第56話 決戦 2
俺と真琴は、ほぼ同時に駆け出した。俺の手にはライター、彼の手には聖剣。
……文字で書くととっても残念な気分になるが、俺の武器はこの拳だ、細かいことはいいんだ。うん、いいんだよ。
まあそんなわけで、駆け出した俺たちだ。相手は湊さんなので、思考加速はもう最初からオンだ。
一方で、空さんは動かない。前を向いて走っている状態なので、具体的に何をしているかはわかんねーが、彼のことなので必殺技の準備なりなんなりをしているんだろう。
どんな技なのかまったく聞かないままとにかく突っ込んだが、そこはもう信じるしかない。この状況を打破できるハイパーでスペシャルな技だと。
そしてそう信じるからこそ、俺と真琴は空さんが思いっきり技をぶっ放せるように、湊さんを引きつける役割を全力でこなそうと思えるわけだ……。
「えぇい!」
風に乗った真琴が、俺より数歩先んじて湊さんへ攻撃を放つ。そこに遠慮なんてない。銀色の一閃が、湊さんへまっすぐに突き進む。
……が、風を乗せた猛烈なその一撃は、こともなげに受け止められた。しかも、片手だ。
相変わらず涼しい顔の湊さん。だが、攻撃はまだ終わらないぞ。
「クライムバスター!」
超至近距離からのレーザー光線は、さすがの湊さんでもかわせねーだろ!
「……かわせるのかよ!」
真琴の横をすり抜け破焔拳をぶちかましながら、俺は思わず叫んだ。
目の前で放ったはずの真琴のレーザーは、なんと湊さんをよけて飛んで行ったのである。オーディンが同じようなことをやってたが、なんなんだあんたらは……。
「壊之天狼は勇之闘気の上位互換よ? 攻守共に、その性能は比べ物にならない……と言っておくわ」
そう答えつつ、彼女は残る片手で俺の拳をさらっと受け止めた。
「く……っ! 燃え上がれフレアロード!」
「はじけろエアーロード!」
つかまれた手を、ふりほどくことができない。俺は舌打ちと共に、拳の炎を一気に拡張した。シンプルにしてベスト、フレアロード本来の使い方だ。
そこに、真琴が空気を操作する。湊さんの回りに空気が集まり、それがそのままフレアロードの糧となって青白い炎へと変えていく。
「氷之死病」
だが、湊さんのその宣言と共に、炎は急速に力を失う。周囲を猛烈な氷が吹き荒れ、俺の力と拮抗しているようだ。
ちいぃ、なんてこった! これでどうしろっつーんだよ!?
と思った瞬間、湊さんの姿がブレた。回り込まれる! と思えたのは思考加速のおかげだが、それがあってなお、その動きを完全にとらえられなかったことにゾッとするしかない。
「うお……!」
身体をひねりながら、俺は左腕をとっさに盾にした。そしてそれは大正解、なんとか湊さんのハイキックを防ぎ……しかし威力を殺しきれずにかなり派手にぶっ飛んだ。
これ、生前だったらこれでもうノックアウトは間違いないだろう。反撃のレーザーと、焼殲滅をぶっ放しながら吹き飛べるのは、ひとえに痛覚がまったくないからだろうな。
まあ、反撃は全部特に苦も無くかわされたり受け止められてんだけどな。おかしいねえ、真琴も同時に攻撃をしかけてるんだけどなあ?
俺は歯噛みしながら、着地をこなしつつ湊さんをにらむ。
白銀のオーラに包まれた彼女は、相変わらず自信たっぷりで身構え、そして――爆発した。
「……は!?」
「え……っ!?」
突然の出来事に、俺と真琴は目を点にする。
「――何っ?」
爆風を突き抜けて、湊さんが空へ舞い上がる。頭上のゲージは、多くはないが確かに減っていた。
彼女は、ある一点へ目を向ける。そこには、何やらロケットランチャーとはまた趣の違う兵器を構える空さんの姿が。
「……スティンガーミサイル? 気づかれず一瞬であの射程を?」
湊さんが、やや険しい表情で空さんをにらんでいる。対して、空さんはしてやったりと言いたげだ。
ともあれ、これは立派な隙。俺と真琴は、空気を操り湊さんに向かって飛ぶ。もちろん、飛びながらもろもろの攻撃を放つことは忘れない。
「……地之錫杖!」
対して、湊さんは妖しく光るオーラの塊を乱射した。が、その速度は大したものではない。拳銃くらいかな?
ステータスを上げまくる前から、既に狙撃銃を回避できていた俺だ。この程度、屁でもないぜ!
「もらったぁっ!」
攻撃後の隙を突く。戦いの基本だ。俺と真琴は同時に、湊さんへ攻撃を加える!
…………。
……あのさあ、だからさあ、せめて一発食らい食らってくんねえかな……。
「……既に移動済み、と……?」
しかも、俺ら眼中にないのかよ! 湊さんの目は、空さんにくぎ付けだ。
その空さん、さっきの場所とはまったく違うところに立っていて、なんていうかいつの間にそんな大移動を? って感じだ。
……って、げげ、地面めっちゃくちゃになってんだけど? なんで?
「――ッ?」
首をかしげた俺の目の前に、無数の弾丸が突然現れた。
それは一発残らず湊さんに向かっていて、俺は少し後ろに下がるだけで事なきを得たわけだが……なんだなんだ、一体何が起きてるんだ?
すべての弾丸はあっさり弾き飛ばされて終わりそうだが、攻撃のチャンスなのは間違いないので俺も乗じてレーザーを乱射だ。真琴も続く。
さすがにこれだけ無数の方向から連続で攻撃が飛んで来れば、全てを回避することは湊さんでもできなかった。
途中で弾丸を無視してレーザーに対応した辺り、たぶん与えられるダメージはレーザーのほうがでかいんだろうな。湊さんは現実主義者だ、同じダメージなら、よりダメージの低いほうを選んだ、ってこったろうな。
だが、攻撃はそれで終わらない。次の瞬間、またしても湊さんの目の前に弾丸が現れた。今度のは、煙の尾を引く高速の飛行物体。
「またミサイ――!?」
湊さんの声が、爆音でかき消された。
……っしゃあー、わからん。
さっっっぱりわかんねえぜ!!
わかんねえ、わかんねえが……これだけはわかる。
「空さんマジグッジョブ!!」
「はっはー、だろー!? まだまだ武器はいっぱい残ってるじぇーい!」
遠くから聞こえてくる調子のいい声に、思わず笑いながらも身構える。
まだ終わっちゃいねーかんな。
「……なるほど、私には絶対解けない謎ね。面白いじゃない……」
煙を吹き飛ばしながら、湊さんが姿を現す。ライフゲージ、残り……半分とちょっと。
「とりあえず、もう少し近くで見せてもらおうかしら!」
言いながら、湊さんの足元に黒い渦のようなものが浮き上がった。そしてその中に、彼女の身体が飲み込まれていく。
「狡之星者!」
「なあっ!?」
そして、彼女の姿はそこから消えた。
慌てて周囲を見渡せば……彼女は、いつの間にか空さんの目の前に立ちはだかっていた。
「狡之星者ってのは瞬間移動系の技か!」
やべぇ、やべぇぞ! 今の俺たちは、はっきり言って空さんの支援なしじゃ絶対に湊さんには勝てない状態だ。ここで空さんがリタイアしちまったら、どうにもならねー!
大急ぎで反転して、空さんの元へ飛ぶ! 間に合ってくれー!
空さん、湊さんの猛攻の半分くらいをさばききれてない。このままだと、あっという間にリタイアしちまう!
させるか!
「真琴!」
「うん、わかってる!」
「「ゴッドエンペラー!」」
掛け声を合わせて、俺たちは同時に攻撃を放つ。極太のレーザー、そしてそれを圧縮された真空波が追いかけ、さらに衝撃波がそこに続くという複合連続攻撃だ。
発射した瞬間、湊さんがこちらにちらりと顔を向けた。それと同時に、空さんの姿が消える。
舌打ちと共に湊さんは紫色のオーラをまき散らしながら空へ飛び、攻撃をかわす。吹き荒れる風にあおられてもブレないのは、闘之飛翔の性能の高さがうかがえる。
一方、散らされたオーラが降り注いだ地面が猛烈な勢いで溶け始める。まるで泥沼か何かのようになってしまったそれを見て、背筋が凍るような気分がした。
なるほど……さっき地面がぐっちゃぐちゃになってたのはこの技のせいか。地之錫杖……これも厄介だな。これ、武器なり防具なりに当たったら全部溶けちまうんじゃねーか?
……湊さんが、何もないところに向けてエネルギー弾を撃つ。
何を、と思ったが……悲鳴と共に空さんが現れ吹き飛んだ。潜んでたのか……。
「空さん! 大丈夫すか!?」
「だいじょばない!」
空を錐もみ回転しながら吹き飛ぶ空さん。それを、湊さんが追撃する。
やばい、追いつけねえ! ほとんどスピードに差がないせいで、距離が縮まらねえ!
「マスラぁ!」
並行する真琴が、マスラさんを召喚した。
どうするんだ、と思ったが……なんと、彼はマスラさんを思いっきりぶん殴った!
「真琴!?」
「これで追いつけるよ!」
あん? と思えば、殴られたマスラさんはぶっ飛んで、猛烈な速度で湊さんの背後に確かについていた。
……なるほど。いや、でもいくらなんでも乱暴すぎだろ……。
「お兄さん、ボクを殴って!」
「本気か!?」
字面だけ見ると、ものすごく怪しいじゃねーかよ! 俺にそんな趣味はねえ!
いやもちろん、そういう意味じゃないことはみんなわかってくれると思うけどよ!?
「いいから早く!」
「わあった……しゃーなしだ、なっ!!」
せっつかれ、俺は仕方なく真琴の背中全力でぶん殴った。破壊力はそのまま速度へ変換され、エアーロードでの飛行を優に上回る速度で、真琴の身体が飛んでいく。
ああ……四分の一ほどのライフがなくなってるが、これでよかったんだろうか。俺の疑問は尽きない。
もうちょっとでたどり着くその先には、なんとか湊さんに追いついた真琴が、マスラさんと一緒に戦っている。けれど、当然のように湊さんはそれをものともしない。
一方、頼みの綱の空さんはと言うと……ふらついた足取りで走っていた。だが、やがて足がもつれ、その場に倒れこんでしまう。
「空さん!」
「もーダメ、相当食らったからねえ、身体ぜんっぜん動かないよ!」
「……了解、あとは俺らに任せてくれ!」
これ以上、無理をさせるわけにもいかねえよ!
俺は歯を食いしばりながら、真琴を追いつめる湊さんへレーザーを放つ。
相変わらず、レーザーはぐにゃりと曲がって当たらない。くそ……あのオーラを、壊之天狼をなんとかしないとどうにもなんねえ!
どうする……ここからどうすれば勝てる!?
真琴と湊さんの間に割って入りながら、俺は真琴をかばう形で仁王立ちになる。
「……まだやるつもり?」
対して、湊さんがやれやれと言わんばかりに口を開いた。
「ったりめーだろ! まだまだこれからだっつーの!」
「そうかしら……後がないようにしか見えないけど?」
その通り、マジでその通りだ。けど、それを認めるわけにはいかねーんだよ。
「へっ、切り札は最後まで取っとくもんだろ!?」
言いながら、俺は全身を炎で包み込む。壊之天狼を真似て、とでも言えばいいか。
けど、操っているとはいえ、火力だけはプラズマ手前レベルとはいえ、ただの火で湊さんに対抗できるとは到底思えない。
さて……どうするか……。
炎を練り上げながら考える……その、瞬間だ。
世界が突如凍りついた。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
伊月に続き永治も戦線離脱。しかしまだ戦いは終わらず……。
突然ミサイルが現れたりした現象の数々、前回の終わりの永治のセリフと併せればわかる方にはわかるかと思われます。
そう、あれです。あの能力です。




