小説家さんの日常
僕は田舎に住んでいる物書き。名前は浅川富大。
田舎というのは、どのレベルの田舎といえば、
最寄りの駅は無人駅。最寄りのコンビニまでは1km。そんなレベル。
そんなところに、祖母から譲り受けた家に少しだけ手を入れて、一人で住んでいる。
そんな僕は、物書きをしている。
一昔前に、それなりに有名な賞を取ったおかげで、日々やっていけているくらい。
特別に有名な訳でもなくて、知っている人は知っているかな。というくらい。
そんな僕には悩みがある。
担当さんが、すぐに変わってしまうのだ。
担当さんというのは、編集者さんの、僕の担当をしてくれる人という意味なのだけれど、
その担当してくれる人が、なかなかどうして長続きしてくれないのだ。
確かに、僕の住んでいるこの町は、東京から新幹線で3時間、そのあとローカル電車で1時間もかかるところにあって、
とても不便かもしれない。
それでも、この半年でもう10人目っていうのは、些か僕の人間性が疑われるようで悲しいのである。
そういえば、もうすぐ連載作品の一つが締め切りで、今日作品を受け取りに、新しい担当さんが来る予定になっているはずだったけど、
今度の人とは上手くやっていけるだろうか
……がんばろう。
「ごめんくださーい!エソラ出版のものですがー!」
元気な声が聞こえた。エソラ出版さんは、今日入稿予定の出版社さんの名前だ。
「はーい。今出ますのでお待ちください。」
僕の譲り受けたこの家は、古い家だけあって、呼び鈴が壊れていて、声をかけてもらわなきゃいけないのだ。
でも、ご近所の皆さんとか、宅配便のお兄さんとかは、勝手知ったる、というのか、
僕の返事がないと、勝手に用事を済ませて帰っていくことが多いみたい。
助かっています。
だから、こんな風に鍵もかかっていない家の玄関で、大きな声で僕を呼んでくれるのは、
出版社の新しい担当者さんしかいないのだ。
「こんにちは。今日は遠路はるばるありがとうございます。はじめまして。浅川です。宜しくお願い致しますね。」
そうやって出迎えと初対面の挨拶をしたのだけれど、僕の正面に立っているピシッとスーツを決めた男性は、
何故か顔を赤らめたまま動かない。
きっちり30秒ほどフリーズした後に、
「しょ、、しょるい、さく、さっくひんを」
と話し始めたので、後ろ手に持っていた原稿を手渡すと、逃げるように帰って行ってしまいました。
お茶の用意もして待っていただけに、少し寂しいな。
でも、もう,
これも
10回目だから。