変質者 2
夜の公園に鋭い声が響いた。
変質者はサッと声のした方向を振り返る。その視線の先にいたのは品の良い衣服を身につけた初老の男。
男は変質者の方向を鋭い目線で睨み付けながらツカツカと大きな歩幅で近づいてくる。その姿には何か異様な迫力が感じられた。
「な、なんだよお前は・・・ボクが何しようと関係ないだろ?」
変質者は男の迫力に少しどもりながらも反論をする。
しかし男は変質者のそんな反論などそもそも聞く耳を持たないとばかりに無視をしてわたしの肩を掴んでいた変質者の左腕をグイッと掴み、そのまま大きく捻り上げた。
「い、イデェ!?」
変質者は腕を捻られた痛みに声を上げる。
体格的に(それから年齢的にも)変質者の方が力がありそうに思えたのだが、男に意外と筋力があったのかそれとも何か武道の心得でもあるのだろうか。捻り上げられたその腕を変質者はふりほどくことが出来ずに痛みのあまり額に脂汗が浮かんでいた。
「ギ・・・ギブアップだって! 話せよジジイ!」
変質者の言葉に男はフンと息を吐き出すと捻り上げていた手を乱暴に放り出した。変質者はヨロヨロと後ずさると左手を庇うようにしながら恨めしげに男を睨み付ける。
そんな変質者を鼻で笑うと男はビシリと指を突きつけて口を開いた。
「失せろ下郎。もう二度とこの子に近寄るんじゃない」
男の強い言葉に変質者は一瞬逆上しかけたが、先ほど見事に捻り上げられた左手の痛みを思い出したのか悔しそうな顔をしてからくるりと体を反転させ、闇夜の街を逃げていったのだった。
「・・・・・・ありがとう。でも、警察に突き出さなくてよかったの?」
わたしが恐る恐る問いかけると男は静かに首を横に振った。
「ああいう手合いは追い詰められると何をしでかすかわからない・・・もしかしたら刃物を持っている可能性もあった。追い詰められたらあの変質者は躊躇無く刃物を振り回すだろう。そうだったのならばオレの手には負えないからね・・・だから適度な落としどころを見つけることが大切なのさ」
そして男はゆっくりとわたしの方に向き直ると優しい顔で口を開いた。
「危ないところだったねリトル・レディ・・・今夜は家まで送ろう。まだアイツが近くにいるかもしれないからね」
断る理由なんて無かった。
わたしは男の提案をありがたく受け入れる事にしたのだった