拍手 168 二百六十五「診察」の辺り
『正直ねえ、仮説を立てる奴はいたけれど、それを実証出来なかったんだよ』
「仮説? 他世界との行き来について?」
『そう。その仮説によれば、あたしらがいるこの世界も、それと地球世界も、でかいボールの中に浮かぶ数多くの宇宙に存在するそうだ。で、地球とこことじゃ違う宇宙で、距離も離れている』
「ほうほう」
『その大きなボールの中では、魂の状態なら距離を気にせず移動出来る、というのがそいつの立てた仮説だったんだよ』
「え? じゃあ転移は?」
『だよねえ。その頃にも、実は転移者ってのはいてね』
「本当に!?」
『いても不思議はないだろう? 転生者がいるくらいなんだからさ』
「まあ……それは……」
『まあ、あたしらの頃の転移者ってなあ、地球世界以外からも来ていてね』
「え」
『一見魔物にしか見えない連中もいたから、大混乱だったんだよ』
「それ……間違えて狩られたり……」
『したね。だから、大問題にもなったんだ』
「うわあ……」
『何せ、言葉どころかコミュニケーションに言語を使わない連中までいる始末だからね。大変だったよ』
「う、宇宙説を支持したくなってきた……」
『そんなだから、いつ、どこで、どんな条件下で他世界からの転移が行われるか、研究がなされたんだけど、これがさっぱり』
「わからなかったんだ?」
『副産物で、転移の術式は完成したけどね』
「ふくさんぶつ……」
『結局、転移の条件その他はまったくわからなかった。厄介だよ』
「じゃあ、こちらから他世界……地球世界に行くなんて事も……」
『研究はされたけど、結果は出ていないね。どうだい? いっちょ研究に挑戦してみるかい?』
「いや、無理」
『あっさりしてるねえ』
「自分が研究に向かない性格だって、わかってるからね」
『自覚があるのはいい事だよ』
「ちょっとムカつく」
『自分が言い出した事だろうが』
「だからこそ、ムカつく」




