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落ちこぼれ勇者


「まだスライム一匹すら倒せないんですか!?」


疲れ切って帰り着いた狭い部屋にそんな怒鳴り声が木霊する。俺に仕えているはずの専属メイドの怒鳴り声だ。


「他の勇者様方はもうダンジョンにまで挑戦しているというのに......!こんな落ちこぼれ勇者の専属メイドだなんて恥ずかしい限りです......!影でなんと言われることか......」

「いやあ〜面目無い」


わっと両手で顔を隠しついには肩を震わせて泣き出したメイドに、掛ける言葉も見つからず半笑いで返してしまう。ついには部屋を飛び出して行ってしまったメイドを無感動に見送ってから一息つく。


「はあ〜スライム一匹すらって言われてもなあ......」


あの突然の召喚の日から1ヶ月が経過していた。私達勇者にはそれぞれ個室と専属メイド、金銭など必要な物と本当の勇者になるべく厳しい訓練が与えられることとなった。


その後訓練を始める前に能力値の検査というものが行われたのだが、流石は勇者といったところか殆どの者が特別優秀な数値を叩き出した。その検査で私は、この世界で日常生活でしか魔法を行使しないような一般人以下の数値を叩き出してしまった。

しかし勇者は一人一つ普通の人間には無い特別な力を授かる。他の特別優秀では無い数値を出した勇者たちもその特別な力がかなり優秀であった為、落胆されることはなかった。その為私も周りもその特別な力に期待したのだが......。


”魔力回復”


その勇者の力を知る為の紙切れにはそう書かれていた。魔力回復、魔法を使い消耗してしまった自分の魔力又は味方の魔力を回復する魔法だ。そしてそれは後援魔法使いが最も良く使用するごく一般的な魔法だった。

その効果が特別優れていればまだ問題はなかったのだが、私の魔法能力値は折り紙つきの平均値以下。その力は現役の魔法使いの足元にも及ばなかった。

それでもまだこれからの成長を見込まれて直ぐに見捨てられる事は無かったのだが......。


それから1ヶ月、一番初めに課せられた最も簡単な課題であるスライムの討伐ですら未だに達成できずにいる。


「そろそろ見捨てられる頃かな」


流石に自分でも不甲斐ないと思っている。だがしかし、剣など振るったことがある筈も無い現代っ子代表のようなもやし体型の私が1ヶ月でモンスターを倒せるようになれと言うのも中々無茶な要求だ。魔法に関してはライター程度の火を起こす魔法で尽きてしまう魔力量に絶望し、色々諦めている。得意な魔法が魔力回復であるのにその魔力量が絶望的というのはどういう事なのだろうか。

大体、剣道をやっていたから喧嘩慣れしているからなんて理由でいきなりモンスターをボコボコに出来る他の勇者がおかしい気がする。


今日も今日とてスライム一匹倒せなかった私は、そう遠く無いであろう未来に”クビ”を宣告されるのだろう。


そしてその未来は思いの外早くやってきた。メイドが泣いて飛び出して行った次の日の朝、いつもやってくるそのメイドの代わりに数人の兵士が私の部屋までやってくると、結構な額の金銭と武器防具を渡しながら予想した通り”クビ”を宣告してきた。


城下町までは馬車で送ると言われ、特に抵抗する事なく城を後にする。一度立ち止まり城を振り返るが、個性的すぎる他の勇者との交流もあまり無かった為特に感傷に浸ることも出来ない。私の為にも魔王討伐頑張ってくれ。


「早く乗れ」


苛立ったように恰幅の良い兵士が急かしてくる。そう時間をかけているつもりも無かったのだがどうやらこの兵士は私にあまり良い感情は持っていないようだ。それはそうだろう。城を追い出される程の落ちこぼれ勇者に良い印象を持つ人間は中々いないだろう。大人しく馬車に乗り込む。さようなら”勇者”。やはり私は主人公になれる人間ではなかった。この世界に来て最初に感じた私と”勇者たち”との間に生じる違和感はそれだったのだ。


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