序章
その日僕、小野田 藍はいつもと同じ様に通勤していた。
いつもと違ったのは途中の横断歩道で小学生を庇って信号を無視して突っ込んで来た車に轢かれた事だろう。走馬灯と言うのか今までの思い出が物凄い勢いで脳裏を流れた。最後に思い出したのは、自分を育て支えてくれた両親といつも自分の味方でとても可愛がってくれた祖母の顔だった。
路面が一面血で染まっていく……
少し離れた所に自分の千切れた腕が見える……身体の感覚が無い……
視界が赤く染まって行く……
……意識が遠のいて行く……
「……生命…持……異常発……被験体番…12番、覚醒シークエンス…移行…」
無機質な音が遠くの方から聞こえて来た。
「……言語転写異常ナシ。NLI神経接続……適化完了。」
徐々に音が何かのアナウンスだと理解し始める。少しずつ身体の感覚が戻り、何やら管が繋いであるのがわかる。
(ここは病院だろうか?いや、違う、もっと別の……)
「人工生体モデル ノ外部環境ヘノ最適化完了。3秒後ニ生体維持調整装置ヲ パージ シマス。」
「……3、2、1……パージ。」
全身に強烈な痛みが走ると同時に、身体中に繋いであった管が外れる。痛みで意識がはっきりとする。何やら赤い液体で満たされた容器の中に自分はいる様だ。
「覚醒シークエンス全行程完了。」
アナウンスが聞こえると同時に赤い液体が何処かに排出され、目の前のガラス製の蓋が開き容器の外の床に転がり落ちた。
「うげぇっ、うっ、オェェッ……」
謎の赤い液体を吐き、顔を上げると赤いカプセルの並んだ薄暗い部屋の中にいた。
「……どこ、ここ?」
誰も居ない部屋に聞き慣れた自分の声が木霊した……。