拍手 128 二百二十五「査問」の辺り
異端管理局には、戦闘に参加しない後方支援部隊がある。
「うへえ……ひでえな」
「こっちも、血だらけだよ……」
異端管理局による第一級異端者の浄化失敗の後始末は、彼等後方支援部隊の仕事だった。
ある者はスニの死体を持ってきた袋に詰め、ある者はオアドやカタリナが流したとおぼしき血の後始末をしている。
そして、大部分のものが携わっているのが、隠れ里の調査だ。
「なあ、知ってるか? ここにいたっていう第一級異端者の事」
「いや、知らないが」
「何でも、恐ろしい老女だったというぞ。しかも、もう何千年も生きているとか」
「何だそれ? そんな訳ないだろ? 人間が、そんなに長く生きられる訳ないじゃないか。エルフだってせいぜい二、三百年だって聞くぞ?」
「だから! それが異端の理由なんだって!」
「馬鹿な事を言っていないで、次いくぞ」
隠れ里の中は、見事に誰もいない。住んでいた形跡はあるものの、残っているのは家屋とガラクタばかり。
「ものの見事に何もないな。あるのはどうでもいいゴミばかりだよ……」
「あ、なあ。あれ、何だ?」
同僚の指さす方向には、何やら大きな屋敷がある。
「行ってみよう」
「ああ」
屋敷は大きく、おそらく里の重要な人物が住んでいたと思われる。今まで見た事もないような不思議な建築様式で建てられたそこに、二人は圧倒されていた。
「すげえな……」
「そうだな……。これも、壊すんだよな?」
「なんか、もったいないな……」
「馬鹿! そんな事を言ったら、異端扱いされかねないぞ!」
「あ、ああ。気をつける」
彼等は屋敷を隅から隅まで探し、やがて屋敷の一番奥に不思議なものがあるのに気付く。
「……何だ? これは?」
「家の中に家……というには、小さいな。どうなってるんだ?」
「わからん……」
それは小さな祠なのだが、彼等が知るよしもない。だが、扉が開けられそうだったので、ふと一人が手をかけた。
途端、手をかけた者が姿を消した。本当に一瞬だったのだ。残された同僚は、悲鳴を上げながら屋敷から駆けだしていった。
「ここ、どこだ?」
薄明かりの中、浮かび上がる巨大洞窟の中に転移させられた後方部隊員は、途方にくれて呟いた。彼がここから救出される日は、来るのだろうか。




