拍手 127 二百二十四「痛み分け」の辺り
いつものように聖都の屋敷に帰ったフラー主教は、いつものように「コレクション」達を眺めようとして絶叫した。
「な、ななななな、ななななー!!!!」
言葉にならないそれは、すぐに屋敷の警備を担当するものにも伝わった。
「どうしやした?」
あまりの事に腰を抜かした主教は、部屋に入ってきた警備の者をまとめる男に振り返る。
「わ、わわわわ私の大事ななななな」
「へえ?」
屋敷内の警護は、少々後ろ暗い事も金で請け負う傭兵達を雇っていた。何せ表沙汰になったら大変なものをこの屋敷に大勢抱えているのだ。
いや、いたのだ。つい今朝方までこの屋敷の奥にいたはずのエルフ達が、一人もいない。
そこで、サフー主教ははっと気付く。まさか。
彼は太った体をよっこいせと起き上がらせ、慌てて地下室へと向かう。この奥が空っぽという事は、まさかそんな……
「あ、あああ……」
陰湿な空気の流れる地下室には、人っ子一人いない。夕べまでここでかわいがっていたエルフ達も、皆どこかへ消えてしまった。
「これは……どういう事だああああ!!」
サフー主教の怒りは、とうとう警備主任に向けられた。
「一体! どこの! 誰が! わしの屋敷から! エルフ達を! 連れ出したんだああ!!」
「はあ? いや、今日は誰もお屋敷には来ておりやせんぜ?」
のんきに答える男を、サフー主教は怒りにまかせて殴りつける。だが、さすがは荒事に慣れているだけあって、主教の拳は軽く受け止められてしまった。
「おいおい主教さんよお、俺らは金であんたに雇われちゃいるが、その仕事は屋敷の警備だったはずだ。あんたの趣味に付き合うつもりは毛頭ないぜ」
「当たり前だ! 誰がお前のようなものを!!」
解放された拳は、強い力で握りこまれたせいか痛む。
「とにかく、俺らがいる間に、お屋敷に来た人間はいねえし、潜り込んだ奴もいねえ。それは保証する」
「じゃあ! 彼等はどうやって消えたっていうんだ!?」
「エルフってなあ、魔法を使うって言うじゃねえか。魔法でぱっと消えちまったんじゃねえのか?」
「そんなバカな事があるか!!」
いらついた主教は、感情のままにその場で地団駄を踏む。エルフの魔力はヤランクスによって封じられていたはずだし、何よりここから抜け出すだけの力はないはずだ。
だが、現実問題誰の目にも触れずにエルフ達は消え去っている。
あれこれ考えたが、解決方法はない。誰がやったにせよ、侵入方法すらわからないのでは、対処のしようがないのだ。
「ええい、ならば……」
再び、異端管理局に行ってエルフをもらい受けてくればいい。女は他の街でも売れるが、男は売り場所がない。クリール教では、男色は禁じられているのだ。
そうとなれば、早いに超した事はない。サフー主教は身なりを整えると、大聖堂へと戻っていった。
同時刻、ヨファザス枢機卿の屋敷でも同様の騒動があった事を、主教は後になって知る事になる。




