第48話 始まりと終わりの場所
やがて合流した織江ちゃん、空さんを加えた俺たち四人がイメちゃんに連れられてきた場所は、スカイツリーことトーナメント会場だった。
その会場の中、ポータルが居並ぶ道を抜けた先に、関係者以外立ち入り禁止の札がかけられた部屋がある。俺たちは、そこに通されたのだ。
中にあったのは、ものすごく大きな転移装置。面積は……見た目からはわかんねーが、たぶん都内の平均的な小学校の運動場クラス、と言えばなんとなく想像はつくんじゃないだろうか。
そんな巨大転移装置の前で、イメちゃんは振り返った。
「これから皆さんには、一度トーキョーエリアを離れていただきます。襲撃者対策として、エリア内の時間を止めますので、その影響下から逃れるためです」
「時間を止める……!?」
普通を全力でぶん投げる発言に、俺は目を剥いた。空さん以外は、大体そんな反応である。
「お忘れかもしれませんが、ここは死後の世界です。すべての現世からは隔絶した空間ですから、それくらいは」
「時間を止めておかないと、対応が長引いた時トーナメントがとんでもないことになっちゃうかもだもんねー」
やたら冷静な空さんにそうです、と頷きイメちゃんが言葉を続ける。
「これから向かう先は、賽の河原オリジンエリアです。詳細は、そこでお話しいたします」
なんかかっこいい名前が出てきたけど、どういう場所だろう。
普段なら、こういうときは湊さんが予想をさらっと口にしてくれるが、あいにくその頼れる参謀は今回いない。っていうか、最悪戦う必要がある。
そんな彼女に代わって口を開いたのはやはり、ムードメーカーでもあり、最年長の空さんである。
「オリジンか……嫌な予感しかしないねえ」
「おじさん、どういうこと?」
「マコっちゃん、お兄さんだからね! ぼくまだお兄さん!」
真琴の心無い一撃により、空さんが死にそうだ。まあうん、気持ちはわかる。
でもなあ、どう転んでも空さんと真琴の年齢差はダブルスコア間違いないだろうし……おじさんになるのは仕方ないんじゃねーかな。
「……空お兄さん、どういうこと?」
しかし、真琴は素直かつ空気を読めるいい子である。言いなおした彼に、空さんは即時復活した。
「オリジン! つまり起源! オリジン! つまり始まり!
恐らくオリジンエリアとは、ぼくたちは三途の川と聞いて想像するような、ザ・死後の世界なエリアだとぼくは見たね!」
大げさな身振り手振りを交えてである。最後に、そうだろう? とか言いながらびしっとイメちゃんを指さしたので、いつものアレな空さんだ。
「はい、お察しの通り暗い、さみしい、穢れたの三拍子揃ったザ・死後の世界です」
「やっぱり!」
予想を当てた空さんだけやたらテンションが高いが、そんなことを知らされてしまった残り三人のテンションはだだ下がりだ。
妙なところで空気を読まない空さんだが、果たしてわざとなのかどうか……。
「では、みなさんこちらまでお願いします。すぐに移動したいので」
妙な空気をバッサリ切ったのはイメちゃんである。いつもの彼女と違っておちゃらけた空気が全くないのは、本体と言った今の姿での性格なのか、それともそんな場合じゃないのか……。
単純に前者であってほしいが、状況的に後者なんだろうなあ。
俺はうーん、とうなりながらも転移装置の上へあがる。他のみんなも、迷うことなくそれに続いた。
「では、転移します」
最後に装置に上がったイメちゃんがそう言うや否や、彼女の瞳が光った。
勘違いでも、たとえでもなく、リアルに光った。
その瞬間、転移装置からいつもの白い光が一気にあふれ、俺の視界を埋めていくのだった。
仕組みはバトルで使ってるやつと変わらないのか……そんなことを考えながら、俺は光に身を任せた。
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光が収まって、目を開いた俺の目に飛び込んできたのは河原だった。
なんというか、河原そのものはどこにでもありそうな河原だ。手ごろな大きさの石が無数に転がっている感じは、川下という感じである。
だがその川、対岸がかすむほどに幅が広く、流れは超急。これで川遊びを考えるやつは医者に行けるレベルの、めっちゃ危なそうな川だ。
やばそうなのは、川だけではない。事前に空さんが言い当てた通り、この場所そのものがやばそうな空気を抱えまくっている。
上を見上げれば、青空は見えない。立ち込める黒い何かが上空を埋め尽くしていて、生前の空に対する感性を全否定された気分だ。
そのおかげかどうかはわからないが、ここが全体的に暗い。先頭に立っているイメちゃんの姿は見えるが、その距離は十数歩分でしかないことを考えると、一寸先は闇レベルの暗さだ。
なるほど、まさに三途の川のイメージそのものである。いかにも死後の世界というか。
「……ここが賽の河原オリジンエリア。一つの概念の下に今も生まれ続ける無数の世界において、日本という地域の生と死を一手に担う死後の世界、その始まりの場所です」
振り返ってイメちゃんが言う。その瞳が、これまた輝いている。いや、ガチで。
「死後の世界という概念は、その支配者であるボクたちの主、イザナミ様と共に拡張し続けています。
トーキョーエリアをはじめ、各バトルエリアはすべてそうですが……ここは、一番最初に出来上がった死後の世界の中心であり、根幹になります」
「……その割には、誰もいないようですが」
「根幹ではありますが、やっぱり第一印象はよくないですからねえ。
今は最低限の整備だけで、三途の渡河……ええと、つまり来世へ向かう川渡しは専用の場所で行われていますよ。
そちらは、トーナメントが終われば皆さんも行きますので、いずれまた」
織江ちゃんに答えつつ、イメちゃんが歩き始める。
こちらです、と言う彼女に、俺たちは続いた。
「こうした死後の世界というのは、地球という空間にも複数あります。有名なところでは、ヨーロッパ地域のヴァルハラやレテ川などです」
「あ、知ってる。神話で言うところの死者が行く場所だ」
「はい。地域ごとに、死神が死者に対する裁定を行っています。そのため、この賽の河原に訪れるものは帰化人を除いて日本人のみになるというわけです。
沖縄地域は以南の地域と併せてニライカナイの区域なので、また別なんですけど」
なるほど。道理で、周りに日本人しかいないわけだ。
深く考えたことはなかったけど、ちゃんと理由があったんだな。
「そして死後、その魂の輪廻をどうするかという裁定は、地域を担当する死神に一任されています。
その上で申し上げますと、リバーストーナメントという取組をしているのは日本だけです」
「え、マジで?」
「えー、じゃあ他のところはどうしてるのさー?」
「アフリカや中東といった、現世において発展途上国と言われている地域は、そもそも寿命前に亡くなる人が圧倒的に多いので、輪廻に対する施策は一切ありません。
アメリカやヨーロッパ地域では、キリスト教の価値観が多く残っているので、そもそも生まれ変わりや転生を魂に課す行為ともいえる方策とは一切ありません。死んだらどんな魂も平等に生まれ変わりです」
ほえー……。地域にもいろいろ特色あるんだね……。
「一方この日本区域ですが……元々輪廻転生の感覚が強く存在していること、寿命を迎えられない人間があまりにも少ないことなどから、こんな大げさなやり方ができると言っても過言ではありません。ただ……」
一旦そこで言葉を切ったイメちゃん。何やら考えているようだったが……。
「やり始めた最大の理由は、うちのヒキニートなダ女神様が『死後の世界の娯楽がなさすぎる』って言いやがったからなんだよねー」
大きなため息をつきながら、そう言い放った。
突然の暴言に、俺たちは思わず目を点にするが、イメちゃんは言葉を続ける。
「いやもう、うちのダ女神様ときたら本気で仕事しないんだ。
部下に任せっきりで、自分はひたすら遊んでるだけで……まあ、せっかく珍しく何かしろって言ってきたからボクらもうっかり張り切って、今の体裁を整えて転生に関するいろんな制度も構築できたから結果オーライと言えばオーライなんだけど……。
おかげで異世界の神様からも日本の魂は質がいいって最近は評判で、今やリバーストーナメントを転生案件の主要方策にしたいって神様が視察が来るくらいではあるんだけど、出だしがアレすぎてもうなんか、ホントに周りに申し訳ないっていうか?」
……うん。これ、あれだ。愚痴だね……。敬語が取れてるんだけど、ひょっとしてイメちゃん、それが素ですか?
っつーか、この死後の世界の裏事情がめっちゃ織り込まれたぶっちゃけトーク、いくらなんでもまずいだろ。こんなもん、他の参加者に聞かせたらキレるんじゃねーか……?
いや待てよ、そうか。もしかしたら、そのキレた参加者が他でもない湊さんなのかも?
「昔はまだよかったんだよー、トーナメントの参加者もそこそこいたから。
でも最近、現世の医療技術発達しまくりじゃないですか。もう、生きながらえまくりじゃないですか。
ぶっちゃけ、寿命オーバーしても生きてる人間がこんなに増えるなんて予想してなかったんだよねー。
おかげで参加者が減って減って……ここ十数年は、参加拒否の人すら参加させないとトーナメント維持できないレベルで。
なんとかしないとそのうちまずいことになるとは思ってたんだけど、今回それが現実になっちゃったってわけなのよ」
「イメ、私たちの恥部を暴露するのはそれくらいにしましょう」
延々と続くかと思われたイメちゃんのぶっちゃけトークを、彼女と同じ声が遮った。
俺は、イメちゃんのぶっちゃけトークについては忘れようと心に誓いつつ、新しく出てきた声の出所を探して周りを見渡す。
すると……いつの間に現れたのか、川辺に一隻の船が接岸していた。なんだかずいぶんと古めかしいデザインだけど……。
「あーうん……ちょっと言い過ぎたかも」
「遠い将来的にはそれでも構わないのですが、直近で言えば、士気ににも影響するんですからね」
そしてその船の中から現れた人物に、イメちゃんはにへっと笑って声をかけるのだった。
だが、その声をかけた人物はなんとイメちゃんとうり二つだった。恰好が神主さんみたいな服だから、違う人ってことはすぐにわかったけど……同じ服を着せたら区別つかないぞ。
そんなそっくりさんが、船の舳先から降りてきた。そして、聖徳太子が持っている板みたいなもので口元を隠しながら、俺たちに対面する。
「始めまして、皆さん。私はマボロシ、イメと共に日本区域の死後の世界を管理するものです。以後お見知りおきを」
「ボクとは要するに双子みたいなものでーす。基本的にボクが此岸、マボロシが彼岸を担当してるんだよ」
「は、はあ……ども……」
驚きの連続ではあるが、ともあれ俺たちは口々に返答する。
一人だけいつものように「男の子が私で女の子がボク! とりかえばや! とりかえばや!」とか言っていた空さんは、ある意味で尊敬する。
織江ちゃんがそれをはたいて止めていたのは、ナイスな判断である。
「さて皆さん。ここまでご足労いただきありがとうございます」
まだ驚きを引きずっている俺たちに、マボロシ君が言う。
「まずは、船へどうぞ。そちらで、今後のことをご説明いたします」
そしてその言葉と共に、これまたどこからともなく木製と思われるタラップ的なものが船にかかった。
……もはや驚きはしないけどさ。なんていうか、何でもアリだね、ホント。
俺たちは少しだけ互いに目配せしたが、ここまで来た以上引き返そうと思っているものはいない。
そうして俺たちは、イメちゃんとマボロシ君に導かれて、船へと上がるのだった。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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というわけで、新章スタートです。
いつものようにしばらく説明回が続くと思いますが、なにとぞお付き合いください。
ちなみに……「寿命オーバーしても生きている」というイメの言葉は、あまり大声で言えることでもなければ、言っていいことでもないと思うので、具体的にどういう状況の方を指しているのかは明言しないことにしました。
一応、ボクなりの生死に対する解釈ではあるんですけど、波風を立てるべきではないなと思いますので。




