いじめ
学校に登校すると下駄箱の中に上履きが入っていなかった。
わたしは空っぽの下駄箱を見つめて一瞬頭が真っ白になる。確かに昨日までは上履きは存在していた筈だ・・・となると・・・・。
周囲を見回す。
すると視界の端で廊下でたむろしていた女子の集団がこちらをニヤニヤしながら見ているのが確認できた。
「・・・・・・サイテー」
誰にも聞こえない声でポツリと呟いて私は靴下のまま教室に向かう。
下らない。
本当に下らない。
上履きを隠すなんて古典的ないじめを実際にやってくる馬鹿がクラスにいるとは思わなかった。
教室に入ると一斉にみんながこちらに視線を向ける。
ザワザワとざわついていた室内が一気に静まりかえった。
その理由は明白だ。私の机が教室の隅に蹴り飛ばされたような形でひっくり返っていたのだ。
「・・・あの・・・赤木さん?」
早めに登校していた男子の一人が気遣うような声音で語りかけてきたがわたしは男子の方を見ずに早口で答える。
「・・・別になんでもないから」
そう、なんでもない。
こんな子供だましなんてなんでも無いのだ。
わたしは机を元の場所に戻しながら必死に自分に言い聞かせたのだった。
結局上履きは教室のゴミ箱の中から見つかった。
学校の帰り道、今度は上履きを隠されるなんて面倒な事が無いように上履きは持って帰る事にした。
しかしいじめか・・・。自分がその当事者になるなんて考えてもいなかったが、よく考えてみればそれも当然の結果なのかもしれない。
わたしは勉強をしてばかりでクラスの女子のコミュニティーに参加することがほとんどなかった、今まで仲間はずれにされなかった事が奇跡なのだろう。
憂鬱だった。
いじめなんて幼稚な行いに自分は動じないだろうと高をくくっていたが、思ったより精神的にダメージを受けていたようだ。
この後いつものように塾に行くという事が溜まらなく嫌で・・・そしてわたしは生まれて初めて塾をサボることに決めたのだった。
お日様がまだ空高く昇っている。
平日のこんな時間に外を出歩くのはエラく久しぶりで、そして何か悪いことをしているような罪悪感を少しだけ覚えながらわたしは行く当てもなく街中をぶらぶらと歩く。
気分転換の筈が頭の中では学校での出来事が繰り返し映像として流れ続けていた。
空っぽの下駄箱。
蹴り飛ばされた机。
ニヤニヤとこちらを見てきた女子の集団・・・。
ギュッと唇を噛みしめる。何故か太陽に照らし出された街の風景が直視できなくてそっと俯いてあるいた。
それが悪かったのだろう。目の前に人が居たことに気づかずに、わたしは誰か男の人の背カナに頭からぶつかってしまった。
「・・・・っ!? スイマセン、ぼうっとしていて・・・」
咄嗟に謝るわたしだったが、ぶつかった人物がこちらを振り返ってきてその顔を確認した瞬間にポカンと間抜けに口を開けてしまった。
「・・・おやリトルレディじゃないか。珍しいね、こんな時間に合うなんて」