喫茶店 3
「お待たせお嬢ちゃん。サンドイッチだよ」
程なくして店主がわたしの分のサンドイッチを運んできた。カリカリに焼かれたパンの良い香りがする。焼いたパンの香りとは何でこんなに食欲を刺激するのだろうか。目の前のサンドイッチを見てごくりと生唾を飲み込んだ。
「い、いただきます・・・」
小さな声でそう言ってそっとサンドイッチを持ち上げる。口を開けてかぶりつくとサクリと歯にあたる軽い感触と口の中に広がるバターの香り。
・・・おいしい。
味付けはシンプルなサンドイッチなのだが・・・何か久しぶりに食事を心の底からおいしいと感じたような気がしたのだった。
思えば外食なんて久しぶりかも知れない。ガツガツとサンドイッチをむさぼるわたしを男はニコリと優しい笑顔で見つめてる。
「いやあ、良い食べっぷりだねレディ。たくさん食べる娘と一緒に食事を取るのは気持ちが良い物だ」
男の言葉にカウンターで作業をしてた店主も頷く。
「違いない。やっぱり作ったモノを上手そうに喰ってもらえれば作りがいもあるってもんだよ」
二人の言葉にわたしは少し顔を赤くした。
こんなにがっつくつもりは無かった。しかし言われて食べるのを止めるのも何だか癪だったのでそのままサンドイッチをヤケクソ気味に食べ勧める。
しかしこんなにシンプルな味付けなのに何でこんなにおいしいのだろうか?
「きっとそれはこの喫茶店という場所が関係しているのだろうね。普段の生活とは違う環境が刺激となって食べ物をよりおいしく感じさせるのさ・・・そして一人で食べる食事より誰かと喋りながら食べた方がおいしいものだよレディ」
男の言葉で気づかされる。
思えば誰かと喋りながら食事を取ったのは久しぶりのことかもしれない。
家では家族の生活リズムが違うため、お父さんもお母さんも別々の時間に食事をとっている。学校での給食だってお喋りをする友達なんて居ない。
わたしに取って食事とは、いつからか楽しみでは無くただの栄養を補給するための作業になっていたようだった。
「ごちそうさま・・・奢ってくれてありがとう」
喫茶店を出たわたしが男に礼を言うと、男はパチリと一つウインクをした。
「何の何の、レディに食事を奢るというのは男にとって誇りなのだよ。また機会があれば一緒に何か食べようじゃ無いか」
その言葉にわたしは無言で頷いた。
随分と長い間喫茶店にいたようで、外はすっかり暗くなっている。
「外も暗いし家まで送ろうか?」
男が申し出るがわたしは首を横に振る。
「別に大丈夫・・・ここからなら家も遠くないし、遅くに帰るのは慣れてるから」
「そうかい? じゃあここでお別れだ。グッドラック、リトル・レディ」
男は手を一つ振ると人混みの中に消えていった。わたしも小さく手を振り替えしてポツリと呟く。
「・・・グッドラック、バッドガイ」
◇