忘却と向上
人間にはどうやら都合の良い力が搭載されているようです。
「例えるなら、春を感じて出てきた虫。」
そう、それは本物だった。
ただ待ち続けて空を見た。
青と白が私達を見下ろした。
最初から全部決まった話。
今更何とか言ってもどうにもならない話。
気弱な私は声を出してみた。
空に虚しく。響くことも無く。
ただ空気の中に消えていく。
嗚呼、さても命はこうであるのか。
目を閉じればそこには無限の景色が浮かぶ。
色も形も思いの儘。
故に人は夢をみて、そして忘れていくのだろう。
誰かが言った。
人の脳は、嫌な思い出を忘れるようになっていると。
「よく造られたものだ。」
人が持って生まれた忘れる力は、
いわば懲りずに上へと向かう力なのか。
ともすれば私は、どこにも行けない私は。
いつまでも座ったままの鶏ではないか。
目を開けばそこには有限の景色が見える。
そう、こればかりはどうしようもないだろう。
助けを求めたって、声は届かないのだから。
時代が忘れたって、人が忘れたって。
依然として。
人は何にも変わっちゃいないから。
「どこかにいこうと思うんだよ」
一言。風が頬を撫でる。
どこにも行けないのは、どこにも行かないのは。
私自身がそうさせるのか、はたまた。
上へ上へと伸びるビル群。
しかし、そこには成長を忘れた者だっている。
昔からそれは同じこと。
青と白のキャンバスに、オレンジが差し込まれる。
今日も鶏はどこにも行けずに。
ただ座って、空を眺めるだけ。