拍手 063 百六十話 「倉庫」の辺り
地球儀……ではなく、なんと呼ぶべきかはわからないが、暫定地球儀もどきはなかなか見ていて飽きない。
「おお、高低差もちゃんと表現されてるんだ。へえ、マナハッド山脈って、やっぱりかなり高いのね」
「その、まなはっどさんみゃく、とは何だ?」
「昨日までいた都市の上にある山脈の事よ。ほら、ここ。で、地下都市は多分この辺りの下」
「ほう……」
「で、今私達がいる地下都市がこの辺り」
「では、この森が里だな。……意外と、小さいのだな」
「そりゃあ、かなり縮小しているからね。……これって、指定地域の倍率を上げて見るとか、出来る?」
ティーサに確認すると、出来るという。ついでなので、里の様子を上から見てみようという事になったのだ。
「あれ? 動いてる? って事は、リアルタイムの映像?」
「りあるたいむ?」
「今現在の様子を見てる状態って事」
厳密には違うけれど、この説明でフローネルは納得したのでよしとする。里では、何やら皆が集まっていた。さすがに音声までは拾えないので、何が行われているかまではわからないけれど。
「……テアンだ」
「何か、演説でもしてるのかな?」
「もしかしたら、族長の死を説明しているのかもしれない……」
そういえば、彼等エルフの族長は、この都市に仕掛けられた六千年前の罠にはまって命を落としたのだ。半分自業自得な面があるとはいえ、もう半分は罠解除の為にパスティカが誘導したようなものなので、ティザーベルとしては少々後ろ暗い。
「里には、族長の死を乗り越えていってもらいたい……」
フローネルは、映し出される映像を見つめながら、祈るように呟いた。
◆◆◆◆
音声が聞こえていたら、彼女達は驚愕しただろう。この場面は、今まさにカルテアンがクーデターを起こしたところだった。
長らく続いていた族長を頂点とする重鎮達による里の支配から脱却すべく、カルテアンは若手エルフ達とこれまで水面下で活動していたのだ。それがようやく実を結ぶ。
「これから先は、里の代表も皆で選出する! 誰かが決めてくれるのを待つのではなく、自分達で考え行動しなければ、この先我々は生き残る事が出来ない!」
外の世界を知るからこそ、危機感を持ったカルテアンを中心にまとまった若者達は、口々に「そうだ」「そうだ」と叫ぶ。
「他の里との連携は当然として、獣人達とも手を携えていきたい。彼等もまた、我等同様岐路に立たされている。彼等とは、共存の道があるはずだ」
この辺りは、重鎮達がずっと渋り続けていた案件だ。何度説得しても首を縦に振らない彼等に焦れた結果、今日のこのクーデターがある。
「今こそ、我等の力を合わせる時なのだ!」
カルテアンの言葉に、若者を中心に歓声が沸き上がった。これまで重鎮達の目を盗み、これはと思う者達をこっそり里の外に連れ出して現実を見せてきたのが実を結んだのだ。
里の掟も、これからは書き換えていく必要がある。
――許せよ、ハリザニール。
もう少し後であれば、またユキアを連れた状態でヤランクス達に捕まらなければ、ハリザニールの掟破りももみ消せたはずなのに。間が悪いというのか、運が悪いというのか。
ともかく、彼女の事は既に旧指導者達が決めてしまった。それをわざわざ覆す事はしない。だが、これから先は外の厳しさや恐ろしさをきちんと教えていかなくては。
カルテアンは遙か上空からティザーベル達が見ているとも知らずに、これからの事に思いをはせた。




