11人の勇者
いつも通りの朝。いつも通りの道順で大学へと向かっていた。
この角を曲がればもう2年も通っている大学が見える、そんなときだった。
突然の閃光と立ちくらみ、暗転。
私は道の真ん中で突然意識を失った。
「......れだ!ここは何処なんだ!」
何者かの大声で目を覚ます。先程まで通学路を歩いていたはずの俺は、ファンタジー漫画の中で見かける魔法陣のような模様が浮かび上がる床に座り込んでいた。周りを見渡せば多数の人間が目に入った。私と同じように座り込んでいる者や、呆然と立ち尽くす者もいる。そして魔法陣を囲むように立っているのが、明らかに現代日本人ではない顔、服装の人々だ。
魔法陣の中にいるおそらく日本人であろう彼等は、私と同じく意識が戻ったばかりで現状を把握していないのか怒鳴り声をあげる者、体を震わせる者、身を寄せ合う者など様々だが皆動揺した様子を見せている。
そんな中、正面に立つ王冠を被り立派な髭を蓄えた恰幅の良い男性が一歩前に出る。後ろに2人の騎士を従え、明らかにリーダー格であろうその王冠の男が口を開いた。
「良く来てくれた勇者諸君」
その良く通る声にその場は一瞬静まり返る。しかし直ぐさま再び怒鳴り声が上がった。
「ハァ!?ふざけてないでさっさと元の場所に帰しやがれ!」
見た目からして如何にも不良といった男が声を荒げているようだ。それに続くように数人が不満の声を上げる。ここにいる大半の人間がこの状況をタチの悪いドッキリ若しくはイタズラだと思っているようだった。例外なく私自身もそうだ。しかしその考えは直ぐに打ち消される。
「此処は君達が元いた世界とは別の世界だ。それを今から証明しよう」
そう言うと王冠の男が両手を前に突き出し目を瞑る。するとまるで彼の手から吹き出すように渦巻く炎の柱が発現した。その炎は床の魔法陣の周りを囲むように一周すると、消滅した。
「熱ッ!熱い!」
魔法陣の一番外側にいた女性が悲鳴をあげていた。火の粉が飛んだのかスカートの端が少し焼け焦げている。私達の間に再び沈黙が落ちる。その場にいる誰もが分かったことだ。今の炎は演出でどうにかなるものではない、明らかに物理法則を無視した”本物”の炎だった。
「これで分かっていただけたかな?この世界は魔法が存在し、魔法が全てを支配する世界。そして君達はこの世界の救世主となるべく召喚された選ばれし勇者なのだ!」
その場にいる誰もがその言葉を信じざるを得ない状況であった。
この国の王だと名乗ったその男は、その突拍子のない話を続けた。要約すると、俺達はこの世界を脅かす魔王なる存在を倒すべく、異世界から選ばれた11人の勇者だということ。勇者とは選ばれた人間であり、特別な力を持つこと。元の世界に帰るためには魔王を倒すしかないということだった。
ところで、私こと吉川九十九はいたって普通の人間だ。
頭脳も運動神経も容姿も特に優れているわけでもなく、特に悪いわけでもない。すべてにおいて可もなく不可もなく、ごく一般的な人間である。特徴がないのが特徴といっても良い。
私は王様とやらの話を聞いている最中、自分が勇者として召喚され今この場にいることに違和感を覚え始めていた。「選ばれた特別な人間」のみがこの召喚に反応し召喚されるという話と、同じ境遇であろう周りの人々が、一見しただけであまりに個性的であるという事実がその違和感の原因だ。
異様に容姿が優れている男女が数人、鍛え抜かれた体の男に、どう見ても堅気ではない人物。大人のように落ち着き払った女の子もいれば、顔が隠れるほど前髪をのばし暗いオーラを全身から発している男もいる。
その個性は様々だが、一見しただけで特徴を聞かれて困るような人間は誰一人としていない異様な光景だった。
そして、その違和感への答えはすぐに見つかることになる。