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拍手 072 百六十九話 「説得」の辺り

 雨の中、濡れ縁から庭を眺める。自分の記憶にある日本庭園を真似ようとして、微妙に違うものが出来上がってしまったけれど、これはこれで風流なものだ。

 大きな庇で雨をよけられるけれど、風が吹いたら濡れる場所。それもまた、今の気分にあっていた。

 天候のせいで少し肌寒く感じる今日は、熱い緑茶がよくあう。特注で作らせた湯呑みで飲む緑茶は、少々熱めだがほのかに甘い。

「失礼します」

 そう背後から声をかけてきたのは、ギルド統括長官を務めるメラック子爵ゼノストだ。

「やあ、よく来たね」

 静かに座る彼に、答える。こういうところが、クイトとは違う。育ちだけで言えば彼の方がいいはずなのに、にじみ出るものがこうも違うとは。

「皇子のはずなんだがなあ」

「何か、仰いましたか?」

「いや、こっちの話だよ」

 こんな場所でゼノストと比べられていると知ったら、クイトはむくれるだろう。自分のせいだとは絶対に考えない。年より幼く見えるのは、一体何が作用しているのか。

 ――あの性格かねえ?

 クイトが前世を思い出したのは、割と最近の事だ。彼の事は、母親絡みで生まれた時から後見を務めてきたけれど、前世を思い出すまでは礼儀正しいだけの無気力な子供だった。

 それが十五を数える頃にいきなり前世を思い出し、まるきり人格が変わってしまったのだから、周囲は驚いたものだ。

 後見を務める自分もその一人だったが、すぐに彼の話す内容に対応出来たのも、また自分だった。

 同じ前世日本人、しかも細かい部分まで出し合ったところ、同じ年代に生きていた事がわかっている。

 そういえば、後見を降りると宣言してその通りにしたけれど、クイトは未だに前と変わらず飄々と生きている。あれも持って生まれた才能か。

「ゼノスト、今日来てもらったのは他でもない。例の魔の森の事だよ」

「私の元にも、手紙が届きました」

「どう思う?」

「どう……とは?」

「手紙の内容、真実だと思うかい?」

 ラザトークスの東に広がる大森林の奥地、そこに眠るとされる遺跡の調査に、冒険者パーティー「オダイカンサマ」を派遣している。

 そのパーティーから、中間報告として、手紙が届いていた。

 まだ遺跡には到達出来ず。しばらく時間がかかりそうだ。

 自分のところに届けられたものと、ゼノストの元に届けられたものの中身は同じだろう。そう思って確認してみたのだが。

「さて……嘘だとしても、確認する術がありません。あの森の奥地に入り込む事が出来る冒険者など、彼女達を置いて他にはいません」

「魔法士部隊を派遣する事は?」

「難しいでしょうね。特に一部の隊員の実家が許さないでしょう。それに、問題のない隊員でも、実力不足かと」

「そうか……そこまで酷いのか……」

「彼から、聞いていませんか?」

 クイトの事だ。あれは一応、魔法士部隊の副隊長を務めている。もっとも、彼の副官に言わせると、しょっちゅう仕事をさぼってばかりいるそうだが。

 そんな彼は、次期部隊長候補に名前が挙がっているそうだ。世も末である。

「部隊に関しては、まああちこちから話は聞くんだけどね。それにしても、酷すぎる」

「親が過保護な連中が幅を利かせていますからね。そんな連中にこき使われる庶民出身の隊員達が、実力を発揮できるとは思えません」

「やはり、再度の改革が必要か……」

 とはいえ、既に引退した自分は表だって関わる事は出来ない。ゼノストはギルド関連には顔が利くが、魔法士部隊にはそこまでではなかった。

 頼みの綱といえば、クイトなのだが。

「……どうしたものかねえ?」

 前途多難。そんな言葉が頭をよぎった。

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