拍手 131 二百二十八「西へ」の辺り
シミュレーターの運転適性判断は、ティザーベル、レモ、フローネル、ヤードの順で良かった。
というより、後ろ二人はほぼ「適正なし」の烙印を押されている。
「これ……どうしよう?」
「二人でなんとか回すか?」
「うーん……長距離の運転って、疲れるんだよね。だからなるべく交代でいきたいんだけど……」
「じゃあ、適性とやらを無視して、覚えさせるだけ覚えさせておこうぜ。体で覚えりゃなんとかなるだろ」
「そう……かなあ?」
「馬だって馬車だって、そんなもんじゃねえか」
レモの言葉に、馬や馬車と車は大分違うと言いたかったが、どこがどう違うのか、うまく説明出来る自信がない。
結局、レモの言う通りに運転技術を覚えさせるだけ覚えさせた。前世の教習所でも、どう見ても免許与えちゃだめでしょって人も、何とか取っていたのを思えば、彼等でもどうにかなるかもしれない。
「そんな事を思った頃が、私にもありました……」
「嬢ちゃん、何ブツブツ言ってんだ? 気色悪いぞ?」
「うん、多分疲れてるんだよ。そうだよ」
「そ、そうか……」
レモはそれ以上何も言ってこない。ティザーベルが疲れている一番の原因は、彼の甥でもあるヤードの運転のヤバさだ。
何故、障害物に突っ込んでいくのか。いくら頑丈に作ってあるとはいえ、大木に突っ込んで無傷でいられるとも思えない。主に乗っている人間が。
何故、湖があるとわかってそちらに行くのだ。あと一歩遅ければ、ほとりから湖にダイブしていた。咄嗟にサイドブレーキを引いた自分を褒めてやりたい。
道なりに運転するだけでいいのに、何故あんなに速度を出すのか。ブレーキを踏めと言ってもさらにアクセルを踏み込む始末。ペダルの位置を覚えていないのか。
ヤードが運転した小一時間だけでこの有様だ。あの小一時間だけで、どれだけ寿命が縮んだのだろう。
「とりあえず、ヤードはなしで」
「……そうだな」
本人も自覚があるようで、落ち込んではいるけれど、再度のチャレンジを申し出てはこない。適性診断は、間違っていなかったようだ。
次はフローネルの番なのだが、彼女は彼女で緊張しすぎてどうにかなりそうである。風呂場では力を抜けと言ったけれど、果たしてどうなる事やら。
天が味方したのか、休養にあてろとばかりに雨が続いている。これ幸いと出発を遅らせる事にしたというのに。
どうしてこう、トラブルは向こうからやってくるのだろう。




