第45話 本選 8
「……ふう」
真琴から逃げた俺は、そのままフィールドの真下に張り付いていた。いわゆる地面の裏というやつだ。空中に浮かぶ街並みは、下方向に限りがあるのだ。
そんなところにとどまっていたら危険かもしれないが、実のところマップ機能では高低差などがわからない。目視で見つけなければどうにもならないということだ。
もっとも、真琴にはマスラさんがついているので、悠長に構えていられるわけでもないのも事実だ。
「で、よ……そっちの意見はどうよ?」
装置と装置の隙間に潜り込んで一息つきながら、ポータル組に通信。
『彼の能力は、恐らく「光を操る」能力ね』
「光、か……なるほど、確かに」
即座の返信に、俺は思わず頷いた。思い当たる節しかない。
『それから、マスラの能力は「空気を操る」能力、かしらね。風だけなら、ソニックブームまでは起こせないだろうから』
「そっちはそっちで厄介だな。空飛んでたのもそういうことかな……」
『たぶんね。厄介なのは、龍治真琴もそれを使えること。二つの能力を同時に使えるのはこちらも同じだけど、二つの能力がどちらもかなり強い部類だわ』
『一番厄介なのは、光を操るほうの速度だねー。光速とか、今のぼくたちの理解が及ぶところじゃないもんねえー』
「見てから回避とか無理。見たと思ったらもう喰らってるよ、あのレーザー」
『加えてあの透明化ね。光の動きを制御することで、見えないようにしてるんでしょう』
『権利章典と原理はほとんど同じだけど、そもそもグロウロードはそういう光を操ったりするものじゃないからねえ……。
きっと、マコっちゃんのほうが透明でいられる時間は長いと思うなあー』
「あと、グロウロードの性質もバレてんぞ。攻撃すると見せかけて寸止めして、発動妨害されたからな」
『あー、やっぱあれ、そういうこと? うーん、ぶっちゃけきっついなー』
参ったと言いたげな空さん。彼がお手上げのポーズをしている姿が、なぜか目に浮かぶ。
『カギを握るのは、アクアロードね』
「……詳しく聞かせてくれるか?」
『光って確かにとんでもない速度で、それをレーザーという武器にされると脅威なのは間違いないわ。ただ、光は弱点も多い。
いい? まずはアクアロードでその辺一帯の水分を吸い尽くすのよ』
「す、吸い尽くす?」
『そう。あとは手当たり次第に周りの施設を徹底的に破壊すれば、だいぶこっちに有利になると思うわ。ただしフレアロードは禁止ね』
「ど、どういうことだ? それでどうして有利になるんだ?」
『なんとなーくわかっちゃったかも。粉じんを利用するんだね?』
『その通り。
いい? 光は確かに速いけど、空気中にあるあらゆるものが障害物になるの。ほこりなんかでも、十分その威力を殺してくれる。だからこその水分吸収と破壊よ。
湿度が下がれば、その分粉じんは派手に長く続く。それを盾にしながら戦うの。ついでに、粉じんだらけの状態で透明を維持するのはかなり難しいと思うわ。
加えて、粉じんがある分動きがそれに伝わるから、グロウロードを使える程度には認識できるんじゃないかしら。
空気を操る能力で粉じんを飛ばされる可能性が高いから、チャンスはあまり多くはないとも思うけどね』
「お、おお……なるほどだぜ……」
『ついでに、吸い尽くした水分は身体を覆う鎧にしておけばいいんじゃなーい? 水もかなり光を阻害するでしょー?』
『そうね。幸い、アクアロードを使っていれば液体でダメージを受けることはないし、いっそ全身を覆ってもいいんじゃない?
剣の通りも悪くなるでしょうし。見た目は気にしたら負け、ということで』
「……我慢します」
苦笑しながら、俺は本日二本目のカ○リーメ○トとパックジュースを取り出し口に運ぶ。
最近、ちょっと戦うたびに毎回ライフ回復に必死な気がするな。こうでもしないと負けるような、ギリギリの戦いを強いられてるからだが……そこはさすがに本選、猛者だらけということなんだろう。
『とりあえず、こっちはオーラロードとアクアロードでスタンバっておくわ。
グロウロードっていう防御のかなめが使えないから、ある程度作戦が進むまではなるべく慎重にね』
「了解。それじゃそろそろ……」
『あ、ちょっと待って』
「?」
食い終わったゴミをその辺に捨てながら(現実じゃないし、いいよな?)、俺は首を傾げる。
それからしばらく返事はなかった。代わりに、かすかに周りが振動しているような気がして、俺は居心地の悪さから身をよじる。
『チャンスよ。早急に外に出て、水分吸収を初めて』
「お? お、おう……」
見えない場所の湊さんに俺が頷いた、その瞬間。派手な音とともに、激しく周りが揺れた。
「なんだ!?」
『始まったわね。フィールド効果よ』
「フィールド効果? えーっと、確かここのは……」
『暴走ドロイドよ。街に大量に繰り出した暴走ドロイドが、そこかしこで破壊活動を行ってるわ。それに便乗するのよ』
「おお、なるほど!?」
『火は光源になるから、見つけ次第消火すること。いいわね?』
「合点だ!」
『それじゃ、私のほうも能力に切り替えるわ。あとは、あんたのセンスと運ね。目いっぱいやんなさい』
「おうよ!」
俺の返事と共に、湊さんからの通信が途絶えた。と同時に、俺は全身にオーラをまとって一気にこの狭い隠れ家から外に飛び出す。
そのまま上空へ上がり、街を見下ろしてみると……。
「……うっわ、暴走ってレベルじゃねーぞ」
眼下に広がるのは、入り乱れるドロイドが手当たり次第にビームを撃ちまくっている光景。それにどれほどの威力があるのか、目視ではわからないが……まあ、なんだ。数発撃ちこまれたビルが倒壊してるあたり、バカみたいな威力なのは間違いないだろう。
そんなふざけた威力のやつをこんな街中で造るなよとも思うが、いろいろあるんだろうな。
とりあえず、終末だ。ハリウッドも顔負けの、ド派手な終末。これが現実だったらと思うと、ぞっとするしかないな。
「真琴は……かなり近くにいるな。すぐに俺に気づくだろうし、ここはいっそ突っ込んでみるか」
アクアロードを展開しながら、俺は終末のど真ん中に飛び込んだ。
崩れ落ちるビルに気を付けつつ、摩天楼を縫うように飛ぶ。その道中の火を片っ端から消しながら、周りから水を集めていく。
ついでに、暴れてるドロイド君もついでに壊す。きっかけとしてはありがたいが、真琴と最後に戦うのを邪魔されるのは勘弁だからな。
そうしていると、なるほど。湊さんが言った通り、水分がなくなった場所での粉じんは、とんでもないことになっている。
俺の視界も阻害されるが、すぐに身体を水で覆ったから、目に入ることはない。また、その水を逐次動かすことで最低限の視界を確保できている。万全というには及ばないが、これくらいあればひとまず戦えるだろう。
「……!」
そう思いながら飛んでいると、ななめ前方が光った。そして、スポットライトのような光が俺を照らし出す。
ただし、その範囲はものすごく狭い。スポットライトのような、とは言ったが、それはその光の雰囲気であって、決してスポットライトではない。
「なるほど、この粉じんでレーザーの威力が殺されてるのか」
あれだけの威力を持っていたレーザーが、スポットライト程度の光量になるのか。ほこりや煙も馬鹿に出来ない。こういう戦い方もあるんだなあ。
ていうか湊さん、さすがすぎる。直前、真琴と戦った短い間でここまで作戦を考えられるのはもうなんていうか、才能ってレベルじゃない気がするぞ……。
と考えていると、前方の粉じんがぐにゃりとうねった。
……来る!
俺はそう思うと、即座に思考を加速させた。それと同時に、全身を包んでいた水を一部動かし、剣とする。水刃。
そしてその瞬間、風が吹き抜け粉じんが一気に動き、その中から透明な何かが飛び出してきた。
透明な何か、という表現は妙かもしれない。でも、確かにそれは透明な何かだったのだ。
たとえて言うなら、そうだな。ガラスは透明だけど、そこにそれがあるのはわかるだろ? それと似たような感じだ。透明で、向こう側が透けて見える。でも、確かにそこには何かが存在していることがわかるのだ。
詰まる所、完全な透明ではないということなんだろう。そして先ほどとは違って完全ではないのは、やはり周りを覆い尽くすほどの粉じんが影響しているのだろう。
その何か――真琴が、まっすぐに棒状の何かを突っ込んできた。恐らく、真琴の剣だ。加速した思考の中で緩やかに近づいて来るそれに、俺は水刃で応じた。
直後、固いものがぶつかり合う音が鳴り響き、俺の手にずんと重みがかかる。
だがひるまない。剣自体の性能は真琴に分があるが、単純な腕力といった身体能力は俺に分がある。しっかり攻撃を受け止めると、そのままピタリと相手を引き付けてつばぜり合いに集中させる。
そしてその隙に、全身を覆う水を無数の弾丸にして一斉に真琴を撃つ! その際に、勇之闘気を使って弾丸をオーラで強化することも忘れない。
もちろん、弾丸とはいっても銃ではないから音はしない。静かなものである。それでも水の弾は、危なげなくその役目を遂行した。瞬間、俺の剣が抑えていた力が立ち去る気配を感じる。
一方、水はアクアロードに従い元通り俺の身体に戻ってきた。永久機関とはこのことよ!
俺の身体に水が戻ると同時に、目の前の光が揺らいで真琴が姿を現した。その表情は、悔しそうだ。
頭上に浮かぶライフゲージは、さすがに勇之闘気を使った無数の弾丸を間近で食らったからか、五分の二くらいが一気に削れていた。
「……お兄さんってば、相変わらず器用な使い方するんだね」
「おいおい、俺一人でそんなに思いつくわけないだろ」
「それは……そっか、そうかもね」
「ちょまっ、少しくらい否定してくれよ!」
「えー、だって。ねえ?」
そう言って、少しだけ真琴は微笑んだ。それから、手にした剣を再度光に包んで身構える。
だがその輝きは、以前のそれとは異なり鈍く見えた。周りに光が少ないからだろうか?
ともあれ、俺も応じて身構える。そして、いつでも水刃にオーラを注ぎ込めるよう、勇之闘気も意識する。オーラロードはライフを使うからな、さっきみたいにしっかり使いどころを見極めないとだ。
そうして俺たちは、粉じんが立ち込める中でしばらくにらみ合っていた。周りの状況を真琴がどう思っているかはわからないが……少なくとも、こうやって粉じんが周りに漂っている以上はこちらにも戦いようがあることは、既にわかった。となれば、俺は俺のできることをやらねーとな。
俺は思考を加速させながら、地面を蹴った。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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真琴の能力公開です。劇中ではあくまで涼の推論ですが、その通りなので。
今回はそんなわけなので、フレアロードはほとんど出番ないと思います……。




