拍手 129 二百二十六「正体」の辺り
見舞いに来たマレジアは、溜息を吐いている。
「……何なの? 入院している人間の前で溜息なんて」
「ああ、ちょいとね。隠れ里自体は惜しくはないんだが、洞窟の庵が使えなくなったのが惜しくてねえ……」
「ああ、最初に会ったあの場所?」
「気に入ってたんだよ」
「あの薄暗い場所を?」
「何言ってんだい! あの薄暗さがいいんじゃないか! あんたには幽玄って言葉はまだ早いらしいね」
「そりゃぴっちぴちの若者だからねー」
「全く、口の減らない」
◆◆◆◆
ティザーベルが入院中、思うところがあったフローネルは、ヤードに剣の稽古を願い出た。
「稽古といっても、俺も正式に習った訳ではないぞ?」
「それでも! あの時の動きは素晴らしかった! 少しでも、吸収させてもらえればと思うのだが……駄目だろうか?」
「駄目という事はないが……あんたの剣は、俺よりレモに習った方がいい」
「え? レモ殿に? それは、何故だ?」
「俺の使う剣と、あんたの使う剣では大きさも重さも違う。当然振り方も違ってくる。レモは俺の剣より軽い武器を多く使うから、向こうに聞いた方がいい」
「そうか……よし、わかった! 感謝する!」
すっかりその気になったフローネルは、レモを探しにその場を去った。その背中を見送って、ヤードはぼそりと呟く。
「全部口から出任せだけどな」
ヤードは再び、剣を振り始めた。もっと早く、もっと鋭く。二度とティザーベルに怪我など負わせないように。
◆◆◆◆
査問が終わり、ヨファザス枢機卿との会談も終わったベノーダは、カタリナの見舞いに治療院を訪れた。
「いない? どういう事だ!?」
「どう、と言われましても……教皇聖下の配下の方々が、お連れになりました」
「何だと……?」
治療院に、カタリナはいなかった。片腕をなくしているというのに、どういう事だろう?
そのまま、奥院へ向かったが、当然のように立ち入りは禁じられ、その後カタリナの姿を再び見るのに二月の時間を要した。




