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第1部 第ニ章

 大会の受付会場である現実をモチーフにした都内の某駅は人でごった返していたが、参加を決意するプレイヤーは意外にも少なく、野次馬達のお祭り騒ぎ状態になっていた。

「ほらほら、誰か5千万G持ってる奴はいねぇのかー?」

「地方に旅出てる奴が可哀想だぜ。参加してーのが何人かはいただろーに。」

「誰が出るんだ、敷居が高すぎる。」

 なんて、声が彼方此方飛び回っていた。

 そんな中でも僕とアロウは迷うことなく受付を済ませ、直ぐにその場を後にした。野次馬が僕達に何か言っていたが、気にしてる暇などなかった。

 今大会、〈フィールドスキルバトルロイヤル〉には細かな規定があり、期間も短いので急いで準備をしなければならない。

 まず、この大会に持ち込めるメイン武器は一つだけ。他にはサブ武器として持ち込めるサポートアイテムもあるが、それにも制限があるので考えて選ばなくてはいけない。

 例えば、アロウにとって必須なのは、メイン武器である弓の攻撃手段である矢の持ち込みである。本数が制限されている矢をどの程度持ち込み、どんな種類を選択し、他のアイテムはどれくらい持ち込むか。

 そういったことを考え、自分が持つ装備と買える装備の中で最適を選ばなくてはならない。彼女は、大会までの期間をその吟味に充てるようだった。

 それに比べ、僕は早々に装備品選びを終わらせた。

 基本的にガントレットで攻撃する僕は、かなり大雑把にフィールドを駆け巡り、アロウのために撹乱の役割を担う。

 それは幾度となく行ってきた殺し合いの中で定着した僕のポジションであり、持ち込むアイテムなんかもほぼ安定化していた。

 だが、今大会から確実に僕の装備品で変わった点が一つだけあった。

 それは、メイン武器であるガントレットだ。

 僕は今までの相棒である白銀のガントレットを外し、前バトルロイヤルの優勝賞品のガントレットをその腕と拳に着けていた。

 鋼色のシュッとしたフォルムに、前腕部の上から見える青く輝く3箇所のエネルギーコア。その手には前腕部から伸びる帯に繋がれている超伝導エネルギーワイヤー式レザーグローブがはめられ、握ると高密度エネルギーが拳を包む仕組みになっていた。

 コイツが欲しいがために僕は前大会でグレネードから逃げ、スキルを使って相手を倒し、不意打ちされそうなところをアロウに助けられて。

「ハァ……」

 やっとのことで優勝を果たしたのだ。

 まあ苦労をした甲斐はあった。

 このガントレットによる高密度エネルギーから繰り出される攻撃力は従来のガントレットとは比べ物にならないほど高く、一撃一撃に自信のない僕の強い味方になってくれた。

 装備を吟味するアロウと分かれ、オープンフィールドに出てbotを倒している時もそれは実感でき、新たなる戦力として申し分ないものであった。

 ちなみに、何故アロウと分かれたかと言えば、最善の装備を揃えようとするアロウと同じく、僕にも大会に向けての準備があり、それを達成するためには分かれてbotを倒すのが効率的だったからだ。

 目的は意外にも早く達成された。

 僕の目的、それはある一定の目標値までのレベル上げである。

 この世界においてレベルとは、若干のステータス上げとスキル開花のために存在している。

 ステータスは筋力、速度、幸運度、体力、防御力、技術力、精神力、知力の8つから成っていて、レベルアップで上げる手段と現実のように戦闘経験によって自動的に上がる2種類がある。アッパードラッグやスキルで上げる方法なんかもあるが、その効果は一時的なものでしかない。

 ステータスを上げることは重要であるし、1ステータス上がってるかどうかが勝負の分かれ目になることもある。だが、今回の僕の目的はステータスを上げることではなかった。

 そう。僕の目的は新たなる〈スキル〉の開花にあった。

 スキルとは、それぞれのプレイヤーが潜在的に有している能力を、セカンド・ユニバースが発現させたものである。

 これはニューロンの働き方や筋繊維の構造、戦闘中の心拍数など、様々な要素を加味した上で形成される才能であり、この世に誰一人として同じスキルを持つ者はいない。

 スキルには、回数制限スキル、常時発動可能スキル、自動発動スキル、パペットスキル、秒数制限スキルの5つがあり、レベルアップによるスキル開花以外にも突然開花するスキルもあるため、持っているスキルの数はプレイヤーによって異なる。

 僕のスキルは2つあり、1つはバトルロイヤルの時やオープンフィールドに配置されている、プレイヤーが永遠所持不可能な武器やアイテムを奪うことができるスキル〈盗る者(テイカー)〉だ。これは前大会で敵プレイヤーからグレネードを奪うために使ったスキルでもある。

 そして、もう一つのスキルは〈鉄屑の盾〉。

 これは、針金やネジやスチール板などが絡まった設置型の盾を出現させることができるスキルで、発現する盾の大きさは縦横2mほどある。こいつは、戦闘中の回避不能な攻撃を凌ぐ時や、アロウが正面の敵を狙いたい時などに役立ったりする。

 この2つは両方とも回数制限スキルであり、バトルロイヤル中〈盗る者〉は7回、〈鉄屑の盾〉は15回使用することができる。

 盾系の能力は大して珍しくはないのだが、〈盗る者〉はスキルの中でも異質であり、使い方によっては強力で、ゲームを始めた当初からあるこの能力は僕のちょっとした自慢でもあった。

 だがしかし、だ。

 この2つのスキル、これは両方とも守りに徹したスキルであり、僕は攻めのスキルを持っていない。

 盾は言わずもがな、〈盗る者〉も相手の攻撃を無力化できるという類のスキルだ。敵の武器を奪って攻撃も出来るが、直接的な攻撃スキルではない。

 嗚呼、自分でも嫌になるほど分かっている。

 要するに、僕は臆病なのだ。

 相手の攻撃から自分を守りたい。相手に攻撃をされたくない。そんな思いからこんなスキルが発現してしまっている。

 でも、それじゃあダメだ。

 守ってばかりじゃ勝つことはできない。

 だから僕はレベルを上げ、新たなるスキルを開花されようと、bot殺しに勤しんだ。

 ……………

 …………

 ……

「ナノ……ニ……」

 なのに……。

「——ナンジャコレハァァーー!」

 僕は今、頭を抱えて叫んでいた。

 僕の声はまるで出来の悪い機械音のようであり、喋るたびにノイズが走っていた。

 こんな声は僕のものじゃない。この身体だって僕のなんかじゃない。

 だって僕の身体は今、僕の目の前(・・・)にあるのだから!

 僕はずっと自分の身体を見ていたのだ。

 新たなガントレットを付け、コンクリートの上にだらし無く寝そべる、自分の姿を!


 ——思い出そう。


 確か、僕は新たなスキルが発現したので、好奇心を抑えられない猫のように直ぐにそれを使ったんだ。

 そしたら急に視界が切り替わって、気づいたら僕が……というかエリヤのアバターが倒れていた……。

 なんだっけか。急にスキルを使ったからどんな効果かもあまり把握していなかった。

 えっと、どんな能力だったか……。

 なんて考えていると、キラリと視界の端に何かが映り込む。

「………………」

 そちらを向くと、その正体は特段変なものでもない、ありきたりなオブジェクトだった。

「ガラス……カ。」

 建物の外側にはめ込まれ太陽の光を反射して輝くそれは、現実世界でもよく目にする、透明な普通のガラス張りそのものだった。

 僕はそんな何の変哲も無いガラス張りを見て……というよりも、ガラス張りに反射して映る自分自信を見て。

「……エ?」

 ——驚愕した。

 そこに映っていたのは、全身を鉄の板でぐるぐる巻きにして、更にその上から針金をぐるぐる巻きにし、頭と肩と腰と膝にネジを刺した、奇妙な人形だったのだ。

 と、そこで僕は思い出した。

「ソウダ……ソウダッタ。〈パペットスキル〉…ダ!」

 レベルアップにより開花した、スキルの部類を。

 僕に新たに発現したのは、派生進化をしたスキルであった。

 レベルが規定値を上回ると、今まであったスキル〈鉄屑の盾〉から一本の細い棒が伸び、スキル進化として新たなスキルが発現したのである。名前は確か……

「〈鉄屑の人形〉。……はっ!」

 僕は頬に冷たいコンクリートを感じて、慌てて飛び起きた。

「元に……戻った?」

 僕は自分の身体を弄り、先程同様ガラス張りに目をやると、そこにはイケてる僕のアバター、エリヤが映っていた。

「はぁ……良かった。」

 状況を把握するため、空間をスライドしてスキル画面を確認すると、そこにはこう書かれていた。


 〈鉄屑の人形〉

 パペットスキル兼回数制限スキル

 回数制限3回

 〈鉄屑の盾〉から派生し進化したスキル

 能力:1分間鉄屑の人形に精神が入り込み、人形を自由に操ることができる。人形が受けるダメージはプレイヤーのダメージにはならないが、精神の抜けたプレイヤーの肉体は無防備な状態になる。とても頑丈で壊れにくい人形は、プレイヤーを守る動く盾となるだろう。一対一の戦闘や偵察に向く。なお、攻撃力は低い。


「………………」

 ほぅ……

 全てを読み終わった僕は、ただ天を仰いだ。

 そして口を開き、何処に誰がいるかも分からないオープンフィールド内で、思い切り、こう叫んだ。

「攻撃力は低いってなんだよー!ご丁寧に最後に添えやがって!結局今回も守りのスキルじゃねぇーかぁぁーー!」

 ねーかー…………

 ねーかー……

 ねーかー…

「………………」

 心の中でこだまする声は、ただただ虚しさを呼び。僕はその日は大人しく……


 ——ログアウトした。

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