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希望の光。

「『ヒール・レイン』」

「『エリア・ヒール』!」


 大技が炸裂したものの、最後衛でかつ魔術防御力の高いヘルミーナと、属性相性で優位にあるクララは被害が比較的軽微であったため、即座に集団回復魔術が飛ぶ。

 だが、直後にヘルミーナが眉を寄せた。


「ちっ、やっぱり回復魔術も吸い取るか……」


 彼女の言葉通り、普段ならば全員を回復させる癒しの雨が、ほとんど降り注がず『終焉の魔女』へと吸収されていく。

 

「吸収されるだけで回復はさせてないみたいだけど、どのみち魔術の無駄撃ちになるだけ、か」

「わ、私のは吸収されてないんですけど!?」

「それはそういうものだとしか。よっぽど闇は光と相性が悪いらしい」


 ありとあらゆる魔力が『終焉の魔女』へと流れ込んでいく中、クララが展開した範囲回復魔術はその効力を失っていない。

 おかげで、直撃を受けたクリストファーやギュンターも立ち上がれたのだが。


「なん、だ、この衝撃は……まだ抜けないから、身体が、重いっ」

「なるほど、巨人の一撃もかくや、というわけですなっ!」


 頑丈さの違いか、ふらつくクリストファーよりもギュンターの方がわずかばかり回復が早いようだ。

 それでも、反撃にすぐさま移れるほどではなかったが。


 『ギガンティック・グラビティ』は、高威力集団攻撃魔術、というだけではない。

 大質量のハンマーで殴られたかのような衝撃により、物理・魔術どちらの攻撃もできなくなってしまうのだ。

 ゲーム的にいえば、攻撃不能になるのは1ターンのみ。

 その間に回復し態勢を立て直すことになるのだが、ラスボス戦とあってか各種行動の度にセリフが入る演出もあったりした。

 つまり、イベントの一環ともいえるものだった。


 もちろん、ゲームでもなく、相手は『魔王』でもない現状ではそうもいかない。


「も一ついくよぉ……『ギガンティック・グラビティ』!」


 まさかの、連打。

 周囲から吸い上げた魔力に物を言わせた掟破りのやり口である。

 あるいはそれは、吸収したデニスの思考が影響したのかも知れないが。

 当然、そんなものが通ればいつまでも攻撃が出来ず、ジリ貧に削られていくばかりだ。


 だから。


「させるか! 『ディスペル』!」


 そこに、リヒターの『ディスペル』が挟まれた。

 再び炸裂する寸前だった極大魔術が、またも風に溶けるかのごとく霧散する。


「いい判断だ、リヒター!」

「くっ、すみません、殿下、まだ不慣れで、練り上げるのに時間がっ」

「大丈夫だ、打つ手がまだあるなら、勝機はある!」


 そう言いながら、衝撃が抜けたジークフリートが『炎の剣』を振るう。

 その刃から炎の槍が飛び出して、『魔女』へと向かい……しかし、吸い込まれていく。


「なるほど、光属性に近くともあくまでも炎でしかない、わけか。ならば!」


 『炎の剣』、不発。

 普通ならば心がくじけそうな事態だろうに、ジークフリートは折れない。

 すぐさまもう一度刃を振るえば、『終焉の魔女』の眼前に炎の壁が立ち上がった。


「はっ! 無駄無駄無駄ぁ!」


 だがその壁も、『魔女』が得意げに声をあげれば、魔力を吸われてすぐに崩壊してしまう。

 そして。

 すぐに『魔女』の顔が歪んだ。


「ここだぁ!」

「食らえぇ!」


 二つの叫び。二人の影。

 弾けるように崩れた炎の壁を突っ切って、ギュンターとクリストファーが『魔女』へと斬りかかったのだ。


「こいつらっ、くっ、目くらましだったってのかい!?」


 動揺した声を漏らしながら、『魔女』は剣を振るって二人の刃を撃ち返す。

 『魔女』の言う通り、攻撃魔術が届かないとわかったジークフリートは、すぐさま援護に回ることを選択。

 立ち上がった炎の壁を見た瞬間にギュンターとクリストファーはそのことを察し、それに合わせ打って出たのだ。

 いかな剣豪メルツェデスの身体だとはいえども、この二人の剣戟をいなすのは至難の業。

 それどころか押し込まれかけたのを察して、『魔女』の顔が歪む。


「小賢しい、ってんだよぉ!」

「くっ!」

「ぬぅっ!?」


 吸い上げた魔力を使って引き上げた腕力で刃を薙ぎ払い、『終焉の魔女』は二人を強引に弾き飛ばした。

 一瞬だけ空いた隙間に。


「『ギガンティック・グラビティ』!!」


 強引に、大技を捻じ込む。

 リヒターの『ディスペル』も間に合わず、また吹き飛ばされる二人。

 その他の面々もまた、重い衝撃波に晒され一瞬立ちすくんでしまう。


「こうなりゃまずはお前からだよ、ウスノロ!」


 唯一動ける存在、『深淵の魔女』はその好機を逃すことなくギュンターへと迫る。

 本丸であるジークフリートを狙うのではなく、それを守る城門を崩す。

 当たり前といえば当たり前の手順を踏まされている屈辱を覚えながら、『魔女』の刃が振るわれた。

 身体強化によって速く強く、重力操作によって、重く。


 どんな生物も出せない威力を纏ったその切っ先は、過たずギュンターの身体を捉える。

 周囲で見ていた全員が、その光景をスローモーションのような速度で見ていた。

 見えているのに、動けない。身体が思考に追いつかない。


 彼らの目の前で、ギュンターが、斬り伏せられた。


「はっ、どんだけしぶとかろうが、これで終わりさぁ」


 嘲るように言う『魔女』の声に滲む、わずかばかりの安堵。

 だが。


「まだまだぁ!!」


 その安堵は、すぐさま消し飛ばされた。

 豪快に立ち上がったギュンターの勢いによって。


「……は? な、なんで? なんで、これを食らって死んでないのさ!?

 メルツェデスの身体に、あたしの魔力で強化をこれでもかと乗せてるってのに!」

「笑わせるな!

 確かに貴様はプレヴァルゴ様よりも速くなったのだろう、膂力も増したのだろう!」


 そこで言葉を切り、ギュンターは大きく息を吸う。


「だが、それがどうした!!」


 そして、喝破した。

 何を言われたのか、理解出来なかった『魔女』は呆気に取られた顔を晒してしまっている。


「貴様の剣には冴えがない、練りもない! 何より魂が欠片もない!! そんな刃で、この私を(ほふ)れると思うな!!」


 ここまで言われても、『魔女』には何がなんだかわからない。

 確かに『魔女』の一撃は速かった。重く、強かった。


 だが、甘かった。


 致命の場所へと、最短で至る刃筋ではなかった。

 そして、どこに来るか、ギュンターの直感でも捉えられた。

 衝撃波に揺らぐ身体でも、盾の操作が間に合った。

 メルツェデスの提言を受け入れて、守るべきものを守るために手にした、盾が。


 だから、ギュンターの命を奪うには至らなかった。


 そして、だからギュンターは立ち上がった。

 立ち上がらねばならなかった。

 メルツェデスの剣に対する冒涜とも言える刃を振るうこの『魔女』へと抗議するために。


「このっ、でくの坊の癖に、生意気なっ!」


 立っているのがやっとであるはずのギュンターが放つ威に押されながらも、魔女が剣を振り上げる。

 振り下ろした。


 そして、逸らされた。


「あ~……納得した。流石ギュンターさん、よくわかってらっしゃる」


 青い光を纏った、クリストファーの剣によって。


「お前までっ、なんでっ!」

「そりゃね、お前だからだよ。よくよく考えてみれば、僕が姉さんの剣をあそこまで捌けるわけがない。

 お前ごときが姉さんの身体を使ったって、全てを引き出せるわけがないんだ」


 苛立ちと焦りをむき出しにしながら『魔女』が刃を振るうも、凪いだ表情のクリストファーが全て捌いていく。

 『水鏡の境地』に至った彼の目には、『魔女』の刃筋など丸見えにもほどがあった。


「……なるほど、わかった」


 そんなやり取りを見ていたヘルミーナが、おもむろに言葉を発して。


「『ヒール・レイン』」


 さながら散歩にでも行くかのような気軽さで範囲回復魔術を使用した。

 彼女が指定した範囲に、癒しの雨が降り注ぐ。

 ……先ほどと違い、『魔女』に吸い込まれることなく。


「な……一体、何が……? どうしてお前が魔術を使えるのさ!?」


 狼狽する『魔女』へと向ける、ヘルミーナの笑みは……禍々しい。

 

「簡単なこと。お前、胃袋は底なしなくせに、お口は随分と小さいんだね」

「……は? なっ、まさか!?」


 慌てて『魔女』が魔力の流れを感じ取れば、明らかにおかしい。

 周囲から無差別に魔力を吸い上げているはずなのに、今や一種類の魔力しか流れ込んでこない。

 それも、たった一人から発せられるもののみで。


「おかしいとは思っていたの。底なしに魔力を吸い込むのなら、どうして一瞬で全てを虚無に変えてしまわないのか、と。

 流れ込んでいく魔力の量に限りがあるのは、元々そうなのか、お前の顕現が不完全なのか」


 ヘルミーナが、言葉を切る。

 その視線が、『魔女』の表情を捉え。


「なるほど、後者。ならば、話は早い」


 それからヘルミーナは、クララへと目を向けた。


「クララ、私達で隙を作る。あなたはメルの腹に『光の槍』をぶっ刺して、光の魔力を思いっきり注ぎ込みなさい」

「わかりました! ……って、まってください!?」


 ヘルミーナの指示に、クララは即答し。

 その意味を理解したところで、悲鳴のような声を上げた。


「わ、私が、メルツェデス様を刺すんですか!? そんなことして大丈夫なんですか!?」

「傷は私がなんとかするから、大丈夫。多分。メルもそれでいいと言うはず。きっと」

「一つくらいは断言してくれませんか!?」


 いきなり始まった二人のコントのようなやり取りに、慣れていない『魔女』はぽかんとした表情のまま動けない。

 ……それを横目に、クリストファー達は態勢を立て直したりしているのだが。


「わかった、一つだけ。やっぱり『終焉の魔女』はまだメルと完全には融合していない。これだけは間違いない。

 なら、奴が忌み嫌う光の魔力を注ぎ込んでやれば引きはがせる可能性は高い」

「さ、流石にそこは、断言できませんよね……」

「そして、最も効率よく光の魔力を注ぎ込むには、メルの腹を『光の槍』でぶっ刺して光の魔力を注ぎ込むしかない」

「一番嫌なことだけ力強く断言してくれますね!?」


 悲鳴のような声を上げて。いや、実際悲鳴なのだろうが。

 ともあれクララは、真剣な目でヘルミーナを見つめた。


「……嘘じゃないんですね?」

「もちろん。いくら私でも、こんな時に嘘は吐かない」


 二人はしばし、視線を交わして。

 それから、クララがこくりと頷き。


「わかりました。それしかないのならば。私が、やります!」


 力強く断言したかと思えば、ついに『光の槍」をメルツェデスへと向けた。

 それに一つ頷いて返したヘルミーナは、これ見よがしに『終焉の魔女』へと左手を突き出して見せる。


「聞いての通りだよ、『終焉の魔女』。

 お前の何でも吸い込む意地汚いお口を塞いでいる私の魔力が尽きるのが先か、クララの槍が届くのが先か。

 我慢比べと洒落込もうじゃない」


 ヘルミーナの煽りを受けて顔を歪ませる『終焉の魔女』の眼前で、ギュンターとクリストファーが決然とした顔で剣を構え、少し後ろにフランツィスカ、ジークフリート、クララ。

 いつの間にか万全の配置となった陣形の最後列、いつでも『ディスペル』を放てるよう構えるリヒターの隣でヘルミーナがそれはもう得意げな笑みを見せる。


「もっとも、これっぽっちも負ける気はしないけれど」

「貴様ぁぁぁ!!」


 ついに堪えきれなくなったか、『終焉の魔女』が叫びを上げる。

 そして、最終決戦が始まった。

※本日、ピッコマさんで退屈令嬢コミカライズ9話が公開されております!

 ネームチェックの際、一目見た瞬間爆笑してしまった展開を、是非ご覧いただければ!


 もちろん言うまでもなく、改変等は全て私が確認した上でOKを出したものになります。

 本当に、説明が多い場面をよくぞこの形で乗り越えてくださった!! と感心しきりな展開でございます、是非ともお読みいただければ!


 そして、できれば読み終わった後に出てくるハートマークを連打しまくって評価いただけたら!!(おい)

 いやその、真面目におかげさまで日間ランキングに入れたりしたんです! 

 本当なんです! 信じてください、なんでもしますから!(何)

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、本来なら1パーティー(3〜4人)で相手する予定のボスなのにそれ以上の人数で戦ってるからあっさりと突破口が見つかった感じですね。 本来のゲームだと、恐らく唯一上位属性に目覚めれるリ…
2024/06/28 12:55 イズサバデン
[一言] ハードが優秀でもソフトが貧弱ではなあ! 気づかれたのが運の尽きよ!!
[良い点] 『終焉の魔女』よりヘルミーナのほうが、より『終焉の魔女』らしい辺り。 そして、ヘルミーナの出力って、『没裏ボス』すら凌ぐのかぁ(笑) ヘルミーナが、とってもヘルミーナしてますね。 [気に…
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