第5話
20××年8月11日午前10時
前日の大騒ぎの後、謝罪と話し合いの為に悟志が代表としてダンジョンを訪れ応接室で和希と話し合っていた
「この度はこちらの要請に答えていただきありがとうございました。」
「いえいえ、こちらとしてもまだまだお互い知らない状況で一部の者達の蛮行で関係を閉ざす程思考が狭くはありませんので...儀礼的なのめんどくさいから正直にいこう、事前の打ち合わせ通りに引き渡してくれるんだよね?」
「問題無い、どうせ野党議員達が何かやらかすのを待ってやらかしたら謝罪として自衛隊の旧式兵器を譲り渡す予定だったんだ...流石にここまで大規模なのは予想外だったが、ここに来る前に総理とあったが凄い機嫌よかったぞ、色々とやり返す気だろうな。」
早速身内同士の話し合いになるとそう話した
実際のところ野党全体で酷い考えだったので何かやらかすだろうなと政府やダンジョン側も想像がついていた
そこでその予想を逆手にとった
日本政府は近年凄まじい勢いで軍備拡張を繰り広げている近隣諸国に対抗する為保有する兵器の近代化を図っていたが、その近隣諸国からの資金提供等を受けた野党議員達や市民団体等に妨害されていたのである、それに伴い仕方なく兵器の数的縮小も行いつつ少しづつ更新していたが、その退役させた旧式兵器の処分に困っていたのである...保管しようにも金がかかるしうまく誤魔化して保管しないと変な連中が騒ぎ立てるで面倒だった
ダンジョンとしては異世界の技術に関して勉強したい、その中でも軍事技術は特に良いもので在るなんせ軍事技術は作られた当時の最先端技術の塊だ...ただ手に入れるのは困難だ、それに技術だけでは無く自衛手段を増やすためにも軍拡したい
「あれ? これダンジョンで運用してもらって有事の時に貸して貰えば良くないか? どうせ退役させる旧式だし親日国に売るとしてもそこまで数は捌けないし。」
「そういえば旧式の兵器を退役させてるらしいな日本は...これ資源を代金に売ってもらえば極めて合法的に手に入れられるし技術も軍事力も手に入る、防衛協力も日本が落ちればこっちも攻撃されるからどうせ防衛に協力しないといけないから部品とか装備の融通が簡単になる。」
両者の利益が一致した、即座に密約が結ばれた
今回の規模は想定外だったが寧ろ邪魔立てする連中が行動不能になったから、賠償目的で従来の計画よりも多く譲渡する事となった
「とりあえず歩兵装備一通りに自動小銃は64式シリーズを中心に89式も少し紛れ込ませといた、車輌に関しては軽車輛に戦車まで選り取り見取り...まあその分航空機と船舶は無いけどな、その分空自と海自から分捕って来たぞ。」
「兄ちゃん一応自衛隊新米幹部でしょうが、組織への恩はどこ行った。」
「少なくとも窓際に追いやった連中が手の平返して甘い汁吸おうと近づいてくるし挙句の果てお偉いさんの娘を娶れとか言われたら愛想が尽きるからなぁ。」
悟志はそういって出されたコーヒーを啜った
実際同じように窓際にいった同僚達と馬鹿にされながら資料整理しかやらせてもらえなかったのに、ダンジョンが出てきたら同僚達と一緒に二階級昇進して新設された『迷宮対策部』に配置変更されて、窓際に送り込んできた連中が胡麻擂ってくるわ上層部のお偉いさんから妻の美琴と別れ自身の娘と結婚しろと遠回しに言われたのである、尚流石にキレて辞表を叩き付けたが上層部から謝罪され無理矢理撤回された
そんなであるから最早自衛隊という組織に魅力など感じ無かった
ただ高い給料払ってくれるから雇われているだけだった
「まあどうでも良いや、こっちはドワーフ衆とゴブリン衆が61式と74式に早速群がってバラしてたよ...つかまだ61式なんてあったのね。」
「倉庫で誇り被ってたのと各駐屯地で保管してたもんだよ、お前も前ニュースでヨルダンに持っていく予定だって知ってるだろ? それに合わせて掻き集めてるのさ、74式も同じように解体しようとしてるの急いで掻き集めてるよ...ここだけの話だが既に開発中だった10式戦車の後継開発を急速に早めてる、開発完了して生産ライン組んだら即座に90式も送られてくる予定だ、日本としても少しでも戦力を確保したいようだな。 因みに16式も90式と一緒に2量確保しといたから一緒に送るらしいぞ...ダンジョン側が敵対するつもりも利点も無いから色々とハチャメチャやってるな。」
「まあこっちも日本と殺しあう予定は無いよ、番犬として活用させてもらう...それとだけど例の放射性物質に関してだけど...」
和希の言葉に悟志は前のめりになった
「大丈夫だった、貰った汚染水と汚染物質と世界樹にやってみたら除染して無害化しやがった、しかも世界樹の負担は確認されなかったから多分かなりの量対応できる。 管理担当のエルフにも確認取れてるよ。」
「これで原発関係は何とかなるな...廃棄する核燃料に関してはロケットに乗っけて宇宙に吹っ飛ばすそうだぞ。」
悟志は和希の言葉に深く息を吐くとそう話した
和希はその話を聞き、コーヒーを一口飲んでから話し始めた
「それに関して話そうと思ってたんだ...なんか建造中の飛行艦なんだけど原型は宇宙船らしくて推進機関の浮遊機関も宇宙空間だと推進力小さくなるけど使えるらしくて宇宙空間だから摩擦が無いからどんどん早くなるし誤差とかもあるけど火星とか往復1ヶ月位で行ける様になるらしい。」
「何が何でもハチャメチャすぎんだろ! これだけで世界がお前ら狙うわ! うん? まさか...まさかとは思うが...」
「という訳でJAXAに話し通してくれない?」
「だと思ったよ此畜生! 完全に日本矢面に立たせる気満々じゃないか! NASAとかからエライ事言われるなこりゃ...」
悟志は完全に1人の自衛官が抱えていいい話題では無い事に頭を抱えながらも手渡された資料に目を通し始めた
「一先ずダンジョン側としては暫くは資源輸出用の5000トン級飛行輸送艦と5万トン級飛行輸送艦を建造する予定で陸上兵器関係は61式と74式の運用はちょっと無理かな? なんかドワーフの技師達に資料見せたら凄い表情で見た後にね...」
『こんなもん運用するぐらいなら儂等がええの作ってやるわい。』
「とか言って昨日の騒ぎで初めて出した6脚式の半人型機を改造して戦力化させるって...何でもローラーダッシュで武装も歩兵みたいに多数作って市街地戦にも対応できるようにするってさ、銃火器に関しては6.5ミリ弾で作るって。」
「6.5ミリ弾って完全に反戦団体からいろいろ言われるだろ。」
「だってダンジョンにいる人達全員身体能力が地球人類とけた違いに高いもんだから5.56ミリ弾は弱すぎて逆に使いずらいって意見が出てるんだもん、始めは15ミリ弾とかいう恐ろしいの主軸にしようとしてたんだよ? そこを何とか6.5ミリ弾にしたんだから、元々5.56ミリ弾最近じゃ扱いずらいとかでまた7.62ミリ弾注目されてるぐらいだからいっその事6.5ミリ弾が良いんじゃないかってさ...15ミリ弾は汎用機関銃枠で新型機関銃開発してて試作中だから、M2重機関銃引退させて採用したら? 幾ら何でも長く使いすぎでしょ。」
「わかったわかった、提案するだけしてみる...この輸送艦派生型の強襲揚陸型は何だ?」
「自衛隊って離島で有事の際は部隊展開に民間のカーフェリーとか借りる戦略立ててるって知った技師達が哀れに思ってコンテナ運搬用の派生型を改良して迅速に人員と物資の揚陸できるように設計したらしいよ...まあ自己完結型の軍隊が民間に頼る事前提で戦略立ててる時点でねぇ?」
「そこまで哀れに思われるとは...」
悟志はさらに肩を落とした
「ま、まあ鉱石運搬用のを流用してるから気にしなくていいと思うよ。」
そんなこんなで話し合いが終わった悟志は総理官邸に報告の為ヘリに乗って戻っていった
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「15ミリ機銃に6.5ミリ小銃の新規開発と配備だと?」
「という事は我々の持つ火器との共有は考えておらんという事か...」
「どうする? 完全に防衛計画が破綻する、これらの弾薬を採用したらアメリカから色々と言われるぞ。」
「最近はアメリカからの圧力凄いからな、ダンジョンマスターがアメリカ原住民とかでSNS大統領と議員共が馬鹿やって敵対姿勢らしいからな...ダンジョンと友好関係結べた日本が気に食わんらしいからなぁ。」
総理官邸での報告を済ませた悟志は昼飯もそこそこに防衛省に呼び出され、会議室に集まった陸空海自衛隊上層部に対し報告する羽目になっていた
「ダンジョンマスターから聞いた話によれば敢えて弾薬の互換性を無くす事で警戒を解く事を目的にしているそうです、5.56ミリ弾と12.7ミリ弾を始めミサイルに至る全ての弾薬を生産し隠密裏に提供する準備も始めているとの事。」
「我々の弾薬不足も解決しそうだな...ところでこの自走対空砲はなんだ? 15ミリ弾に関してはわかるのだが...」
悟志の言葉に安堵した幹部は資料に書いてある貸与予定の4脚式自走対空砲について尋ねた
「対ドローン用にだそうです、兼ねてからの計画により割譲予定のダンジョン一帯の対空警戒に当たらせるそうです、貸与に関しては事前に試作型を自衛隊が使用して問題点を洗い出して貰いたいとの事で正式型が量産されれば150基を各駐屯地防空用に提供するとの事です。」
「成程な、確かに近年のドローンの脅威は無視できない物だ、アメリカ軍でも対テロ用に新型の自走対空砲を開発中との報告も入っている、自衛隊でも配備するのは得策か。」
幹部は悟志の言葉に頷いた
「また他脚式車両の貸与に関しても新型の生産が終わり次第行うそうです、ただドワーフ技師達にダンジョンマスター和希の所有していたゲームを強奪されそれによく似た兵器が量産される恐れが高いと通達を受けています。」
「日本が勘違いされないかねそれは...」
「彼曰く『もうその気になってるから無理、せめて強力なのを生み出すように監視して置くのでご安心ください。』との事です。」
悟志は自分で言って訳が分からないと言わんばかりに苦々しく報告した
「飛行艦に関しては報告書通りなら防衛戦略と災害時の対応の仕方が根本から覆るな、良い意味で...皆様方もよろしいですな? 飛行艦に関しては文字通り世界の歴史を変えるものです、新たに組織を立ち上げる事も視野に入れて動いていきましょう...JAXAに関しては自衛隊からも掛け合っておく、NASAから圧力を掛けられても気にするな、この技術があれば態々国連の顔色伺う必要も無くなる、ISSも無くなるから丁度いい、日本独自に宇宙ステーションを作り運用する事が可能となるだろうな。」
そして会議の取りまとめ役である幕僚長がそう締めくくった
「悟志3佐もご苦労だった、一先ず自体が落ち着くまで待機してほしい...今国会は先日の議員方々のバカ騒ぎで大騒ぎだ、自衛隊の拠点に関しても反戦と無抵抗主義を掲げるデモ隊が行動していてピリピリしている、ここで事態の中心人物である君がノコノコ出て行ったら恐ろしい事になりかねん。 君には事前に通知した住居まで護衛を付けて送らせよう...斎藤悟志3佐、貴官には自宅待機を命じる。 有事の際には即座にありとあらゆる移動手段でもって防衛省に出頭せよ...ご苦労だった。」
「了解しました、失礼します。」
悟志は敬礼した後、会議室を出て護衛と一緒に割り当てられた住居に帰っていった
「では諸君、悟志君が居なくなった所で本題に入ろう...売国奴共が動きだしおった、具体的には共産派の幹部共が少しづつではあるが水面下で動き出している...バカ騒ぎをやるのは議員方だけで十分だ、直ぐに指揮下の部隊の引き締めを行ってほしい。」
幕僚長は静かに声を潜めて話し始めた
「頭が足りん議員や国民や若い自衛官達はダンジョンを創作物であるようなファンタジーチックな物だと勘違いしておるがダンジョンは恐ろしい存在だ...僅か2ヶ月で飛行艦の建造だけでは無く新型の兵器の研究開発まで行っている。」
「まったく、『ダンジョンコアなるものを破壊すればダンジョンを日本の物に出来るから奇襲して制圧しましょう!』とか噂や創作物で仕入れた情報だけで物事を考えておりますからなぁ。」
「山方陸将、そちらはどうですか?」
「順調ですよ、貸与されたG・W恐ろしい位に使いやすいようで若い連中も直ぐに乗りこなして訓練に励んでおります、またダンジョンに送る兵器類に関しても既に準備していた第1陣をヘリ部隊の支援の下護衛部隊を付け出発させました、また陸空海共同でダンジョン周辺に飛行艦発着港の整備を開始しております...農林水産省と外務省もどうやら寂れた漁港を大貿易港に拡大させようとしているようですね。」
山方陸将...悟志の上官にして窓際族だったのを新設された『防衛省総合迷宮対策部』に栄転となった
将官だった
「直接飛行艦での資源の搬入は困難だから積み替え拠点と貨物港も兼ねた貿易港を整備するか...実際には雇用維持とポスト確保だがな、政府の方も労働基準監督署の人員増加を行って巷のブラック企業を潰しまわって人的資源を確保する計画らしいな。」
「入隊希望者増えそうで何よりだ、それ以上にブラック企業から解放された者達が正規の条件で働き始めれば税収も増え防衛予算も上がる...初めの1歩から躓く訳にはいかんな。」
夜遅くまで会議室から喧騒が絶える事は無かった