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来世になるけどまた会いましょう。  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第二章 本選編

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第38話 本選 3

 気がつくとそこは、暗い通路だった。薄暗い、ではない。視界はほとんどなく、すぐ先くらいしか見えないレベルだ。

 一体何が起こったのかと思ったが、その瞬間頭の中に空さんの声が響いてきた。


『三十分経ったから、バトルエリアの状態が変わったねー』

「ああなるほど、そういうことか……」


 だよな。転移するには早すぎると思ったよ。


 しかしこれは……どういう場所だ?

 後ろと左右は壁に阻まれている。俺が動けるのは前だけで、狭い通路の行き止まりって感じだ。


『見た感じ、ダンジョンはダンジョンでも、迷路って言われるタイプのダンジョンだねー。ウィザー○リィを思い出す構造だよー。いしのなかにいる』

「それが何かはわかんねっすけど、迷路ってのは納得っすわ。えーっと……とりあえず」


 空さんに返事しつつ、ライターで火を作る。それを手に取って、松明替わりとする。

 ……うーん、ずっと道が続いてるな。マジで迷路だこれ。


『通路の幅は見た感じ、人がすれ違える程度かな? ってなると、どっちかってーとシ○ンとかト○ネコの系統か。ローグライクだねえ……千回遊べる……』

「……えーっと、空さん?」

『ああごめん、ちょっと生前の思い出が。……えーとー、フロアの全貌がわからないけど、とりあえず迷路ってことで気を付けないとだよ。ゲームの経験上、こういう迷路は罠もあったりするから足元にも注意ね』

「罠! そういうのあんの!?」

『あるあるー。でもま、やっぱり一番困るのはモンスターだろうね。狭いから同時に攻撃を受けることはあまりないけど、不意打ちはかなりあるだろうから』

「それは間違いないっすね。……聖焔剣モードセイバーなら攻撃も防御もできて、明るくできて一石二鳥か」

『え、それはどうかなー。あんまり明るくしすぎると、敵にこっちの場所を教えることになりかねないよー?』

「……なるほど」


 その発想はなかった。


『ただまー、明るくしといたほうが見通しは利くから、その辺りの判断はリョー君に任せるよ』

「……うぃっす」

『今後の流れだけどー、とりま、ゲンさん探しながら迷路探索せざるを得ないよね。いつ攻撃を受けてもいいように、ぼくはグロウロードでスタンバっとく。

 モンスターから逃げられるスペースがないから、万一遭遇しちゃったら、倒すのもやむなしってことで。どうせポイントももらえるし、そこは割り切っちゃおう』

「ですよねー」


 そうするしかないだろうなあ。こんな状況じゃ、できることも限られちまうよ。それは相手も同じだろうけど……。


「……ちなみに空さん。湊さんは?」

『リョー君に作戦無視されたおかげでスネてるよー。……あてっ、ちょ、スズちゃん勘弁してー。わっ、待って、ギブギブ! ギブー!』

「空さん? 空さーん!?」


 なんだ、ポータルで何が起きてるんだ。

 ……え、あれ? 返事無いんだけど。え? ちょ、大丈夫!?


『お館様……ともあれ先に進んでくだされ……』

「あ、織江ちゃん。え、空さんたちは?」

『ええと……その、お気になさらず。こちらは拙者にお任せくだされ!』

「えっ、ちょ、織江ちゃん!? えっ!?」


 そして通信は途絶えた。

 何事だ。ポータルで一体何が起きているんだ! まさかとは思うが、仲間割れじゃないだろうな!?


 しかしいくら呼びかけても答えはなく……音信不通とはまさにこのことか。


 うう、いきなりすぎて不安だぞ。いや、予選は完全に一人だったことを考えると同じことではあるんだろうけど……。


 くっ、考えたところでしゃーなしだ。時間ももったいないし、ここはとにかく進むしかないか……!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 迷路を歩き続けて結構な時間が経った。さっきまでのフロアとは違って、部屋らしい部屋とまったく出会わないので気が滅入りそうだ。

 っつーか、オートマッピングがメニューに組み込まれてなかったら、心細すぎて泣くレベル。


 ゲームとか漫画とかでありがちなダンジョン探索とか、とてもじゃないがやりたいとは思えないな。もちろん、仲間が近くにいるかどうかってだけでもだいぶ違うんだろうけどさ……。


 さて、ここまで来る道中で、いくつかアイテムを見つけた。


 一つはバルムンクという、名前からしてすごそうな剣……の、レプリカ。とはいえ、それでも素人目に見てもなかなかの逸品に見えたのだが……あいにく聖焔剣モードセイバーの使い勝手が良すぎるので、これは拾わずに放っておいた。もったいないとも思ったが、アイテムボックスにも限りがあるからな。


 あと、幻の指輪とかいう、身に着けているだけで幻覚が見えるようになるという呪われたアイテムと、ランダムボックスとかいう、開封に躊躇する名前の宝箱。

 前者は、もう拾ったその場で放り投げてさようなら。後者は、念のためと思ってアイテムボックスに保管した。福袋的な感じだと信じたいところである。


 最後に、透明薬とかいう妖しい響きのアイテム。使ったらたぶん透明になれるんだと思うが……拾ってすぐ使うものでもないということで、同じくボックス行き。


 そんな道中だったが、モンスターとは都合三回遭遇した。いずれも単体だったが、うち一体はドラゴンだったので、絶対王権ロイヤルガードで足止めしている間にさっさと逃げた。二人がかりでやっとだった相手に、一人で勝てるかっつーの。


 残る二体は、さほど強くはなかったので倒させてもらった。狼みたいなやつと、牛みたいなやつだった。

 いや、強くなかったというのは少し違うか。どちらも、周りが広ければもっと戦いようがあっただろうにと思えてならない手合いだっただけだ。まあ、牛のやつとか通路の壁に挟まれて戦うどころか身動き取れてなかったしね……。


 ともあれ、おかげでポイントは増えた。合計で七千ほど。それなりの量で、使おうと思えばこの場でも使えるんだろうけど、いい使い道が思い浮かばなかったので保留。これはバトル後みんなで考えようと思ってる。


 みんなといえば、ポータル内のゴタゴタは落ち着いたようで、ほどなくして通信は再開された。ただし湊さんは相変わらず不在で、もっぱら織江ちゃんが伝令みたいな形でだ。

 根が真面目なのか、空さんのオタクトークまで伝えられるのはさすがに反応に困ったけど。


 まあそんなところだ。

 ちなみに、罠は今のところ見ていない。いいことだ。


 そんなところで……ゲンさんとはまったく遭遇しない。

 マップを見る限り、そこまで遠くにいるというわけでもないんだが……やっぱり迷路ってのがネックなんだなあ。いっそ壁でも壊してみるかと思ったけど、傷一つつかなかったから諦めた。見た目ただの土なんだけどね……。


 というわけで、進展はない。完全に、ただのダンジョン挑戦者である。観客席が盛り下がってはいやしないかと、妙なことが気になるレベルでバトルがない。

 いいんだけどさ、そこは。さっきの戦いで結構ダメージ与えられたから、俺のほうが有利だろうし。


 道中、ゼリー飲みながら歩いてた分、今ライフ全回復してるし。大量に持ち込んでよかった、十秒チャージ。

 でもさすがにちょっと飽きてきたから、他のものも考えてみよう。カ○リーメイトとか。


『すぐに状況を確認して』


 そう思っていると、突然湊さんの声が聞こえた。

 今まで黙っていたのにどうしたんだ?……とも思ったが、それより発言の意図が気になったので、そちらは飲み込む。


「どういうことだ?」

『ライフを見てみなさい』

「ライフ?……あれっ、減ってね?」


 頭上を見て、驚いた。先ほど、確かにチャージしたはずのライフが減っていたのだ。

 モンスターとの戦いではダメージを負わなかったので、心当たりがない。一体どういうことだ?


『周りを見て。今までと様子が違わない?』

「えっ……と……すまん、わからねー」

『暗くてそこの状況が正確にわかってるわけじゃないんだけど……壁や地面に、霜がついてたりしない?』

「壁や地面……?」


 場所を指定されたので、さっきより念入りに壁と地面を見る。

 改めて見直してみると……確かに、壁や地面にはびっしりと霜が張り付いている。触れば、がさっとかすかな音がした。だが、冷たさは感じない。


「……ああ、確かに霜がついてるけど」

『どうやら間違いなさそうね……まずは、フレアロードを最大火力で』

「? お、おう」


 意味がよくわからない。しかしここは素直に従っておこう。さっきはなぜか怒らせてしまったみたいだし。

 というわけで両手にライター、出した火は最大出力。猛烈な炎と熱が周囲を見たし、見る見るうちに霜が解けていく。それどころか、壁に焦げ目までできていく。


 ……で? これで、どうなるんだ?


『さっきのライフ減少は、恐らく相手方の能力。「冷気を操る」能力よ。あんたのフレアロードが生半可な鉄をすぐ溶かすくらいの熱を出せるように、相手もこの迷路内全域をダメージを与えられるだけの低温状態にするくらいはできるんだと思う』

「な……なるほど!?」

 そ、そうだ。そういや、冷気によるダメージは十分ありうるってこないだ話したじゃねーか。すっかり忘れてたよ!

 しっかし、そうだと思うとこれはやばいな? 離れている俺にこれだけのダメージを与えられるレベルの冷気とか、尋常じゃねーぞ?


『とりあえず、今のところライフの減少は止まっているみたいね。少しずつ火力を下げて、消費とダメージの兼ね合いを考えながら進みましょう。回復のための食べ物はまだかなり残ってるし、ライターも同じく。フレアロードの集中を切らさない限りは、こちらの不利になることはないはずよ』

「お、おっけー」

『むしろ、こっちが有利になるかもしれない。……それは後で説明するけど、とにかくフレアロードの精度を維持することに努めて。モンスターは、この際無視できるものは無視してでも相手のところにたどり着いたほうがいいと思うわ』


 刀を振り回すほどのスペースなんてないしね、と締めくくって、湊さんは沈黙した。

 うん、やっぱり湊さんは頼りになるな。空さんも織江ちゃんも、もちろん頼りになる仲間なんだけど……今みたいな状況ってなると、やっぱり湊さんの分析能力に分があるよなあ。


 っと、そんなことを考えている場合じゃない。フレアロードの精度の維持、だったな。


 俺は両手のライターを新品に交換して、火を起こした。その勢いを強めながらも、ある程度のところで止める。……これくらいの火力があれば、ダメージはないだろう。ガスの減りも……うん、そこまで激しくはない。

 この状態でゲンさん探しか。さすがに神経使うな、こいつは。


 と思っていると、二手に分かれた通路にぶち当たる。うーん……右でいっか。


「……うん?」


 右に曲がって少し行って、俺はふと音を聞いたような気がして足を止めた。なんていうか、こう……重くて錆びついた扉を開け閉めするときみたいな、重苦しい感じの……。

 よく耳を澄ませてみると、それは左右から聞こえてくる。左右と言っても、霜まみれの壁しかないわけだが……。


『ちょっと、何ぼーっとしてるの! 壁が迫ってきてる! 早く逃げて!』

「な……っ!?」


 いや、そんなバカな……。

 ……バカ、な……。


「うおあああマジだ!!」


 ことはなかった!


 今まで激しく動いていなかったのは、そうするかなかったのか、それとも作戦なのか。

 ともあれ、俺はいきなり間隔が狭くなっていく通路を大急ぎで走り抜ける。もうあの音の正体ははっきりとわかる。壁が動く音な!


 いや、っつーか、なんだこれ!? どうなってんの!?


『あまり考えたくはないけど……私に思いつくのは「触れたものを操る」能力くらいしかないわね』

「それだ! こええよ、なんだよこの能力! 殺す気満々じゃん!」


 壁に挟まれて、どれだけのダメージを受けるかはわからないが……それぞれのダメージは意外とある程度生前に即しているので、少なくとも半分以上ライフが減る可能性が高い。これに巻き込まれるわけにはいかない。

 ただ、この状況では反撃ができない。反撃どころじゃないし、そもそもゲンさんがどこにいるかもはっきりとはわからないのだ。


 そして、油断するとフレアロードの制御が緩んで周りの温度が下がる。それにすぐ気づければいいが、何せこの状況だ。ライフが減っていることに気がついて、調整がヘタってることに気がつく始末である。ようやく緩んだ結果火力が上がるならいいが、どうもそっちに反動は向いていないらしい。


『落ち着いて。それは間違いなく「動いている」攻撃よ! グロウロードで少しでも稼ぐの!』

「な、なるほど! よっしゃあ、絶対王権ロイヤルガード!」


 その瞬間、壁の動きがピタリと止まった。うーん……この能力持ってて本当に良かった。

 もちろん、それほど長く止めていられるわけではないので少しでも早くゲンさんを見つける必要があるが……それでも、数秒止められるだけでもかなりの効果だ。


『ただ、止まっている以上音が出ないから、攻撃が防がれていることは気づかれるわ。

 今後の選択肢は二つ。ゲンさんを見つけて直接対決に持ち込むこと。狭い通路での戦いになるから、この攻撃方法は採れなくなるはずよ』

「も、もう一つは?……うげえ、もっかい絶対王権ロイヤルガード!」

『もう一つは、このままグロウロードを駆使して逃げ続けることよ。幸い、私たちに疲労の概念はないわ。だから、全力で逃げ続けることは理論上不可能ではない。まだエリアの変更は一回分残っているから、それまで逃げ切るの』

「な、なるほど……。ど、どっちがいいかな、これ!?」

『私は前者でいいと思うわ。というか、前者の通り進めたくても結局見つからない可能性もあるもの』

「お、おっけー! じゃあそうするよ!」


 左右から迫ってくる壁、というのはものすごいプレッシャーだ。特に、精神的なものはとんでもない。映画でこんなシーンがあったと思うが、役者のあれはガチだったのかもしれない。


 だが、人間その気になればわりとどんな状況にも慣れるものである。数分この状況が続けば、意外と周りを冷静に見ていられるようになってしまった。もちろん、フレアロードの制御も十分にできている。

 もちろん、グロウロードのおかげで安定して逃げていられるというのが一番大きいんだろうけど。……俺、よく空さんに勝てたな。


 さて、逃げつつフレアロードを制御しつつマップを見つつと、自分でも驚きのマルチタスクなわけだが……ゲンさんどこにいるんだよ、ホント。このマップだけでいいから、マップ機能の制限解除してほしいわ。


 っていうか、大会側としても、このマップ構成じゃバトルとしての見ごたえはかなり小さいんじゃないですかね……?


 なんて思っていると、あちらも同じことを思ったのか、抜群のタイミングで転移が始まった。視界が真っ白に染まっていく――。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


今回はつなぎのような回ですね。前回に比べて、状況説明がほとんどになってしまいました。

妙に話を引き延ばそうとか思わないほうがいいのかもしれませんね……要精進だなあと痛感した回となりました。

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当作品の異能力バトルにおいてキャラクターが使う特殊能力と、彼らが戦うバトルエリアのアイディアを募集しています。
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【急募】能力とエリアのアイディア【来世に(ry】
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