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72人の刺客

 魔王の支配する夜と闇の国。

 ひしめく魔物は数十万、魔にすらなりきれぬ者たちが数百万。

 その頂点に全能を以て君臨するのは、当然ながら魔王ではあるが、彼以外にも<王>と呼ばれる者どもがいる。その数、70と2人。

「魔王様の御子たちです」

「御子って、息子さんや娘さん!? 72人!? 魔王さん、すご……」

「ち、違いますよ!? 奥方様にお会いになる遙か前のお子ですよ!? 一番末の御方だって齢は百ですから! 今は奥方様一筋で――」

「いや、そこは気にしてないから。続けて続けて」

 王たる者の血を継いだ彼らは、圧倒的な力と比例する矜持――そして、凶暴さの持ち主だ。君主の慈悲が賞される地ではない。暴力と暴威こそが、支配者たる者の資格であり特権であった。

 無論、かの黄金の魔王は別格である。でなければ、早々に、我が子らによって喉をかききられていただろう。玉座は、ひとつしかないのだから。

「うわー、コツニクの争いって奴? 魔王になって、なんかいいことあるの?」

「さ、さあ? 俺らみたいな下っ端にはちょっと……」

「ごめん、話の腰おっちゃった。続けて続けて」

 しかるに数千年の間、均衡は保たれていた。それは、あと水一滴で溢れてしまうグラスのように脆くはあったが、それでも、平和と呼べなくもない時代だった。

 だが、ここに来て――均衡は崩れた。

「魔王様がね、お建てになっちゃったんすよ、像」

「魔王像……みたいなやつ? 偉い人は好きそうだよね、そういうの」

 ガイコツは、沈鬱な色を表に浮かべ、真帆にスマホを差し出した。

「スマホ……使ってるんだ」

「あとでLINE教えてください」

「はは……、考えと――」

 真帆は、表示された画像に言葉を失った。

 星ひとつない闇夜を切り裂く無数の雷。これはいい。大体、<魔王>なんてひとの故郷なのだ。地獄っぽいとこなんだろうなーと想像はついていた。だが、注目すべきは、その書き割りを背景に、中央に起立する、ソレだ。

 真っ白な大理石に似た石で、黒を貫いて起立する――

「魔王さんと、お母さんと、わ、わたし……」

「全長333メートル、総工費奴隷40000人です」

 仲よさそうに身を寄せ合う義理父・母・義理娘の巨大立像には、同じく巨大なピンクの横断幕がかけてある。

<Just Married!>

 ご丁寧に、空き缶までぶら下げて。

「ちなみに、同じものがあと128体建ってます」

 魔物の国に、戦慄が走った。

 否、とんちきな巨大彫像が、雨後の竹の子の如く出現したからではない。

 魔王が奥方とその娘へ向ける寵愛に、(おのの)いてのことだ。

 やがて――当然と言えば当然ながら――噂が、流れ始める。

 金色の魔王、かの絶対王者は、己の座をこの娘に譲るつもりなのではあるまいか。いや、そうに違いない。今まで、長子ですらこのような破格の扱いは受けていない――。

「ばっ……」

 昏倒しそうになって、真帆は耐えた。なんとか。

「ばっかじゃないの! 魔王の座? いらんいらんいらん! そんなもん!」

「ですよねー……。でも火のないところに煙が立つのが噂ってもんですから」

 最も心穏やかでいられなかったのは、今まで陰に陽にその座を狙っていた72人の<王>たちだった。心穏やか――もちろん、不安などといった脆弱な感情からではない。

 ある者は怒り狂った。己を差し置き、他の者が継嗣と目されている状況に。

 ある者は高揚した。力こそが正義の絶対的価値観において、この娘を打ち倒した者こそが、次の魔王――と。

「つ、つ、つ、つまり……」

「はい、お嬢さんは狙われてるんです」

 72人の、魔王候補に。

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