拍手 132 二百二十九「囲まれた」の辺り
サフー主教はいらついていた。先日の第一級異端者の浄化に失敗してからというもの、異端管理局が機能していないのだ。
彼等が動いてくれなければ、エルフを仕入れる事が出来ないのに。
「まったく、管理局は何をやっているのか……」
とはいえ、彼の立場から管理局にもの申す事など出来はしない。こういう時こそ、日頃の人脈が物を言う。
彼は自身が所属する派閥の長であるヨファザス枢機卿のところを訪れていた。
「枢機卿猊下においては、ご機嫌麗しく……」
「麗しいはずがないだろう」
いつもの挨拶を口にしただけなのに、ヨファザス枢機卿からは冷たい声が返ってくるばかりだ。
どうやら、彼もサフー主教以上にいらついているらしい。
「いかがなさいましたか、猊下。お加減でも優れないのでは……」
「貴様も知っていよう。わしと貴様の屋敷から、誰かが密かにあれらを連れ出した事を」
「ええ……」
「犯人はまだ捕まらん。衛兵だけでは手が足りぬかと、傭兵達を使って探させておるが、足取り一つつかめん! どうなっておるのだ!!」
これは、思ったよりも厄介な場に来てしまったようだ。サフー主教にとって、ヨファザスは頼もしい味方であるけれど、時に鬱陶しく感じる相手でもある。
何より、年端もいかぬ子供相手でなくては役に立たないなど、変態もいいところではないか。
似たような趣味とはいえ、対象があまりにもかけ離れている為、真の意味でヨファザスとは相容れないと感じている。
とはいえ、今は管理局を動かさなくては。それには、教皇の右腕と噂されるヨファザス枢機卿の力が必要だ。
「猊下のお怒りはごもっともかと。どうでしょう? 衛兵や傭兵で手が足りぬなら、いっその事異端管理局を動かしては。彼等の下部組織のヤランクスならば、裏の事情にも通じていましょう」
「ヤランクス? ああ、亜人狩りを行う連中の事だな。しかし……ふむ、そうか。いいだろう、ヤランクス達を使って裏の事情を探ってみるとしよう」
「おお、これで猊下の憂いも晴れるというもの。私も喜びに堪えません」
「ふん。貴様もエルフが消えて何かと不便なのだろう?」
「ええ、まあ……」
「管理局全体を動かすのは手間だが、ヤランクスだけならば問題あるまい。下部組織とはいえ、あれは元から裏方だ」
異端管理局は、教皇直属の組織故、一聖職者が勝手に動かす訳にはいかない。それに、動かそうにも管理局自体が動きはすまい。
だが、ヤランクスは傭兵と同じで金で動かせる。奴らが亜人狩りを行うのも、何も教義に反する存在だからではなく、金になるからだ。奴らに信仰心などみじんもない。
ともあれ、これでヤランクスを動かす「理由」を得た。後は犯人捜索にかこつけてエルフを狩らせればいい。それをこちらが買い取れば、ヤランクスとて文句はあるまい。
久しぶりにすっきりとした様子で屋敷帰ったサフー主教は、その日はよく眠れたという。




