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拍手 170 二百六十七「告白」の辺り

 通路を使い、無事ネーダロス卿の隠居所に戻ったクイトは、使用人達を軽くあしらいつつ自分に用意された部屋に入る。

 和風のこの家だが、一部は帝国風の建築様式で建てられていて、クイトの部屋はこちらにあった。

 着替えもせずに、ベッドにダイブする。

「あー……」

 口から低い声が出る。無理だとはわかっていた。それでも、言わないままでいるよりはと思い、清水の舞台から飛び降りるつもりでした告白だった。

 そして、見事玉砕。わかってはいた。わかってはいたのだ。

「でも、やっぱつれー……」

 枕に突っ伏しながら、声に出す。感情は抱え込んでいるよりも、声や言葉にして吐き出した方がいいと言っていたのは、誰だったか。

「あー、爺さんだわー……」

 こんな些細な事まで影響を受けているとは。いてもいなくても存在感の大きな年寄りだ。

 そのネーダロス卿は、このままだと退院は難しいような事を聞いている。とにかく、気力が削がれている状態なので、治療が効果を現さない。

 病は気から、とは言うけれど、こんなに精神状態が肉体にまで影響を与えるとは思ってもみなかった。

 そのままどれだけ落ち込んでいたのか、部屋の扉をノックする音がする。

「うへーい」

「戻ったのか? クイト……何をしてる?」

 怪訝な声の持ち主は、ギルド統括長官を務めるメラック子爵ゼノストだ。クイトとは、年の離れた友でもある。

「落ち込んでるー」

「ああ、フラれてきたのか」

「ちょ! ゼノー、ストレート過ぎー……」

 この男には、血も涙もないのか。恨みがましい声で責めると、彼は無言でクイトのベッドに腰掛けた。

「他に言い方があったか?」

「そこはほら、オブラートに包んでも少しマイルドに」

「どう言おうと、フラれた事には変わりないだろうに」

「ゼノの悪魔ー……どうせ俺はフラれ野郎だよ。あんな腕も見た目も上の男には敵いませんよーだ」

 思い出したら、また落ち込んできた。ティザーベルが自覚なしという辺りも、拍車をかけている。まだ自覚していてフラれたのなら、もう少し傷も浅かったのではないか。

 ――いや……どのみち辛いか。

 失恋なんて、そんなものだ。だから、こうして落ち込んでうだうだしているのはフラれた自分の特権である。

 そう思っていたのに、すぐにゼノに連れ回されて忙しさに目が回る思いをする事になるクイトだった。

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