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魔の森と勇者3


「ぐッ......!何だ......っ」


魔法陣が砕け散り、此方に魔法が飛んで来ることは無かったが男は灰にはなっていなかった。しかし胸を押さえもがき苦しんでいる。


どういうことだろう。確かに殺意を感じ取り、あまりに圧倒的な魔力回復の感覚も確かにあった。魔力量が多すぎて奪い切れなかったということだろうか?


苦しみながらも尚、此方を睨みつける男の圧力に無意識に後退る。そしてふと足元の違和感に気がつく。元々枯れ果ててひび割れていた地面だったが、それが更に大きなひび割れとなりまるで呪われた土地のような歪な地面に成り果てていた。


私がそんなことに気を取られている間に、男は回復したのか既に息を整え始めていた。


「っ......一体何をしたっ......」


そんなことは私が知りたいなどと言える雰囲気ではない。


「正当防衛です......殺されると思ったので」


取り敢えずの弁解を試みる。相手が弱っている分恐怖は薄れて来ていた。己に冷静にと言い聞かせながら話を続ける。


「私は貴方と敵対する気は全くありません。此処にも本当に迷い込んでしまっただけなんです......ダイアーウルフに追われて......」


全く信用していないと言った顔で睨みつけてきていた男が、ダイアーウルフの部分で少しの動揺を見せる。


「......巫山戯ているのか?」

「本当のことです!今日は城は追い出されるわ兵士二人に殺されかけるわダイアーウルフには追いかけられるわ!こんな森に迷い込むわ!あんたみたいなおっかない奴に絡まれるわで!最悪の一日だ......!......あっ」


私は私が思っていた以上に疲れ果てていたらしい。あまりに理不尽な今日1日の出来事を一つ一つ思い出して溜まりに溜まっていた感情を爆発させてしまった。

恐る恐る男の方を見ると、ポカンと口を開けて固まっていた。そんな表情でも恐ろしいほど整った顔は緊張感を解してくれない。ダラダラと冷や汗が流れる。



「......どうやら嘘をついている訳ではなさそうだ」


重低音ではあるが思いの外柔らかい声を返してくれた。分かってくれたのか!と期待の眼差しを向けコクコクと頷く。魔族相手に何をと普段ならば冷静に思えただろうがこの時の私はもう本当に疲労限界に来ていたのだ。そんな俺を見た男は何処か微妙な表情を見せる。


「名を名乗れ」

「えっあっ、吉川九十九(よしかわつくも)ですイゴオミシリオキヲ」

「ヨシカワツクモ?変わった名だな」

「......ツクモが名前でヨシカワはおまけみたいなもんです」


この世界にはファミリーネームが存在しないことを忘れていた。男は頭にハテナを浮かべながらも納得したようだ。突然のフレンドリー対応に動揺が隠しきれない。


「俺の名はアリアス。知っているかもしれないが一応六番目の魔王だ」


ロクバンメノマオウ?私の脳はその言葉を理解することを拒絶した。


「その反応ではどうやら知らなかったようだな」


目の前の男、アリアスが呆れたように零す。


「この不毛の地を俺が、魔王が根城にしていることは周知の事実だ。それも此処は魔の森に囲まれた場所だ。よって”ただの”人間が近寄ることは決してない」


そんなことは誰も教えてくれなかった......。私友達いなかったからなあ。遠い目になる私にアリアスの疑いの目が向けられる。


「もう一度聞くぞ。お前は何者だ」


ギクリと、思い切り動揺を表に出してしまったことを自覚する。彼を前に嘘を突き通せるとは到底思えない。しかしアリアスは魔王、つまり”勇者”の宿敵だ。



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