拍手 021 百十七話 「奥地の魔力 一」の辺り
ラザトークスから帝都に帰る船の中、ティザーベルは大きな紙に印を付けていた。
「嬢ちゃん、そりゃ何だ?」
「ああ、これ? 大森林の地図よ。奥地のヤバいライン……っと箇所がわかったから、書き込んでるの」
「へえ」
「こういう情報って、冒険者の命に繋がるから、ギルドで高く買い取ってくれるのよ」
「……なるほど、よくわかった」
「何よ。大事なんだからね、情報って」
大森林の情報は、特にそうだ。おかげでいい情報はギルドが高値を付けてくれる。これもまた、冒険者の収入だった。
今回は、中間から奥地へ変わるラインを更新出来そうなので、おそらくいい値が付くだろう。危険地帯に知らずに足を踏み入れる連中が減れば、その後に繋がりやすい。
逆に情報の価値を低く見るギルドだと、冒険者の生存率が下がるので冒険者達に嫌われるそうだ。誰それが帰らなかった、という情報は噂として冒険者間ですぐに広まるから、隠す事も出来ない。
冒険者に嫌われたギルドは、人が居着かなくなるから廃業待ったなしなんだとか。
「それで? その地図は帝都本部に売るのかい?」
「んー? それよりはラザトークス支部に……って、ああ!」
この船は、ラザトークスの船着き場を出てかなり経つ。しかも船足が速いので、既にあの街は遠い。
「せっかく作ったのにぃ……」
「帝都本部でも売れるだろうよ」
「でも、ラザトークスよりは買いたたかれる……」
「そこかよ」
「そこだよ! お金は大事なんだからね!!」
冒険者稼業はうまくすれば実入りはいいが、長く続けられる仕事ではない。そうそうに引退して貯めたお金で悠々自適の生活をするのが、ティザーベルの夢だ。
その為にも、今から頑張ってお金を貯めているのに。
「仕方ない。この地図は次に来る時まで取っておこうっと」
「次っていつだよ」
「いつかよ」
笑うレモにそう言い返し、ティザーベルは地図を移動倉庫にしまった。
まさかこの後、帝都に戻ってすぐに次の依頼の話を受けるとは、この時の二人は知るよしもなかった。




