拍手 060 百五十七話 「都市の復活」の辺り
今日の仕事も終わり、職場であるギルド本部を出たセロアは、空を見上げる。
「今日もいい天気だったなあ……」
仕事の間は本部から出ないので、天気はあまり気にしない。前世なら洗濯の事を考えるが、帝都では洗濯屋に頼むのが一般的だ。
魔法で洗浄、浄化を行う為、衣類に負担がかからず長持ちする。この国で洗濯機が発明されない理由の一つだろう。
ふと、再び故郷へと仕事で赴いているティザーベルの事を思う。あの土地は、彼女にとっていい思い出がない。本人は吹っ切れているけれど、いくら依頼でもあまり近づいてほしくはないのだが。
「厄介だよねえ、本当」
まさか、この国の上層部に元日本人がいたとは。それも複数人。あれにはさすがに驚いた。しかもそのうちの一人は序列が低いとはいえ皇族である。
そんな上流階級の元日本人から持ち込まれた依頼では、断るのは難しい。それがまさか、あの大森林のさらに奥へ行く依頼だなんて。
こんな時に、携帯電話がほしくなる。あったとしても、大森林の奥地までは電波が届かないかもしれないけれど、少しでも通じればメールやメッセージアプリで連絡がつくかもしれないのに。
本当に、ティザーベルが戻ったら本格的に研究してほしいものだ。もっとも、魔法士部隊に強い影響力があると言われるネーダロス卿が開発出来ていないのなら、難しいのかもしれないけれど。
まだ出発して一週間も経っていない。今頃、あの街でどうしている事やら。
「元気でいなよ」
小声でそう呟いたセロアは、寮へ向けて歩き出した。




