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グッドラック バッドガイ  作者: 武田コウ
9/13

思考

 勉強に身が入らない。


 学校の授業でも、塾の授業でも最近はボウッと黒板を見つめているだけの空虚な時間が増えたような気がする。


 こんな事は初めての経験だった。


 何も今まで勉強が好きだった訳じゃない。


 ただ、それが日常だったから何も考えずに黙々と勉強をしていた。だから、こんなに勉強に身が入らないという現実に今困惑しているわたしがいる。


 これは学校で行われているいじめの性なのだろうか?


 違う気がする。


 確かに無視をされたり小さな嫌がらせをされることには少し精神的に参っている事は認めよう。


 でもその事実と今こうして家の机の上でやるべき宿題を目の前にしてぼうっとしている事にはあまり関係が無いようにも感じているんだ。


 きっとわたしは今、生まれて初めて自分の人生というモノについて考えている。


 今までは周囲に言われるがままの ”良い子” を演じて生きてきた。母親の期待に応えるためにただひたすらに勉強をした。


 なんだかんだ、それが楽だったのだろう。


 言いなりになる人生は退屈だ。でも、考える必要が無いという事は楽なんだ・・・。


 わたしは考えている。


 こうして寝る間も惜しんで勉強することに何の意味がある?


 良い学校に進学して、良い仕事に就いて、良い結婚相手を見つけて・・・そしてお母さんや周囲の大人が望むような幸せな人生とやらを送るのか?


 確かにそれは素晴らしい人生なのだろう。


 非の打ち所も無い完璧な人生だ。


 だけどわたしはそれを望んでいるのだろうか? 


 幸せな人生を、完璧な人生を・・・わたしは望んでいる?


 わからない


 わからない


 そしてわからなくて当然なのだろう。何せわたしは人生について考える事なんてこれが初めてで、そして慣れていない事をしているのだ。


 謂わば思考の初心者だ。


 言われるままの人形だったわたしが、今初めて自ら考える人間へと生まれ変わった。


 生まれたてのわたしは、きっと何もわからないのが当然なのだろう。


 目の前に置かれた宿題のプリントを見下ろす。しばらく無言でソレを見つめて、わたしはそっと机を離れて部屋の電気を消した。


 そして歯も磨かずにベッドの中に体を潜り込ませると静かに目を閉じる。慣れない事をした性で疲労が限界に達しているようだ。


 ゆっくりと。柔らかな泥の中に沈み込んでいくように意識が闇に落ちていく。


 そうして、


 生まれて初めてわたしは宿題に手を付けずに眠りに落ちたのだった。





◇ 

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