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拍手 028 百二十五話 「地下空間」の辺り

 デロル商会本店の上階にある応接室は、静まりかえっていた。

「じゃあ何かい? あのくそじじいがうちの店子を呼び出していたってのかい?」

「ええ……」

 下宿屋を営むイェーサの前で縮こまっているのは、ティザーベルをイェーサの下宿屋に紹介したゴーゼだ。彼は仕事の関係で、今もラザトークスに戻らず帝都にいる。おそらくこのまま、ザハーの手伝いをしつつ本店に残り続ける事になるだろう。ラザトークス支店の店長も、新たに選出しなければならないこの時期に、頭の痛い問題が持ち上がった。

 それが、今目の前でイェーサが怒りに満ちている原因でもある。先日伺った馴染みの客の元に、ティザーベルがいたのだ。

 ラザトークス時代から繋がりを持っていた冒険者。出自と仕事の割には、礼儀正しく曲がった事は絶対にしない。彼女のその姿勢には、ゴーゼも信頼を寄せている。

 彼女が帝都を出る際に、身辺護衛として雇う事が出来て本当に良かった。そうでなければ、オテロップの事件の時に、自分も命を落としたかもしれない。

 だからこそ、帝都に来て自分の上司でもある兄弟子のデロル商会会頭ザハーにも紹介したのだ。彼女との繋がりは、商会の為になる。事実、シンリンオオウシという大物を商会に直で卸してくれた。あの売り上げは、相当な額となって商会を潤してくれた。あれにはザハーも驚いたものだ。

 そのザハーもこの場に同席し、苦い顔をしていた。

「正直、彼女とご隠居がどうやって繋がりを持ったのか、わからないんですよ」

「……じじいが手下を使ったね。そういや、ここしばらくは魔法に関しての勉強だとか何とか言って、毎日のように出かけていたっけ。まさかじじいと繋がるとは、私も思ってもみなかったよ」

「まったくで……」

 三人が揃って重い溜息を吐く。

「まあ、ここで私らが雁首揃えていたって、どうにもなるまい。本人の意思もある事だし」

「ですが、ティザーベルさんが魔法士部隊を希望するとも思えません」

「そりゃそうだろうね。冒険者としてやっていけてる魔法士が、好き好んであんな掃きだめみたいな場所を志望するとは、誰だって考えやしないさ。だがね、その掃きだめに未だに強い影響力を持ってるあのじじいが裏にいるとなると……ね」

 イェーサの言葉に、ゴーゼは息を呑む。確かに、ネーダロス卿は家督を長男に譲り悠々自適の隠居生活に入っているが、その昔は魔法士部隊にこの人ありと言われた名魔法士だ。

 しかも、隠居した今も魔法士部隊との繋がりが強い。ゴーゼとしては、何故ネーダロス卿があの部隊の腐敗を今まで放っておいたのか、そちらの方を不思議に思ったくらいだ。

 普通に考えれば、国家機関の魔法士部隊に入るのは、一冒険者として夢のような話だろう。だが、実情を考えると、とてもそうは思えない。

 貴族出身の魔法士が、実力も考えずにのさばる場所だ。しかも庶民出身の魔法士は、彼等に搾取されるだけだという。

 一度大規模な再編がなされたけれど、未だに体質が変わらないと聞いている。そんな場所に、馴染みの冒険者が引っ張り込まれるのは、ゴーゼにとっても痛手だ。

 何とか阻止する手立てはないか。そう考える横で、ザハーが口を開いた。

「強引に引き込む……という事ですか?」

「やりかねないと、思わないかい?」

「……そういえば、あの場にクイトシュデン殿下もいらっしゃいました」

「クイトシュデン? ……ああ、あの坊やかい。そういえば、現在の魔法士部隊でも上位にいるんだったか」

「次の部隊長候補とも言われています」

「十五だか十六番目の皇子だろう? こりゃ、ますます魔法士部隊は腐敗が進むね。じじいも、いつまで自分が生きていられるか、考えりゃいいのに」

「イェーサ様、口が過ぎますよ」

「誰が聞いてる訳でもない、構いやしないよ。聞かれたところで、既に私は皇宮とは縁を切ってるんだから」

 問題なんぞ、あるもんか。そう続けるイェーサに、ザハーも言葉がないようだ。彼をここまで言い負かせる人間など、そういるものではないのに。

 そんな二人を見つつ、ゴーゼはぽつりともらした。

「とにかく、今はティザーベルさんを魔法士部隊に持って行かれないようにしたいですね」

「あの子が下宿に戻ってきたら、それとなく言っておこうかね」

「お願いします」


 この後、ラザトークスに行ったり、戻ってきたら隠居所に引きこもり、そこから再びラザトークスの大森林へ向かったりするので、イェーサがティザーベルと顔を合わせる事はなかった。

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