第4話
「国会でうちの独立国として採決が強行された? これはまだ良い、けどだからって国会議員達が無理矢理査察に来るって聞いてないんだけど...いっそ追い返すか。」
「ご主人どうする? ふっとばす?」
「お座りだよマーナ、マーナが本気で吹っ飛ばしたら全員ミンチになるからね。」
「わかった、ご主人も落ち着いてね、ちょっと怖い」
「ごめんね、あいつら見てるとすごい殺意湧いてくるの。」
和希のボヤキに真面目に答え、今にも押し掛けている招かれざる客である野党勢力の議員達を蹂躙しようとしているマーナを押し留めながらマーナの言葉に返した
20××年8月10日午前10時
『日本迷宮』を独立国として認める決定をしてから10日後、急速に各機関と政府間で交渉と交流が行われていた
その代名詞が先日自衛隊に貸与されたファンタジーとSFを掛け合わせたような重機と薬品類であった
正式名称・遠隔操作術式搭載半人型4脚作業機試作1号 製作者達の話し合いの結果、『ギラベスト・ワーレン 通称 G・W』エルフ族の古代言語で働く者という意味の名が付けられ、この名は始めはこの機体の名称であったが、半人型機全体の名称として定着していく事になる
表層の工場階層にて生産された試作1号の初期生産品の3機が陸海空自衛隊に1機づつ貸与されたのである
薬品類に関しては生産数は少ない物の恐ろしかった、先天性障害改善薬に身体再生薬という名前だけで恐ろしい物だった
エルフ族が植えた世界樹とその他の希少な樹木から取れる産物を抽出し製造された物で、先天性に特化させる事で脳機能の障害を取り除く代物と欠損した身体を再生させる代物の2つだった
流石に服用してから教育やリハビリが必要ではあるがそれでも医療業界を破壊し兼ねない恐ろしい代物であり、現在は日本国籍限定の希望者の中から抽選で臨床実験を行う予定で、副作用などの確認が終わり次第1つ100万円で日本政府に売却し、それらを日本政府が責任をもって重症患者を中心に支給する事が決定しており、その際には政府役人の監視下の元行われる予定である
服用した事にして他国に流そうとする売国奴が出ない様にする為である
ともかくそんなこんなでダンジョンのみならず日本も急速に注目を集めつつあった
そして諸外国への対応で政府が大忙しになっている間に野党勢力が動いたのである、政府や各省庁がてんやわんやになっている間に会合として集まった野党議員達が集団でバスや支援者の車輌等を使い支援者達やマスコミと共に一斉に『日本迷宮』に襲来したのである
警備の自衛隊や警察もいた事はいたがダンジョンの驚異度が低下した事により工作員や特殊部隊等の非正規戦に注力する様になっており表向きの警備は全て合わせて2個大隊規模で分散していたのである
因みに非正規戦に関してはダンジョンを囮にしてエルフ族や妖狐族と協力体制を取っている自衛隊特殊作戦群が無双していた
襲来した一団は先頭に支援者の1人が社長を務める建設会社のブルドーザーを配置し設置されていた警察検問所と木製の簡易バリケードを突破、この時点で報が入り即応待機状態だったSAT1個小隊(迷宮の出現により規模を拡大していた)と陸上自衛隊普通科1個小隊が出動し途中の農道で止めようとしたが、国会議員が乗る車両が先頭に出て来た為司令部が混乱しその隙にブルドーザーが再び先頭に躍り出てバリケードにしていた装甲車や車両を破壊し突破したのである
近隣の仮設駐屯地から自衛隊の増援部隊が緊急出動したが到着したころには既に支援者達や乗ってきた車輌群で各道を封鎖し足止めされてしまったのである
議員達はマスコミを引き連れダンジョン正面ゲートに接近し大声や拡声器による声やプラカードを掲げる等の様子を撮影させながら
1.与党が強行採決した『日本迷宮』の独立国承認は認めない
2.異種族が地球人類に対し危害を加えない様に非武装でいる事とそれに伴う物品の提供、生活に必要な物は我々日本が責任をもって提供する
3.病原体の侵入を防ぐ為、それぞれから各種族男女1人づつと指導者達を国内外から集った専門家達による精密検査と遺伝子の提供を行え
4.世界平和の為、現在進行中の『チベット迷宮』攻略の為にありとあらゆる知識と技術の提供
5.以上の事を受け入れれば我々は『日本迷宮』に居住している異種族の生存と繁栄を約束する、受け入れられなければ受け入れるまで全面封鎖を実行する
という事を通達したのである
マスコミ各局はダンジョンに到着した時点から生中継で放送しており、事態に気が付いた政府組織から放送をやめる様にとの通達があったが
『報道の自由を侵害するのか!』
と鼻で笑い続行させた
政府も新設した迷宮省から担当官を自衛隊の輸送ヘリであるチヌークに乗せると同時に空挺部隊やヘリ部隊を急行させた
そして現在和希は恐ろしいまでの殺気を滲ませながら議員達を表層に設置された監視拠点から眺めていた
和希は落ち着くため静かに目を閉じた
脳内にはあの日の忘れがたい記憶が蘇ってくる
両親と妹が体のあちこちが損壊し冷たくなって帰って来た時の事、マスコミの報道では車を運転していた父が運転ミスを起こし中国と韓国からの留学生4人が乗る車に衝突し亡くなったと報道し名誉が傷つかれた
しかし実際は違った、祖父が伝手を使い独自に調べた所衝突したのは留学生側で飲酒運転による信号無視と速度超過による暴走により、左折していた家族の乗る車の横から衝突したという事と、それを隠すため留学生の親の1人の中国共産党幹部が指示を出し野党の大物議員の影響力で捜査を妨害している内に当事者の留学生達は帰国し、誤報を起こしたマスコミも共産党幹部から金銭を受け取り事故を無かった事にした...世間はこの事故を直ぐに忘れてしまった
和希はその時祖父の家に先に到着しており、残りの三人は学校や仕事関係で後から到着する予定だった
祖父はその真相を知ると倒れて亡くなった、まるで残りの寿命を怒りの余り燃やし尽くしてしまった様にだった、祖母はその以前に風邪を拗らせて亡くなったっていたが仮に生きていたら同じように悲しむ以上に怒っていただろう
大手企業に勤め腕の良かった精密機器の技術者だったが派閥争いに巻き込まれ退職した父、同じように大手企業の新型AI開発の主力だったが女であるという理由だけで碌に開発に携わっていない会社幹部の息子達に手柄を取られ退職し専業主婦になった母、そんな両親を見て自分で店を持ちたいと調理師学校に通っていた妹
元々祖父の家に行くのも家業の農家を継ぐ為の準備だった、使う時間が中々無く溜まっていた貯金や退職金はかなりの額で自給自足と節約をすれば稼ぐ必要が無かったからだ
両親と妹の遺産を継いだ時は酷かった、あったことも無い親族や友人が大勢現れたほか勤めていた企業の関係者が両親が機密漏洩により利益を得ていたとして遺産を寄こせと殴り込んできたのである
もっとも当時まだ生きていた祖父がぶちギレて自称親族は家系図に無いとして鉄拳制裁の後に上からの圧力に負け犯人を取り逃した警察がせめてもの償いとして自称親族全員を逮捕し刑務所に放り込んだ
自称友人に関しては本当の友人達が証言し同じように警察が厳重注意若しくは逮捕を行った
企業関係者は証拠が明らかに捏造されているか濡れ衣だった為、その企業内部で粛清や調査の後の提訴が行われた事によりそれどころでは無くなり消えた
「(だがもう二度と失わない、失ってたまるか!)」
和希はもう招かれざる客人達を穏便に返すつもりは無かったしそれに踊らされる馬鹿な民衆にも絶望していた
冷静な表情ではあるが少し笑ってしまった、自分自身が復讐に囚われている事とダンジョンマスターが皆人類に対する復讐心を抱いている事を再確認した事でだ
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「(全くもって恐ろしい。)」
妖狐族族長にしてユキカゼの母親であるフブキは自身の娘を和希の供回りに出した事に改めて安堵した
300年近く生きてきて、こんな滲み出てくる位の濃い復讐心により出てくる冷徹な笑みを浮かべる人物を敵に回さない様にユキカゼを差し出した事をだ
周囲を見渡すとマーナを除いた皆が一様に少し震えていた
監視拠点はゲートとなっている洞窟入口を監視し防衛できるように隠蔽されており、内部は数十人が重火器を中心に迎撃戦闘できるように広くとられている、かつての日本が経験した大戦の教訓を基礎に和希から手に入れた最新の軍事技術を応用した強固な陣地だ
そんな場所が今恐ろしい位居心地の悪い空間になっている
隣にいるドベルグも少し冷や汗を掻いており、視線が合うと小さく頷いた
和希本人は自覚していないが普通の人間からダンジョンマスターとなった事で恐ろしい位圧力を増しており氏族長衆や精鋭等の実力者以外の一般兵は今にも倒れそうだった
「カズキ君サッサとあの人達追い返しましょうか、二ホンの自衛隊とか警察の人達がいるだろうし警備部隊の実力行使で追い返すわね。」
「死ななければ大丈夫ですお願いします、自分はちょっとマーナに甘いの用意しますね。 何か飲みます?」
「儂は少し酒を貰おうか、ドワーフは酒に酔わんからの、ちっこいカップにウイスキー。」
「わっちはコーヒーをお願いします。」
ドベルグとフブキの要望に和希は頷くと背中に抱き着き張り付いているマーナを連れて出ていった
「これ完全にあれじゃの、マーナと精霊がカズキの負の感情吸い取っておるわ。」
「やはりそうですか、わっちも精霊達が激しく動いているのを感じました。」
2人はその場にいる自分達以外の者達が息も絶え絶えになっているのを横目で見ながら話した
「やはり話さなくてよいのか?、アルベルク氏族がエルダー・ドワーフであると知ったらどうなるか。」
「それどの種族も同じですよ。」
和希は知らないがダンジョンに居住しているどの種族も普通の種族では無かった
アルベルク氏族はドワーフ族の中でも精霊に近く愛される上位種だった、対立もエルフ族を嫌い大量の良質な武器防具を生み出し戦乱を助長させるドワーフと異種族を受け入れとびきり優秀な武器防具を生み出
し自己や親しい者達を守ろうとしたエルダー・ドワーフの対立だった
戦争をしている所に売り込むのはわかるが、利益の為に火種が無い場所に戦争を起こし売りつけるのは許せないもので在り、そうした場所に武器防具を売り込み対話の場所を用意し平和に争いを起こさずに道具を売り込む事で対抗したのである...その結果居住地に毒を撒かれ財産をもって流浪の身となってしまったのであるが
妖狐族は古代人達の中で唯一と言って良い心穏やかな国民性の極東の列強で生まれた『希望の種』と呼ばれた人口生命体の末裔だった、他の列強は自己意識は危険とし自我を取り払い繁殖機能も無くした戦闘用の人口生命体を生み出したが極東の列強は違った、彼等は道具ではなく共に歩く相棒として生み出した
ちゃんと自己意識を認め繁殖機能も取り払う事なく人権も認め結婚すら認めた、戦闘用ではなく労働力として歩ませたのである
結局古代文明は滅び記録も失われたが言語は残った、似たような文明を持つ場所に居住出来て管理人もその文化に詳しい事は種族として実に喜ばしい事だった
森エルフと呼ばれるブレノック氏族と山岳エルフと呼ばれるデザーリア氏族も精霊エルフと呼ばれ永遠に近い寿命を持っており、通常のエルフ族は極度の排他主義且つエルフ至上主義を掲げており、山岳エルフにも肌の色の違いから排除しておりそれをブレノック種族が庇っていたのである、平均寿命500年の通常エルフ族は排他主義とエルフ至上主義を継承し永遠に近い寿命の精霊エルフは排他主義やエルフ至上主義を嫌いエルフ族伝統の薬品類を異種族に卸し対立していたのである
もっともアルベルク族の排除を切っ掛けに住んでいた森林を攻撃され同じように流浪の身となった所を異世界のダンジョンを第二の故郷とする事となったのであるが
ゴーディク氏族はただ単純に大昔の悪い面しかないモンゴル帝国みたいな他のゴブリン族に呆れ対立していたのであるが、他の氏族が簡単に略奪で利益が得られる遊牧では無く畑を耕し利益こそ少なく気候に左右されるものの安定的に食料を手に入れられる農耕を主な産業にしていたのはその例だろう、主に隣の地域に居住していたアルベルク氏族に食料を卸して外貨を稼いでいた
マーナに至っては超大国が敵対国に侵攻する際に、1個方面軍を殲滅し総司令官クラスの要人を護衛し性的要求を発散させるために製造された超高性能生体兵器である、当時採取された『ドラゴン』『フェンリル』と呼ばれる生体兵器のDNAを国1番の美人と兵士のDNAを掛け合わせ作り出されたが使用される前に古代文明が崩壊しその後は封印状態だった所をダンジョンに漂着、そこを当時ダンジョンマスターとなったばかりの和希に解放されそのまま配下になった、それゆえに和希に全幅の信頼と忠誠を誓っている
なお当時の和希は半ばヤケになっており特に恐怖は感じずマーナを解放した
そんなこんなであるがゆえに今現在全種族は領地に近い居場所を用意しただけではなく環境すら整えた和希に忠誠を誓おうとしているが、和希はのらりくらりと逃げ回る為マーナを抱き込み美女達による色仕掛け無理矢理取り込んだのである
そんな経緯で有る為指導者層はともかく一般クラスは和希の事をただの女好きなお人好し指導者として認識していたがこの和希のオーラに触れた事によりその認識を改めこの事を広めるだろう
今最大の課題はてっきりそれぞれの種族が他の種族が既に伝えているだろうと考えて伝えてなかった上位種であるという事を伝える事である、故意で無いにせよ騙してしまっているのだ誰か言わないといけない
そんな事を考えていると動きがあった
「気のせいかのフブキ、あいつらぶるどーざーとかいうもん持ち出し取る気がするんじゃが...」
「連中助走付けてます! 門を破壊するつもりなのでは?!」
「はあ?! 正気かやつらは!」
「直ぐに射撃兵にタイヤを狙うように連絡を! 止めなさい!」
「大楯兵入口に急げ! 内部で密集隊形で押し留めろ! こうなるなら門をもっと分厚くしとくんじゃった! 薄い3ミリの鉄板じゃから直ぐ破られるぞ!」
ドベルグの呟きに兵士の1人がそう報告すると相次いで命令を出した
別の場所ではゴーディクが慌てて指揮下の槍兵部隊に鎮圧を命じていた
議員達はそれらの行動に引き連れていた支援者達に時間稼ぎを命じると取材機器を持つマスコミに対し
「ではこれより強制査察を開始します! ここまでして我々の立ち入りを認めないとは何か隠しているに違いありません! 正義と国民の皆様の安全の為に突入します!」
と興奮しながら叫んでいた
足止めされていた自衛隊や警察も事態の変化に気づき、格闘戦が得意な数人がバリケード代わりに道を塞いでいた車輌の乗っ取りを行い、他の持ち込んでいた資材によるバリケードを粉砕し突破したが間に合わなかった
ブルドーザーは入口の門を粉砕、その直後砲撃かと間違う位の音を出しながら飛んできた矢玉にタイヤが破壊され頓挫したが道は空いた
内部はコンクリートの様な物で綺麗に舗装されておりかつてのデコボコは無く照明も多数設置されており、一目でどこかの基地といえるように整備されていた
そして道を塞ぐようにフルプレートに大楯装備のドワーフ大楯兵と6脚式の半人型兵器2両が大楯を構え密集隊形を組んでいた、ただ何人かは倒された門を支えようとして逃げ遅れたのだろう倒れた鉄板の門の端っこで藻掻いており、仲間達により後方に送られていった
そして議員達はマスコミと残っていた支援者達を引き連れ突進し
「どけ! 査察だ! 邪魔だ!」
「何が査察だこの野郎! あんな事言っておいてふざけるな! 押し返せ!」
「前列台座になれ踏み越えろ! 角材持ってこい!」
「者共耐えよ! ワシ等の防具を信じ耐えよ! つか弱いなこいつら!」
押し合い始めた
最後の一押し用に温存されていた嘗て学生闘争を繰り広げた団塊世代の指導を受け角材や鉄パイプに木刀等で武装した支援者達による突撃部隊が殴り掛かり前線を構築し、その前線を踏み台に支援者に扮していた各国の諜報員や荒事担当の後衛部隊が前線を飛び越えマスコミから見えないのを良い事に明らかに軍用と思われる刃物や鈍器等を取り出し殺傷しようとしたが、フルプレート且つ首にも防具を纏っていた為防がれて後方の拳や体の関節をバキバキ鳴らして待ち構えていたゴブリン族やエルフ族の近接兵達にタコ殴りにされ証拠として撮影されながら制圧された
「全員引け! 準備出来たぞ!」
後方からそう叫び声が響くと前線で押し合っていたドワーフ兵達が潮が引くように引いた
それに呆気に取られたが直ぐにその意図に気が付いた
中央に同じ型の6脚式半人型兵器が両手に大楯を構えており、ドワーフ兵達が撤退すると後方からもう1機現れ左右に分かれぴっちりと隙間なく手に持っていた大楯で塞いでしまったのである
それからは簡単に追い出せた、侵入しようとしている侵入者達をその馬力に物をいわせて押し出したのである
外に押し出された侵入者達が目にしたのは完全武装で展開する自衛隊部隊と警官隊だった
マスコミ及び支援者達は不法侵入に公務執行妨害や器物破損等の罪状で現行犯逮捕
議員達は不逮捕特権を理由に逃げようとしたが犯罪の証拠がバッチリ揃って現行犯逮捕できる状況だった為そのまま逮捕されたが
『議員が居なくては議論にならない』
という理由から騒ぎに参加しなかった野党連合の議員達から連盟の要求書を出し釈放されることとなった
もっとも再選は難しいだろうし、警視庁公安委員会を中心とした防諜組織の意向により閉幕した瞬間に確保される予定である
後に『令和元年のバカ騒ぎ』と呼ばれる大事件の結末だった