最終話 新しい因果の中で
本日二回目の更新です。ご注意ください。
深夜の東京。眠らない街とはよく言ったもので、日付が変わるか変わらないか、っつーこんな時間になっても、明かりが消える気配はまったくない。
ありがたいんだけどさ……そうじゃねーことも多いんだよなあ。特に、一般人とは違う世界が見えちまうとなると、こういう光が延々と灯り続けてるってのはよろしくないんだけど……。
まあ? そんなことを言ったって、これが今の日本の姿なんだから、どうこう言ったところでどうにもならねー。しゃーなしだ。
そんな真夜中の街の空を文字通り駆ける車の運転席で、携帯を使って時間を見る。零時五分前。間に合うか、どうだ!?
「なあイコク、もっとスピード上げられねーか!?」
「姐さん無茶言わんといてください、これでもえらい飛ばしてますんや!」
「くっそ……!」
毒づきながら、勝手に動くハンドルと勝手に踏まれ続けているアクセルをにらむが、それでどうにかなるわけでもない。彼は精いっぱいのことをやってくれているんだ。
けど、……それでも、どうしても、はやる気持ちを抑えられない。なぜだかわからないけど、どうしても彼女は絶対に死なせちゃならねー、そんな気がして。
こんな気持ちになるのは、生まれて初めてだ。家族にだって、こんな風に思ったことなんてないってのに……あたしは、彼女をどういう風に思ってるんだ?
「ったく……姐さんにはほんま、しゃーなしですわ……ええでしょ、そんな顔されてしもたら、うちかて『妖怪一の運び屋』の名が廃れるいうもんですわ。
……風の限界越えて、光になったりましょ! しっかり掴まりよし!」
「おうよ!」
がっしとイコクの身体に掴まる……その、瞬間。
外の景色が一気に尾を引いて遠ざかっていく。光を超えるって言ったが、どうも誇張じゃなさそーだ。イコクのやろー、こんな隠し技をもってやがったとは……。
とはいうけど、なるほどこいつは中の人間には相当堪えそうだ。神様が常に守ってるあたしじゃなかったら、命の危険すらありそうだぞ。
……なんて考えていられたのは、本当にごくわずかだった。気づけばあたしたちは、どこかのビルの屋上、そのさらに上空に浮かんでいた。
「姐さんつきましたで! 真下です!」
「サンキュー!!」
返事をすると同時に、あたしは空に放り出される。そしてその瞬間、今まで車に変化していたイコクが元の猫又の姿に戻る。
深いため息が聞こえてきたことを考えると、相当妖力を使ったみてーだな。すまん、イコク。後で目いっぱいポップコーンおごってやっからな!
そんな決意と共に、あたしは神様からもらった赤い翼を背中に展開する。そうしてスピードと位置を調整しながら、それでも落ちる速度をほとんど下げることなく屋上……正確にはその縁へ向かう。
その先には、女の子の姿がある。その頭上に、天狗に取り憑かれていることを示す赤い光がちらついていた。
なんとか間に合った! けど、本当にギリギリだ。彼女が、もはや外に向かって足を踏み出しかけている。
「待てえぇぇーっ、させるかよおぉーっ!!」
あたしは腹の底から叫びながら、大空を切って滑空する。光には及ばないけれど、それでも自分が出せるマックスを維持して。
そして彼女が下に落ちていく……その直前のタイミングで、あたしの手は彼女の手をつかむことに成功する。
途端に、人間一人分の体重が丸ごとあたしの身体に襲い掛かる。がくん、とバランスが一気に崩れ、あたしも一緒に落ちそうになる。
「まっ、負けるかこなくそっ! 絶ッ対に離さねー! 死んでも離すもんか!!」
ぎりぎりと奥歯をかみしめながら、背中の翼を思いっきり羽ばたかせる。重力に逆らって、地球に逆らって、全力で手にした彼女を引っ張り上げる!
「……ぜはあっ! あ、あぶねー、間に合った……なんとか間に合った……」
一番危ないところを潜り抜け、あたしは荒い呼吸をつく。安心感と、それからまだ終わりじゃないという危機感を抱えながら。
そんなあたしに、助けたばかりの彼女が言う。
「あなたは……こないだの。どうしてまた私を助けるの? 私なんて、」
「ストーップ! それ以上は禁句だぜ。いいか、お前は天狗に操られてるだけだ。本当のお前は、そんな簡単に生きることを諦めるような弱いやつじゃねー! そうだろ!?」
右手で彼女の口をふさぎ、あたしは断言する。
その瞬間、彼女の目がひときわ丸くなり……そして頭上に浮かんでいた赤い光が、突如彼女から離れて人の姿を取った。天狗だ!
「……っ! わ、私は……私はどうしてこのようなことを……!」
「だーから、言ったろ? 天狗に操られてるだけだ、って。そういうこった。まあ待ってろよ、今からその下手人はとっちめてやっからよ」
天狗のほうに向きなおりつつ、あたしは指を鳴らす。そして、彼女をかばう形で立ち上がり、両手に炎をみなぎらせた。
「……どうして、あなたはそこまで」
「さあ……どうしてだろーな? そこんとこだが、あたしもよくわかんねーだよな。
ただ……なんでかわかんねーけど、初めて会った時から、お前のことは放っておけねーって思ったんだよな。こいつとは一緒にいたいって、そう思ったっつーか?」
「……そ、……それは、わ、私も……」
天狗の身体が完全なものになっていく。……げ、大天狗じゃねーか! やっべ、これあたし一人で勝てっか? イコク……早めの復帰頼むぜ?
なんて考えながらも、あたしの身体のほうは今しがた聞いた言葉に、嬉しさを感じて後ろに振り返っていた。
「お前もか? ははっ、面白ぇーな、前世の記憶ってやつか?」
「まさか……と、普段は言うんですが……あなたもとなると、もしかしたらと思ってしまいますわね」
お、いつもの調子が出てきたな。いいことだ。
「……そういや、まだしっかりと自己紹介してなかったっけな。あたしは成神晶! よろしくな!」
「私は……月神水奈、ですわ。……よろしくお願いします」
そうしてあたし――アキラはにやっと笑い。彼女――ミナと握手をする。
燃えたぎる炎だが、この炎は燃やす対象を選ぶ。彼女を燃やすなんて、そんなことは有りえない。
「――っとぉ! 準備万端整ったって感じだな!」
「ぐううぅ、小娘ごときが儂の邪魔をしおって! 二人まとめて餌食にしてくれる!」
「はっ! やれるもんならやってみやがれ! あたしの炎は、ちょっとやそっとじゃ消せねーぞ!」
炎を足にまとわせて、ハイキック! 制服のスカートが翻って、風に舞う。
「ちい――っ! 神を宿しているのか!」
「おうよ! わかったらこれ以上の悪さはやめて、大人しくお縄に着きやがれ!」
「誰が!」
その言葉を皮切りに、あたしは大天狗と全力で殴り合いを始める。
けど、負けるつもりはないし、負ける気もしない。
よくわかんねー自信なのは自分でもわかっちゃいるが、それでも、本当に負ける気がしないんだから不思議なもんだよな。
「ミナは、あたしが守る! これは、そのための力だ!」
神の火を全力で燃やして、あたしは空を飛ぶ。そう、この力は誰かを守るためのもの。
その最後のピースが、揃ったような……言うなら、そんな気持ちに今、なっているんだ。
「はあ……生まれ変わって女の子になっても、お兄さんは相変わらずお兄さんだなあ」
イコクのそんなつぶやきが、風に乗って聞こえてきた。それと同時に、その姿が大天狗の真後ろに忽然と現れる。
「――!?」
「後ろががらあきになってはりますえ、天狗の旦那はん」
「ナイスだ、イコク!」
真夜中の闇を背負って、あたしは声を張り上げる。戦いは、まだ始まったばかりだ――!
おしまい。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
来世になるけどまた会いましょう。これにて終結にございます。
転生をするために戦い続けた五人の物語は、それぞれの新しい人生へと移っていくことになります。
その先々は、それぞれが中心となる物語となっていくことでしょう……。
元々、この話を書くにあたって決まっていたことといえば、「死んだ人間たちが転生のためにバトルロワイヤルする」というものでした。
その中で、転生する気満々の主人公と転生する気ゼロのヒロインが出会い、協力するようになる……みたいな話でした。
それ以外に決まっていたことといえば、ラストシーンで互いのことがわからなくても再会した二人、ということだけで。
で、せっかく書くなら他の自分の作品のキャラの、前世という形でキャラを構築したら深く考えなくてもいいよね、っていうちょいとアレな発想の元で最初の構想を始めたのですね……。
書いてるうちにいろいろ設定もあれこれ変わって、結果的にトーナメントバトルになったり、神様が出張ってきたりと、こんな形になりましたが。
はてさて、どんなものとなったことやら、というのが正直なところです。
どうなるか、という実験の意味も込めて、勢い執筆というスタイルでやってみた今作ですが、いやー……。
プロットって超っ! 大事ですね!!
カッチリあらかじめ決めることはさすがにやりすぎだとしても、おおまかな流れはやっぱり必要なんだと改めて痛感しました。
そういう意味では、今作を書いてよかったなあと思う次第です。
次回作は、もうちょっとしっかりと構想を練ろう、と……!
で、ですね。
先ほども触れましたが、実は今作のメインキャラ五人は、全員ボクの他の作品の主要メンバーの前世です。
すなわち、彼らの来世はいずれも物語として存在するのですね。
次に書く物語は、彼らの転生先を舞台にしたものにするつもりでいます。それは途中から決めていました。
それを誰にするかはまだはっきりとは決めていませんが、近いうちに詳細を決めてまた書き始めようと思います。
この場でまた顔をお見せすることができるまで、今しばらくお待ちくださいませ。
そして最後にもう一度……。
当作品、「来世になるけどまた会いましょう。」を読んでいただきまして、ありがとうございました!
2014年10月13日 自宅にて ひさなぽぴー




