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来世になるけどまた会いましょう。  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第二章 本選編

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第33話 舞台裏

累計PV3000突破ありがとうございます!

早いか遅いかで言えばもちろん遅いでしょうが、これからもがんばりますよ!

 どんよりと濁った雰囲気が、三途の川岸に満ちている。

 文字通り死後の世界である賽の河原においてそれは、一般的に生者が想像する死後の世界のイメージに相応しいと言えるだろう。


 だがそれは一つの側面でしかない。これほどわかりやすく死後の世界という雰囲気を持つのは、ここが賽の河原においてあの世の側……現在、リバーストーナメントという乱痴気騒ぎが執り行われている場所の対岸、つまり彼岸だからだ。

 更には、死を司る神が座す場所でもある。より生から遠いこの場所は、亡者が集まる穢れの空間と言っても差し支えないだろう。


 そんな賽の河原に、身一つで上陸する黒い塊があった。仮にも彼我を分かつ死の川を、生身で渡ることができる存在は極めて少ない。もちろん、それが生き物の魂であるはずもない。


 黒はやがて、一つの小柄な少女の姿を取る。

 烏の濡れ羽色をした艶やかな髪は、肩までかかる程度の長さ。それを向かって右側だけをくくるのは、緑色の髪飾り。純白の小袖と緋色の袴は、それが巫女であることを雄弁に物語っている。そしてその瞳は、翡翠のごとき輝きを放つ。


 少女は歩く。賽の河原からまっすぐに伸びる道を。その先、淀んだ空気の果てには、巨大な神殿がそびえたっている。それは何十メートルにもなるだろう高さの階段を備え、穢れた空気を嫌うかのような天空に本殿が築かれていた。

 道中にそびえる無数の大鳥居を、少女は潜り抜けていく。その所作にためらいはなく、またその荘厳な気配に怯える様子も一切なかった。


 そのまま少女を止めるものはなく、やがて彼女は大階段の前へとたどり着く。


「お帰りなさい、イメ」


 そこに、声がかかった。と同時に、少女――イメの前で白い塊が浮かび上がる。それは瞬く間に人の形を取り、少女とまったく同じ顔へと変わった。


 正面から向かい合う両者は、双子のように瓜二つだ。実際、双子と言って差し支えない。しかし、二人には決定的に違う点が二つある。


 一つは、その衣装。新たに出現した側は漆黒の単と袍、そして純白の袴という衣冠姿に烏帽子を整えており、巫女ではなく神職であることがわかる。

 そしてもう一つは、髪飾りの位置。少年のそれは、向かって左側をくくっている。


「この時期にわざわざ本体をこちらに戻すなんて、どうかしたのですか?」

「マボロシ……まずいことになってるんだ。どうやら、『彼』が来ているみたいでさ」

「へえ……久々ですね。初回以来じゃないですか?」


 マボロシと呼ばれた少年は、驚く風もなくうっすらと笑って見せた。手にした勺で、その口元を隠しながら。


「今回は手が込んでる。参加者に接触して、一緒に行動してるみたいで足取りがつかめないんだよ」

「足取りがつかめないのはいつものことでしょ? 相手は紛うことなき神で、私たちは川の管理人でしかないんだから」

「『彼』自身は、そこまで問題じゃないんだよ。一番気がかりなのは、その協力者」

「というと?」


 美しい顔をかすかに歪めて、イメは応じる。


「協力者の目的は、この大会を妨害することらしいんだ」

「……それは由々しき事態ですね」


 ふむ、と目を細め、マボロシが言う。


「『彼』が接触したということは、戦乙女の資質があるということでしょう? 人間とはいえ、私たちでは手に余る可能性がありますね」

「そういうこと。『彼』が絡んでいる以上、ボクたちにできることも限られちゃうし」

「ああ、わかっていますイメ。今すぐにでもイザナミ様にお目通りを願いましょう」

「今会えるの?」

「普通なら無理な状態ですが、今の状況は私たちが無理やり踏み込んでも構わないでしょう」

「だといいんだけどね。アマテラス様にしてもイザナミ様にしてもそうだけど、うちの御上はどうも引きこもることにかけては他の国の追随を許さないからね……」


 イメの指摘に対して、マボロシは無言で肩をすくめるにとどめた。

 それから二人は、空へと向かう階段を昇り始める。


 彼らこそ、三途の川の守り人。死の聖霊とも言うべき、此岸のイメと彼岸のマボロシ。二人合わせて死者の導き手にして、大会の運営者。そして、魂の監視者……その、真実の姿である。


「……もう一度確認するんだけどさ」


 階段をのぼりながら、並んだ片割れに向けてイメが問う。


「本当にイザナミ様、会ってくれる? 確か、現世で新しく出たMMORPGにドハマりして、ここ三カ月くらい社から一歩も出てこないんじゃなかったっけ? いつもの営業に来てる神々にも、今回は会わないって言いきったとかって……」

「うん……不眠不休でマウスクリックしています。いくら生者と死者の中間の存在とはいえ、あまりお身体を酷使しないでいただきたいものです」


 二人は、互いが戴く神の姿を脳裏に浮かべて深いため息をついた。


「トーナメントを作るって言い出した時は、遂に立ち直ってくれたと思ったんだけどねえ。結局、イザナミ様はイザナミ様かー……」

「アマテラス様がゼウス様のように、親を追放できればよかったのでしょうが……やはり遠慮があったのでしょう。曲がりなりにも親ですからね」

「そんなんだから、異世界に魂を言い値で買いたたかれるんだよ……」


 ……彼らこそ、三途の川の守り人。死の聖霊とも言うべき、此岸のイメと彼岸のマボロシ。二人合わせて死者の導き手にして、大会の運営者。

 そして、魂の監視者であり……日本神にっぽんじん一の働き者とも言われる、その真実の姿である。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 穢れを避け、淀みの上に鎮座する本殿の中に、『彼女』はいる。

 地球という名を持つすべての世界の、日本という名を持つすべての地域の死を司る冥府の神。死神としての名は黄泉津大神よもつおおかみであり、他にも複数の名を持つが、最も知られた名と言えば、イザナミを除いて他にはないだろう。


 兄と契り、列島を、そして多くの神々を産んだ最初の女神、イザナミ。だが今は、冥府に入りその穢れをはらんだ姿を忌避され、死を運ぶものとなった女神。

 そのイザナミの後姿を眺めながら、イメとマボロシは同時に小さくため息をついた。


 当のイザナミは、二人に気づいた様子もなく、オフィスチェアの上で膝を抱えて座り、どす黒く染まった隈を隠すこともなく、胡乱な瞳で目の前の巨大なディスプレイを眺めていた。口元にはだらしなく笑みが浮かび、服装は飾り気の一つもない。

 身体の部分部分を取ってみれば、本来の彼女は間違いなく美形であろう。日本神にっぽんじん特有の、全体的に未発達な肉体をどう捉えるかは個人の主観に寄るが、ともあれ整った姿かたちは神なのだから当然だ。


 だが、珠も磨かざれば石でしかない。

 一切手入れをせず、己の身体を顧みない今の彼女に神の威厳など欠片もない。ため息の一つや二つは、文句は言えない状態である。


 画面に映し出されているのは、MMORPGのワンシーン。ちょうど大ボスを相手にしているようで、複数のプレイアブルキャラクターがそれを囲み、それぞれがそれぞれの仕事をこなしている。

 そして部屋の中には、マウスをクリックする音が断続的に響く。イザナミの目の前に置かれたマウスが動き、画面の中のあるキャラクターを動かしているのだ。


 一見すると勝手に動いているように見えるが、これはイザナミの神通力によるものである。はっきりいって神通力の無駄遣いだが、見た目に反してイザナミの力は底なしと言ってよく、この程度で枯渇するような軟な身体はしていない。


「……イザナミ様」


 そんなイザナミの後ろにかしこまり、マボロシが声をかける。

 が、イザナミからの返事はない。彼女はただ、一心不乱に画面の中にいる自らの分身に剣を振るわせている。


 反応がないことにイメはため息をつく。そしてやおら立ち上がると躊躇なく進み、慣れた手つきで電源系統をシャットダウンした。当然、イザナミが向き合っていたすべてのコンピュータはエネルギーを断たれて沈黙する。


 突然(いや、予兆はいくつもあったが)の出来事に、イザナミは呆然自失の有様で硬直する。だが、すぐに金切り声を上げながら、椅子から転げ落ちた。


「あああぁぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛ー!!」


 その有様に、もう一度双子の管理人はため息をつく。


「いいいいい、イ゛メ゛エェェっ!! なんて、なんてことをしてくれたあぁぁ! う、うぬは、いつもいつも! 妾のじゃ、じゃまばかり!!」

「クソニートに邪魔呼ばわりされるいわれはないですね」


 どんな化け物よりも恐ろしい形相で詰め寄る死神に、ひるむことなくイメは吐き捨てる。その美しい瞳には、敬意のけの字も見当たらない。


「いいから話聞いてくださいダ女神様。トーナメントのほうでまずいことが起きてるんです」


 慇懃無礼に言い放つイメに、イザナミが落ち着くはずがない。彼女はますますヒートアップし、それこそ死神の貫禄に満ちた負のオーラが全身から迸る。

 が、それでも双子はひるまない。この程度で正体を失っていては、冥府の仕事はできないのである。主にパワハラ的な意味で。


「イザナミ様、お仕事の時間です」


 後ろからマボロシが迫り、イザナミを無理やり椅子に座らせる。その瞬間、イザナミは悲鳴を上げた。


「あああああいやああああー!! はた、働きたくないっ、働きたくないいぃぃー!!」

「はいはい、義務を果たしましょうね」


 そしてイメは、イザナミを押さえつけながらその翡翠の瞳を輝かせる。それに呼応して、マボロシの瞳も光を放つ。


 瞬間、イザナミの瞳から光が消えていく。それに合わせて、動きも緩慢になっていく。


「働きたくない……あっ、ああっ……働きたくな、……はたらき、働きたい! 人のために働きたい! あ゛ー……」


 ほどなくして、彼女は完全に大人しくなった。椅子に身体を預けたまま、ぐったりとどこか遠いところを見つめている。

 事ここに至って、ようやく二人の管理人は恭しく跪いた。


イザナミノミコト・・・・・・・・様、『彼』が来ているようです」

「しかも、トーナメント反対派の参加者と結託している模様。このままでは、最悪トーナメントが中止になるかもしれません」

「神々が楽しみにしているこの祭典を妨害されるわけにはいかんな」


 イザナミが、部下二人に応じる。その声音は先ほどまでとは打って変わって冷静であり、隠しきれぬ神の威厳に満ちていた。見た目は、心を砕かれた哀れな人間にしか見えないが。


「魂を引き抜かれること事態は問題ではない。しかし、競技の崩壊だけは阻止せねばならぬ。遠路はるばる、異世界より顔を出してくれる神々のためにも」


 イザナミの言葉に、イメとマボロシが頷く。


「イメ、彼奴の居場所を探れ。また、その反対派の参加者に抗しうる勢力の準備を」

「既に」

「マボロシ、客神きゃくじんたちに注意喚起を。加えて、目的の魂がある神にはそれとなく協力を仰げ」

「御意」

「状況に変化があれば、逐次報告せよ。極力妾が表に出るよう備えるが、如何せん力関係はうつけのほうに分がある。万が一うつけが居合わせるようであれば、問答無用で妾に入れ替えよ」

「「仰せのままに」」


 二人の返答に、イザナミは満足げに頷いた。そして、再び光を取り戻し始めた瞳を抑え込むようにして目を閉じる。


「大義であった。行け、我が僕よ」


 その言葉を最後に、イザナミは入れ替わった・・・・・・


 もぞもぞと身体を起こして、まだ完全には焦点が整っていない目で周りを見渡す。

 既に、そこに二人の管理人はいなかった。


 それを確認するや否や、イザナミはばっと椅子から飛び降りた。そして、それまでの情けない姿からは想像もできないほどのスピードで電源系統を復旧させると、これまた目に見えぬほどの速さでディスプレイ前に戻る。


 復活したディスプレイに向かい合い、先ほどまでプレイしていたゲームに戻った彼女は、まずはパーティメンバーに対して全力で謝罪する(タイピングももちろん、無駄に有り余る神通力で行われている)。

 謝罪と共に、理解の無い家族による心無い鉄槌が下されたことなどを織り込み、話を膨らませていく。


 元々、彼女は始まりの神の一柱だ。対面していない画面でのやり取りにおいてさえその神威は圧倒的で、大事なボスバトルの真っ最中に急に動かなくなった彼女を責めるものは、誰一人としていなかった。

 とはいえ、中核とも言えるアタッカーの不在にありながら彼らが寛容なのは、ひとえに神の威光によるものだ。本人にその自覚はなくとも、それは効果を発揮してしまう。

 もちろん、接している相手がよもや神だと思うものなどいるはずもないので、彼らにしてみればイザナミのキャラには不思議なカリスマ性があると思っているだろうが。


 そして、満場一致でパーティからの許しを得たイザナミは、安堵の息を漏らしながら椅子に座りなおした。

 それから、神通力でどこからともなくポテチを出現させると、これまた神通力でそれを開封、挙句に神通力でポテチを口に運ぶのだ。


「ああ……やっぱ人間って優しい……ありがとう……ありがとう……」


 落ちくぼんで死にかかった瞳に涙を浮かべて、イザナミはひとりごちる。


「……わらわもちゃんと死にたい……こんな半端な死に方なんて……。うう、ぐすっ……。死んで転生したい……チートもらって異世界でヒャッハーしたい……。VRMMOでもいいから……神生じんせいやり直したい……」


 そしてそう続けたイザナミは、ままならぬ現実を受け入れるかのように(実のところ完全に現実逃避なのだが)、ゲームの世界に没入していく――。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


今回は運営側の動きでした。ここに来て新キャラ二人です。

間違いなく主人公たちが知りうる情報ではないので、久々に三人称を使いましたがやっぱり三人称は説明をするにはやりやすいですね。

ちなみに、マボロシとイザナミ様が今後物語にかかわっていくかはまだはっきりとは決まってないです。

出したからには有意義に使ってあげたいですね。


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