表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世になるけどまた会いましょう。  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第三章 涼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/62

第58話 決戦 4

 激しい攻防が続く。

 明らかに自分より上の力に競り合ってるせいか、だんだん身体がついていけるようになってるのは俺の才能なのか幸運なのか。

 しかし、状況は全然よくない。っつーか、最悪だ。


 一緒に戦い始めたはずなのに、残ってるのは俺一人。壊之天狼フェンリルで魂を疲弊させられた他の三人は、意識こそあれ動くことができないままだ。

 そしてそのダメージは、俺にも確実に積もっている。さっきから、思うように身体が動かない。それでもなんとか対応できているのは、戦いながらランクアップしてることと、あと少しで、という気力によるものだ。


 そう、あと少しだ。俺のライフが、じゃない。いや、俺のももう少ししか残ってねーけど。


 湊さんのライフが、もう残り少ないのだ。


 何度も言うが、オーラロードは爆発的な力を得る代わりにライフを使う。散々いろんな技を使いまくっていたせいで、彼女のライフはかなり消耗しているってわけだ。

 そもそも、壊之天狼フェンリルを常時発動させているだけでも相当ライフを使うのは間違いない。常に相手のゲージを気にしてる余裕なんてないから、具体的にどれくらいの減り方なのかはわかんねーが。


 ともあれ、もう少し、もう少しのはずなんだ。

 だからこそ、今の俺にできることはできるだけ長く持ちこたえること! なるべく湊さんに消耗を強いて不戦勝に持ち込む以外、もはや俺たちに残された道はない!


 しっかし、殴り合いを続けていたら俺が先にやられるだろうことは間違いないだろう。


「なあ……ッ、そろそろ教えてくれよ! なんで王権神授ディクテイターが効かない!?」


 だから、ここはひとつ賭けに出ることにした。言葉で時間を稼げないか試みる!


「さあ、なぜかしら? 時間を止める、なんていう大層な技の細かい仕様は私は知らないし、どうしてそうなったのかはわからないわ」


 う……、やっぱりどんな技かも見抜かれてるのか。

 空さんは「絶対に解けない」って言ったけど……やっぱり湊さんのほうが一枚上手だったか……!


「技の効果まで見切っておいて、わからないってこたねーだろっ?」

「本当にわからないんだけど? ああでも……そうね、強いて言うならこれかしら」

「……糸?」


 湊さんが、表情を変えることなく示したもの。それは、彼女のオーラから伸びる糸だった。

 見た感じは、糸というよりはピアノ線のようにものすごく見づらいが……ともかく、糸状の何かがオーラから出ている。

 そしてそれは、まっすぐ俺の右の小指に……。


「……ッ!?」


 俺は慌てて手を挙げてそれをまじまじ見た。糸、これが俺と湊さんを連結させていたのか……!?


「い……、いつの間に!?」

「攻撃しあいながらすれ違ったときね。何はともあれ技の正体を確かめようと思って、あんたにくっつけておいたの。

 最初は瞬間移動だと思ってたから、とりあえず接触さえしてれば何かわかるかも、っていう程度だったんだけど」


 そこで一旦言葉を切って、湊さんは笑った。そしてその笑顔のまま、猛烈な勢いで俺に迫ってくる。その拳は、銀色に輝いていた。

 炎を弾かせて猛風を引き起こしながら、俺はそれをすんでのところで回避する。だが、白銀のオーラは俺の身体をかすかに切り裂いた。

 途端に、猛烈な倦怠感が襲ってくる。まだだ……まだ負けるわけにはいかねえ……!


「ぐ……っ!」

「まさかこれほど効果があるとは思わなかったわ。これで無効化できているということは、王権神授ディクテイターの効果は時間停止で、発動者と物理的に連結しているものには無効……こんなところでしょ?」

「く……っそ!」


 その通りだ。どこも間違っていない。百点満点の回答だ。


「解けない謎、ねえ。やっぱりそんなもの、この世には――」

「ッ――」


 歯噛みした俺に、湊さんが勝ち誇ったように笑う――その瞬間に。


 時間が。世界が、静かに凍てついた。

 すべての音が消え、すべてのものが動くことを否認された世界がまた始まったのだ。


 しかし……。


(なんだ!? 俺は王権神授ディクテイター使ってねーぞ!? 誰が使ったんだ!?)


 そう、俺は使っていない。使っても意味がないからだ。

 にもかかわらず、今時間が止まり――あれ、湊さん普通に止まってんな?


 ……ああそうか、俺が発動させたわけじゃないから動けるわけじゃねーのか。

 不思議に思っていると……巨大な真空波が俺と湊さんの間を切り裂くように現れた。その先には……。


「チェックメイトだよ、スズちゃん!」


 いつの間に復帰したのか、空さんが手刀で虚空を切り裂いていた!

 え、なんで!? 空さん、もう動けないって言ってなかったっけ!?


「ふふふ、ぼくは自己申告して倒れたんだよ? 確かに立ってるのもきついけど、まだ動けないレベルじゃなかったのさ!」


 な、なんだってー!?


「敵を騙すにはまず味方から、さ!

 ぼくはあくまでやられたと思わせないといけなかった。だからこそ、弱体化を承知であえてリンクリングを外してたんだ。表向きの理由は、王権神授ディクテイターの情報を遮断するため。でも、一番の理由はぼくが戦線から降りることを自然にするため!

 そしてスズちゃんなら、絶対ぼくがしかけた謎を解けると思ったよ。この状況に持ち込むだろう、ともね。聞こえてないだろうけど……どのみち解かないとバトルに負けるし、彼女は元々負けず嫌いだもんね!

 さあリョー君、今度こそ後は任せたよ!」


 言いながら、空さんはにやっと笑いながらサムズアップをする。


王権神授ディクテイター解除と同時に、スズちゃんとの連結は切れる。あとはもう一度王権神授ディクテイターを決めてちょーだい! あとはもうわかるだろ? 君の最強の一撃を頼んだよ!」


 そしてその言葉と共に、時間が動き始めた。


「存在しなか……っ!?」


 中断されていた湊さんの言葉が再開し、それからそれも途中で切り上げられる。


 俺たちの間を通過した巨大な真空波が、俺たちを繋いでいたオーラの糸を切断したのだ。その瞬間、湊さんの顔が驚愕に染まり、前述の通りになる。


 今だ……今しかない!


王権神授ディクテイター!」


 空さんのそれと入れ替わる形で、俺は時間を停止させた。

 そして……今度こそ、湊さんをこの止まった世界に呼び込むことに成功したようだ。


 ……したんだよな? 前回の失敗があるから、まだ何かあるんじゃねーかと勘繰っちまうな……。


 いやとにかく、考えたところでどうにかなることでもない。罠なら罠で、飛び込んでみねーとな。


「うしっ!」


 俺は自分の両頬を叩いて気合を入れると、一つ深呼吸をしてから、両こぶしを全力の炎で覆い尽くした。もちろん温度は感じないが、もはやプラズマに近いそれは、大抵のものを燃やすどころか灰すら残さないだろう。

 次に、その炎を光で包み込む。真琴のライトロード、その技の一つであるレーザーブレードの応用だ。これで、さらに威力が倍加する。


 これを湊さんの懐でぶっ放す直前! この状態で……時間を動かす!


「――!」

「オラアアァァアァーッッ!!」


 空気を切り裂く轟音、視界を覆い尽くす閃光、全てを灰にする爆炎。三つの暴力を宿した両拳を、数えきれないほど湊さんに叩きつける!


 俺の叫びと共に、湊さんの身体が無数の乱打を受けて激しくたわむ。身体が消滅しないのは、ひとえに俺たちが魂の存在だからだろう。

 そしてそれがわかっているからこそ、俺は容赦しない。ここが最後のラインなんだ。ここで湊さんを倒せなかったら、もう二度とチャンスは来ないだろうから。


 ライフを……! 削る、削る、削る! あと少し、もう少し!


 湊さんがはじけ飛んだ。その瞬間、彼女の身体を包んでいた白銀のオーラが消し飛び、彼女の身体が人のそれに戻る。そして同時に、黒い渦が虚空に浮かび上がった。


 ……狡之星者ロキか! 瞬間移動で逃げるつもりだな!?


「させるかよおぉォッ!!」


 俺は叫びながら、湊さんを追う。そして彼女を押さえつけて……、彼女の身体と共に、渦の中へと吸い込まれていく。

 二人で無理やり通ろうとしているせいか、なかなか通れない。もはや瞬間移動は失敗と言っていいだろう。


「……っ! ここまでついて来なくてもよかったのに!」


 湊さんが、珍しく感情をあらわにして声を上げた。そこには、相変わらず俺を小ばかにしたような、そんな雰囲気がある。

 だが、もはやその程度で引き下がる俺じゃない。


「逃がさねーぞ!」

「本当にバカなんだから、まったく……! 仕方ない……でも、どうなっても知らないわよ!」


 そしてそう言ったかと思うと、湊さんの目の前……つまりは俺の目の前に、無数の機械が出現した。


「バグ技……!? 一体何を――」

「起爆っ!」


 俺の声を遮って、湊さんはそう宣言した。

 そして――その宣言と共に、全ての機械が一斉に、……爆発した!


「な――――!!」

「――――」


 ライトロードが操るどんな光よりもまばゆい光が、猛烈な破壊力と共に俺と湊さんを襲う。そして……この場の全ても。

 身体に異常がないのはひとえに死んでいるからだが、それでも俺の視界と身体は、確かに巻き起こった爆発で破滅の中にさらされることになった。


 湊さんも巻き込まれてるぞ?


 そう、疑問を抱いた俺が最後に見たのは――満足そうに笑う湊さんと、狡之星者ロキによって生じた穴から空間が裂けていく様だった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 どうやら、意識を失っていたらしい。死んでからというもの、そういうものとは無縁だったのでなぜか感慨深かった。

 少しずつ戻ってくる感覚や、不確かだったものがはっきりしていく感覚は、生前の目覚めに似ていて、懐かしかったのかもしれない。


 とはいえ、今言ったばかりだがこの身体は気絶や睡眠とは無縁なので、意識がなかったというのははっきり言って異常事態である。

 ただ、原因は分かっている。この感覚は、一度○ーパー○イヤ人をやったときに味わっているからな。


 つまるところ、あれだ。湊さんの壊之天狼フェンリルで食らっていたダメージが、そっくりそのまま疲労のような形で出たんだろう。


 ……なんてことを考えながら、ようやく動くようになった身体の、目をまず動かす。

 開いた瞳がとらえたものは……右も左もわからない、異次元のような場所だった。けど、俺には見覚えのある場所でもある。


「……次元の狭間じゃねーか!?」


 おかげで目が覚めた。

 慌てて全身を動かすが、うまく身体が動かない。この場合は、まだ本調子じゃない、ということより、足場や重力がないことによる不慣れなことが大きいと思う。宇宙に行くと、こんな感じなのかもしれない。


 ……っつーか、なんでこんなところにいるんだ? 俺は確か、湊さんが引き起こした超爆発に巻き込まれて、それで……うーん、そこからの意識がないな。

 確か最後の記憶では、湊さんがやけに嬉しそうに笑ってたのと、それから空間が裂けているのが見えて……って、それか!?


 あのとんでもない爆発が、狡之星者ロキでできていた空間の穴を広げてしまって、そこに俺たちは落ちた……そんな感じじゃないか?

 となると……え? どうすりゃいいんだ。時空の狭間じゃないという感じは全然しないどころか、なぜか確信を持ってここが時空の狭間って思えるんだが、そうだとしても、どうすればここから脱出できるんだ?


 と……とりあえず、身体を動かせなきゃ話になんねーし……しばらく、この状態に慣れるために身体を動かしてみる。しかし、動かしながら周りを確認しようと顔を動かしたことでも目に入ったものに、思わず動きが止まった。

 俺と同じように、何もないところに浮かんでいる人影があった。ただ動きは一切なく、だらりと弛緩した手足から見て、意識がないことは間違いないだろう。


 ……湊さんだ。湊さんが、そこにいた。


 だが、何よりも目を引いたのは、彼女の身体に無数の機雷がまとわりついていたことだ。意識や自我を持たない機雷だが、それが群がっている様には怖気が走る。


「……湊さん!」


 俺はもがきながら、とっさにクライムバスターを発射して機雷を撃ち抜く。貫通する光線が、数個の機雷を破壊した。


 しかし、残りはまだ多い。さらに、いくつかの機雷が湊さんから離れて俺に向かってきた。

 その速度はそれなりに速い。が、うまく身動きが取れない今の俺にとっては、その程度でも十分脅威だ。


「この……っ、寄んじゃねー! んで、湊さんから離れろ!」


 近寄ってきた機雷を王権発布ファーストドミニオンで停止させ、その隙に湊さんの元へ向かう。


 ……なるほど、泳ぐ要領か。泳げばわりとスムーズに進めるようだ。エアーロードが上手く使えないのは、空気がないからってところか……。


 って考えてる場合じゃねーな!


「湊さん、しっかりしろ! 湊さん!」


 機雷を蹴散らしながら、なんとか目の前まで来たが……返事がない。身体を揺さぶってみても、軽く叩いてみても、まるで反応がない。

 まさか死んじまったのか? 確か……マーシュが、この空間に普通の人間が来たら、もって一時間程度って言ってたが……。


「おい、うそだろ湊さん! そんな簡単にくたばるような奴じゃねーだろ、おめーは!」


 何度も呼びかける。しかしやはり、返事はなかった。


 そんなことをしている間にも、機雷は次から次へとやってくる。俺はそれを撃退しながらも、必死に湊さんに呼びかけ続けた。


 しかし、そうやって二つのことを同時にやるなんて器用な真似が、俺にできるわけもない。

 中途半端に向けていた意識は、確かに気がついてはいたが……それでも、俺の中心的な部分がそれに気づいていなかった。


 そんな俺が、死角から音もなく突っ込んできた機雷によって意識を刈り取られるのは、当然のことだった……。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


VS涼、一応これにて終了です。相討ち、ですね。

結局、最初から最後までおいしいところを永治が持って行ってしまいました。

いやもう、なんていうか……グロウロードの使い勝手が良すぎたんや……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当作品の異能力バトルにおいてキャラクターが使う特殊能力と、彼らが戦うバトルエリアのアイディアを募集しています。
もしアイディアがございましたら、規定をご確認の上提供していただきたく思います。
【急募】能力とエリアのアイディア【来世に(ry】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ