第53話 振り分けタイム 5
「と、ゆーわけで、第四回作戦会議をはじめまーっす」
いつも通り、空さんの司会で会議は始まった。同じくいつも通り、まばらな拍手が上がる。
「その前に……リョー君さあ」
「はい?」
いきなり話を振られて、俺は首をかしげる。
「すごいね! 死神三人相手に、よくあんだけツッコミできるよね!」
「……はあ」
え、そんなにか?
と思って他の二人に顔を向けると……。
「ホントにね」
「拙者、ひやひやしておりましたぞ……」
この調子だ。あれえ?
「いや、なんで『え?』って顔!?
ぼくらとしては、仮にもぼくらの生殺与奪を握ってる相手なんだから、緊張だってするしキョドりもするよー。
イザナミ様は不健康系幼女な上に保護欲かき立てられるところあるけど、他の二人特にヘル様なんてもー……」
「そ、そんなにすかね? 俺はただいつも通り……」
「それ! それがすごいんだってばさー」
「そうだよ。お兄さん、もしあの人たちを怒らせたらどうなるか考えたことある?」
「ないでーす」
真琴に答えたら、彼だけじゃなくて三人全員からため息を食らう俺。
なぜだ!
「お館様のこれは……ある意味才能でしょうか」
「かもねえ……。リョー君にとっちゃ、人間も神様も同じなのかもなあ」
「褒められてるのかけなされてるのかわかんねっすよっ?」
俺だって、人間と神様の区別くらいついてるさ。
色々司っててあれこれできる偉い人だろ? ただどういう風に接すればいいのかよくわかってねーから、いつも通り接してるだけなんだがなあ。
「……ま、この話題はここまでにしとこう。あまり神様たちを待たすわけにもいかないしね」
ぱんぱんと手を叩いて、空さんが話題を変えた。
そう、俺たちは今、イザナミ様たちを待たせている。空さんの配慮で、この会議の場に三人は来ないようにしてもらったからだが、本質的にはヘル様が殺そう殺そううるさかったからってのが一番大きい。
あとは……空さんたちが気おくれするってのもあるのかもな。
あ、もちろん断ったわけではなくって、久々に会った友人同士ゆっくりしてください、と遠回しにだぞ。この辺りはうまい機転だと思う。俺にはできん。
「……改めて、第四回作戦会議でっす。さて……我々はスキルをどう振っていくべきでしょーか?
そして、せっかくのアイテム無料キャンペーンなので、どんなアイテムを買うか? それも考えたほうがよさそーです」
「まずはスキルのほう、でしょうか?」
「そーだね。マコっちゃんは人と連携するのは初めてだろうから、改めて説明しておくと……」
まず、空さんから団体戦である本選のスキルに関する仕様が説明された。
全員のスキルの中で一番高いものが全員に反映されることや、特殊能力スキルの連結を高めることで特殊能力の性能が上がること、ポータルの効果などだ。
現状、リンクリングの効果でポータルの効果である「特定の人の特殊能力を使う」に関しては、全員が全員のものを同時に使えるようになっているので、そこまで重要ではないが……これはあくまで特殊な例なので、一応説明された。
そのうえで、真琴が今習得しているスキルの内訳を見せてもらうことになる。
……ん、俺? いやあんた、俺が説明に向いてると思うか? もし思うなら、逆に尊敬するぜ……。
というわけで、そこは察してくれ。な。
んで、真琴のスキルを見たうえで、今後誰がどのスキルを取るかということを話し合うわけだが……。
真琴はそもそも俺とのバトルが初バトルだったわけで、スキル自体はさほど多くを習得できているわけではなかった。所有スキルの程度は、俺たちの中で一番低かった。
どうやら、彼と戦う前にした推測の中では「ポイントに関しては優遇されていない」が正しかったみたいだ。
とはいえ、特殊能力のほうのスキルは彼の能力である光と空気を操る能力として独立しているので、そこのレベルは大事だ。
というわけで、真琴のポイントは全部そこにつぎ込んでもらうことにした。何せ、彼の能力は二つもあり、その両方が有用に使えるであろうことは実際に戦った俺が一番よくわかってるからな。
そしてそれ以外……俺をはじめ残る三人は相談した結果、最も多くポイントを持つ俺が、ポイントのすべてを思考加速につぎ込むことで一致した。
俺がバトルでたびたび救われてきた思考加速は、湊さんが持っていたスキルだからな。彼女がメンバーから外れ、敵に回っている以上、その恩恵を受けることができないってことだ。
使ったからわかる。思考加速は、絶対必要なスキル。これは間違いない。あのスキルを発動させて得られるアドバンテージは、他のスキルの比じゃないんだ。
それから空さん。彼も、真琴と同じくポイントはすべて特殊能力に使うことにした。
最初はパッシブ系をいくつか見繕おうかと話をしたんだけど、空さん本人が、
「もうちょっとレベルを上げれば、当初から考えてた必殺技が完成しそうなんだ!」
と熱弁をふるったので、ここは彼を信じることにした。
そもそも攻撃能力を持たないグロウロードで「必殺」をするのはたぶん無理だと思うけど、それに見合う何かハイパーでスペシャルな技を考えてるんだろう。
何せ、湊さんとの決戦では切り札にできると思う、とまで言ったんだ。そこは期待していいだろう。
ただ、どんなものかは教えてくれなかった。何かの拍子に、空さん以外の人間がうっかり使うことを防ぐため……ってのがその理由。
警戒していることはもちろん、情報漏えいだろう。何せ、相手はちょっとしたことからでも解決の糸口を見つけてしまう湊さんだ。
誰か……たとえば俺あたりが、うっかりその切り札を使ってしまって裏をかかれる可能性は否定できない。
次に、織江ちゃん。彼女のポイントは、特殊能力強化系のパッシブにつぎ込んだ。
各種ステータスのパッシブに使って全員を強化したいところだったが、あいにくとその手のステータスの大半は俺に集約されている。
思考加速に俺のポイントをつぎ込むことが、思考加速レベル8を持つ湊さんに対抗するうえで絶対に必要だったのでここはしゃーなしだな。
まあ、特殊能力そのものが強化されるだけでもだいぶ違う。特に、特殊能力の威力がそのまま攻撃力とも言える俺や真琴に関しては、これは相当の強化になる。
さて次は、アイテムだな。
せっかくアイテムが無料になってるので、ここぞとばかりに俺たちは強化系のアイテムの最高級品を全員分取ることにした。ここはもう、遠慮する必要はないという意見で全会一致。
とはいえ、行動を制限しかねない鎧やでかい武器の類は選んでない。大半は、装備してもあまり影響が出ないであろうアクセサリだ。
このアクセサリで、ステータスのパッシブ系スキルの代わりにしようってわけだな。どうしても限度はあるけど、ポイントをこっちに使えなかった分だから、多少はね。
武器のほうは、やっぱり実剣の類はかさばるので俺はなし。元々素手でやってきたから、いっそなくてもってことだ。
もっとも、織江ちゃんや真琴はやっぱり剣があったほうがいいと言ったので、彼らは剣(伝説級のやつ)を取っていた。
空さんも、ロケットランチャーやら歩兵用携行ミサイルやらを取ってた。生前だったら危険極まりないけど、まあ俺ら死んでるしな……暴発だけはしないでほしいところだ。
ちなみに空さん、地球はかいばくだんなんてものを見つけて爆笑してた。
確か、青い猫型ロボットのあれだったかと思うけど、なんだってそんなもんがあるんだよ?
けど、
「いいや限界だ、買うねッ!」
って言いながら、妙に濃い顔をしながら買いこんだようなので、空さんはたぶん本気だ。
使うかどうかはさておき、威力の高い武器はあって損はないだろう……たぶん。ただ、俺たちにも被害が出ないような状況で使ってもらわないと、ってところは、織江ちゃんと真琴も加えた三人で、厳重に注意しておいた。
こんなところかな? そんじゃ、スキル発表ー。
◆獲得スキル
・技能系
い式格闘術 レベル5+3
ろ式格闘術 レベル6+3
は式剣術 レベル4+3
拳銃リボルバータイプシングルアクション レベル4+3
狙撃銃ボルトアクション レベル5+3
拳銃フルオートマチック レベル2+3
他、アクセサリの効果で全技能がレベル3
・ステータス系
攻撃力アップ レベル5+3
防御力アップ レベル5+3
素早さアップ レベル5+3
動体視力アップ レベル5+3
筋力アップ レベル5+3
脚力アップ レベル5+3
体力アップ レベル5+3
ライフアップ レベル5+3
反射速度アップ レベル5+3
思考速度アップ レベル5+3
特殊能力攻撃アップ レベル5+3
特殊能力防御アップ レベル5+3
・抵抗系
水属性軽減 レベル1+3
打撃属性軽減 レベル1+3
刺突属性軽減 レベル2+3
斬撃属性軽減 レベル2+3
銃撃属性軽減 レベル2+3
爆発属性軽減 レベル2+3
全属性軽減 レベル1+3
他、アクセサリの効果で全抵抗がレベル3
◆フレアロード
威力 レベル5
時間 レベル5
範囲 レベル4
強度 レベル5
精密 レベル4
連結 レベル2
◆アクアロード
威力 レベル5
時間 レベル4
範囲 レベル4
強度 レベル5
精密 レベル5
連結 レベル4
◆グロウロード
威力 レベル3
時間 レベル4
範囲 レベル5
強度 レベル4
精密 レベル5
連結 レベル3
◆ライトロード&エアーロード
威力 レベル2
時間 レベル2
範囲 レベル2
強度 レベル2
精密 レベル3
連結 レベル1
他、アクセサリにより全特殊能力のスキルレベルに+2
以上。
うーん、アクセサリによる底上げが半端ないな。こんだけありゃ、勝てるだろ。いくら湊さんでも、なあ。
戦い方としては、俺と真琴が前衛、織江ちゃんが中衛、空さんが後衛。……とはしたものの、湊さんの動きによってはまったく意味をなさないかもしれない。
一応いくつか作戦は考えたが、そのどれだけが通じることやらって感じだ。
何せ今のところ、作戦通りにバトルが進んだことがほとんどねーからな。やっぱり、考えるのと実際に戦うのとでは違うってこったな。湊さんや空さんは机上の空論って言ってたけど、つまりはそういうことだろう。
とりあえずは考えた作戦を一つずつ試して……ダメだったら、そこはもう突っ込むしかねーだろうなあ。
あ、ちなみにライトロードとエアーロードは真琴のな。せっかくだから、彼の能力も俺たちと同じような名前を付けました。
本人、かなり嬉しそうだったけど彼もやっぱり男の子ってことなんだろうな。かっこつけたいお年頃だね。
というわけで……用意は整った。
さあ、行こうか!
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ヘルヘイムの一角、神殿の気配色濃く残る遺跡のような場所に、彼らは降り立った。
八つ足の神馬を御するは、目深に帽子をかぶった隻眼の大男。この区域の主神、オーディンその人だ。
その後ろには、退屈気にタブレットを触っている涼の姿がある。画面では、カードソリティアが淡々と進められていた。
「……ふむ、どうやら予定より早く着いてしまったようだな」
オーディンがつぶやいた。
彼らの目の前には魔法陣が鎮座しているが、それはまだ完成していない。複数人のワルキューレが、忙しそうに準備に追われている。
だが、新たなワルキューレを生む儀式――ワルプルギスの夜は目前に迫っていた。
「そう。……それは仕方ないわね、どこかで時間つぶさないと」
「何? 待てばいいだろう」
「万年スパンで行動してるあなたたち神々にはわけもない時間かもしれないけど、人間ってのはそうもいかないのよ」
「……そうだな、人間の一生は短かったな」
「ワルキューレになれば、そんな小さなくびきから逃れられるんでしょうけどね?」
「無論だ」
馬上で交わす会話。だが、そのさなかでも涼はゲームをやめない。
彼女のその態度を、オーディンに仕えるワルキューレたちが見れば咎めるだろう。仮にも主人となる神を相手に、そんなことは許されないと。
だが、今ここにいるワルキューレたちは、みな一様に儀式の準備に追われている。それを見咎める者はいなかった。
「ならば、どうだ。ヘルヘイムを見て回るか? うぬら人間にとっては興味を引かれるものもあろうぞ」
「……やめておくわ。それはワルキューレになればいつでもどれだけでもできそうだもの。
そうね……せっかくだから、ワルプルギスの夜の準備を見学したいわ。どういうことをしていて、何がどういう結果を出すものなのか教えていただけないかしら?」
「ほう……相変わらずの好奇心だな。よかろう、儂が直々に説明してくれよう。さすれば」
涼の返答に応じて、オーディンはスレイプニルを動かす。神馬は主の命令に忠実に、また迅速に動いて馬上の二人を運ぶ。
そして彼らは、準備が見下ろせる小さな丘へ移った。
「うむ、ここがいいだろう」
儀式の現場に対して平行にスレイプニルをつけたオーディンは、そちらに顔を向けて頷く。
それを受けて、涼もここに着いて初めてタブレットから視線を外した。そのタブレットが、次の瞬間オーラとなって掻き消える。
そして、その瞳にようやく好奇の輝きが宿った。
「まず、あの魔法陣についてだが……」
始まったオーディンの解説を受けて、涼の瞳は輝きを増していく。
生前では絶対に得られない知識、あるいは死んでからも普通は得られない知識の数々が、涼の心を満たしていく。
知的好奇心、知識欲。それが、彼女の心を埋めるために必要なものだった。死んでからというもの、目の前の現実から逃げるようにして、彼女はそれだけを娯楽として過ごしてきた。
しかし、それすらも真実彼女の心を埋めるものにはならない。それは、彼女自身が一番わかっている。
彼女が本当に望んでいるものは、そんなちっぽけな「モノ」ではなかったのだから。
その証拠に、瞳を輝かせて魔術の知識を吸い込んでいく彼女の心は、オーディンの語る知識にも、目の前で繰り広げられている儀式の準備にも完全には向いていない。
彼女はただ一つ、自らが考える結末に向けた準備にのみもっとも心を向けていた。ただひたすら心中で、メニューを開こうとしていたのである。
そして。
ある瞬間に、賽の河原を離れて以降まったく反応しなかったリバーストーナメントのシステムが、再び反応した。涼の目の前に、メニュー画面が現れたのだ。
それを見て、彼女の意識は完全にメニュー画面へと移った。無我夢中で画面を操作し……そして、ある一点で動きを止めると、にやりと笑う。
「……あとちょっと」
それから彼女はそうつぶやくと、視線をちらりと自らの右腕に向ける。
そこには、飾り気のない腕輪がしっかりと着けられていた。その色は、見る角度によって変わる不可思議なものだ。
やがて涼は、不遜にもオーディンの話をすべて無視して、準備を開始した。やることはたくさんあるが、時間はそれほど残っていない。オーディンに気を使っている場合ではなかった。
間もなく、彼らがやってくるだろうことは予想がついている。それまでに、今自分が持っているスキルの拡張と能力の整理、そして目当ての道具を手に入れなければならないのだ。
その瞳は、昏く染まり切っていた。
だが……かすかに、ごくかすかにではあるが……希望の光も宿っていた。
それは手だ。暖かい炎に包まれた、誰かの手。
けれど、涼自身がその光に気づくことはなかった。もちろん、それが「誰」なのかなど、気づく由もない。
それはちょうど、灯台の根元が暗く何も見えないのと似ている――。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
準備を整える亮たちの裏で、涼もまた準備をしていますよというお話でした。
そして書いてて思いましたが、なんかオーディン様からすんげえ小者臭漂ってるような気がするんですが、やっぱしますかね……?
仮にも北欧の主神をこの扱い、とも思いますが……まあ、FF8じゃあの人ただの人間に真っ二つにされてるしいいか……。




