会だ。友達と話すだけだ。
しかし、女慣れしてないな。こいつ。やっぱり天使はお堅い連中が多いのか。
少しからかってやろう。毛嫌いしている天使相手にをれができると思うと楽しくなってきた。
「なぁ、どこ行く?」
【てんてん】に向かって微笑むと、相手は顔を赤らめた。こいつ、やっぱり面白い奴だ。
【てんてん】の手を引くだけでそう思えた。
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