第30話 スキル会議
「予選でもなんでも、一度バトルで使用されたエリアの情報はイメから聞き出せるようになるわ」
「マジで!?」
「私たち予選敗退者には、本選出場者がバトル後に得られるポイントの三分の一に相当するポイントが与えられるわ」
「そーなのかー!?」
「借りられる能力の強さは、すべて元の能力保有者である私たちの強さに依存するわ。ただし、獲得している連結のスキルレベルに応じて補正はかかる」
「なんですと!?」
「各道具の割引セールは、時間帯ごとに決まってるわ。ソシャゲの稼ぎステージが、一見ランダムに見えて規則性があるのと同じね」
「マジか!?」
「ライフを回復させる食べ物の回復量は、食べる人の味覚で決まるわ。嫌い、まずい、普通、おいしい、好きの五段階で」
「ウソでしょ!?」
「本選出場者は、私たち敗退者が獲得してるスキルの中で獲得していない分の力も発揮できるわ」
「えーっ!?」
アイテムボックスのバグ技披露以後、この場は湊さんによるシステムの仕様暴露会となっていた。
次々と繰り出される事実の数々に、俺たちはただ驚くことしかできない。
……なんていうか、その、あれだ。
何をどうしたらそこまで調べられるの!?
湊さんの知っている情報の数々は、間違いなくトーナメントにおいて有用なものばかりだ。それをここまで調べつくしているとか、一体何事だよ?
何回かこのトーナメントに参加してるんじゃないかってくらいの詳しさだよ!
っていうか、マジで湊さんが敵じゃなくてよかった。彼女が本気で敵に回ったら、最初戦ったときなんて目じゃないレベルでボッコボコにされるのは間違いないだろう。
いや、完全な味方ってわけでもないかもしれないけどさ。
「……スズちゃんって、孔明の生まれ変わりか何か?」
湊さんのその情報収集力は空さんを呆れさせるレベルだ。さすがの俺でもわかる孔明のたとえは、納得である。
だが、それをよしとして受け取らないのも湊さんと言える。
「中国統一をことごとく妨害した人間一の部下にたとえられたくないわね」
まさかの孔明全否定である。普通なら喜ぶだろうたとえを、一刀両断にするその精神力は尋常ではない。
「すごい評価だね……演義しか知らない人に言ったらキレられるかもよ?」
「判官びいきの塊な演義はどうも嫌いなの」
「嫌いって言いきっちゃったよ! 羅漢中泣くよ!?」
……まあ、時折二人がかわす難しい話の内容はさておくとしようか。
ともあれ、湊さんからもたらされた情報はいろいろあって、そのどれもが重要なものばかりだ。
だが、その中でもとりわけ注意しなければならないものがある。
それは、さっきの会話で言えば二番目と三番目に教えられたもの、そして最後に教えられたものだ。
俺が借りられる特殊能力の強さは、すべて他の三人が獲得しているスキルレベルに依存する。これはつまり、俺がどれだけ練習しても他の三人の能力を強化できないと言うことに他ならない。
他の能力が使えるのはありがたいし強みだが、その強さが今のまま成長しないのは問題だ。勝つためには、色々なものを強くしていかなければならないのだから。
だが、ここで立ちはだかるのが二番目に出てきた獲得ポイント数の問題だ。
本選出場者本人である俺は、当然ながらバトル後にもらえるポイントはいつも通り。だが、俺以外の三人は、俺がもらったポイントの三分の一しかもらえないのだ。
特殊能力のスキルは、練習や特訓でレベルを上げることができるが、やはり手っ取り早いのはポイントを振って上げることだ。だが、そのために必要なポイントはかなり多い。
にもかかわらず、使えるポイントが少ないと言うのは致命的ともいえる。ポイントは、特殊能力のスキルだけに使うものではないからだ。
まあ、ポイントがもらえるだけでもありがたいのかもしれないが……それでも足りないものは足りない。
そして、それらに加えて持ちあがってくる問題が、最後に教えられたことに関係している。
他の三人が獲得しているスキルを俺が獲得していなかった場合、そのスキルの効果が俺に反映される。
たとえば、湊さんが銃スキルレベル3を持っていて、俺がそれを持っていないとする。にもかかわらず、俺はバトル中に銃火器をレベル3の精度で扱うことができるのだ。
これは、はっきり言ってとんでもないことだ。他の人が獲得したスキルをそのまま使えるんだから。
しかし、もちろんそれが適用されるのは俺だけではない。対戦相手となる他の参加者にも適用されるのだから、四人でポイントをどうするかという問題は避けられない。
スキルに対するポイントの振り分けは、もはや俺一人の問題ではないと言い切ってしまってしかるべきなのである。
ここまでわかれば、なるほど。湊さんが面倒なシステムと言うはずだ。
はっきり言って、俺の頭ではこの複雑に入り混じったシステムを理解することは難しいし、湊さんのように解析するなんて百パー無理だ。
まあ彼女レベルに解析する人間が他の参加者にいるとは思えないが、それでも可能性はゼロじゃない。彼女に並べなくても、たとえば空さんレベルの頭脳があれば迫ることは十分可能だろうし。
そう考えるなら、システムの仕様をある程度理解して、それに沿った身の振り方を考えなければ、勝てるものも勝てないだろう。
決してゴリ押しで勝って行けるほど、世の中甘くはない。それは、死後の世界に来てもなお世界の真理としてあり続けるのであった。
「……こうなってくると、訓練はひとまず置いといて、ポイントをどうするか考えたほうがよさそうだね」
その事実に、湊さんを除いた三人で最初に気づいたのは、もちろん空さんだ。
雑談に近い流れだったそれまでの雰囲気を一旦断ち切り、改めてミーティングの場として仕切りなおした。
「お館様、今はいかほどのポイントが?」
「えーっと……俺んところにあるのは四万五千ってとこだな」
「ってことは、ぼくたちが使えるのは一万五千くらいか。んー、予選時代に比べたら少ないねー」
「左様でございますなあ……」
もっともな発言である。
たとえるなら、いきなり正社員からバイトにされたようなものだから、減額自体は仕方ないんだろうけど……。
「まずはポイントをどう使うか、だよなあ」
「だねえ。……そのために、各人が今どれだけのスキルを持っているか確認しとこうか」
「うぃっす」
「御意に」
こういう話になると、湊さんは途端に無言になる。
だが今のところ、態度はともかく協力はちゃんとしてくれているので心配しなくても大丈夫だ。
ちゃんと、無言とはいえメニューからスキルの画面を開いてくれているからな。
「……リョー君のスキル配分、めっちゃ堅実だね」
まずは、といった感じで俺の画面を見た空さんが、微笑んだ。
俺のスキルの振り方は、リーチの短い拳という武器を何はともあれぶつける、という目的を最優先にしていると言ってもいい。
各種能力を平均的に伸ばしてステータスの相互補完を進め敵の攻撃に対処、それができなくてもダメージは極力ないようにしてあるのだ。技術は控えめに、身体能力にかかわるパッシブがその中心である。
それがいいか悪いかは、もちろん状況次第だろう。だが、自分のその堅実な振り方があればこそ、織江ちゃんや空さんに勝てた部分はあったと思う。
特に、空さん相手の時は普通だったら俺が先にやられていたはずだ。ひとえに、防御も忘れずにしていたおかげと言える……と思う。
「なるほどなあ、こういう振り方してたからぼくの攻撃がなかなか通らなかったんだね」
そしてそれは、実際に戦った空さんも感じたのだろう。そう言って顎に手を当てると、小さく苦笑した。
「平均的なステなんて、サマル○リアの王子ルートまっしぐらの器用貧乏と思ってたんだけどなあ。この手のパッシブを揃えて上げると、あんなに戦いづらくなるんだね……」
どこの国の王子か知らないが、器用貧乏のたとえとして出されるのはさぞ不本意だろう。
だが、火のないところに煙は立たないとよく言うので、かの王子もなかなかガッカリな人だったのかもしれない。
「そういう空さんは、射撃関係にかなり寄せてますね」
一方、空さんのスキルを見た俺は、思ったことを率直に言う。
「ま、ねー。ファンタジー世代としては剣も捨てがたいと思ったんだけど、やっぱ威力のこと考えると銃かなーと思ってね」
その考え方は正しいだろう。俺たちは、ファンタジーなんてかけらもなかった世界で生きていた。
そんな世界で猛威を振るっていた武器といえば、銃。その威力は、もちろん言うまでもない。
まあともあれ、空さんのスキルだ。
俺は銃は最初から選択肢になかったので、その手のスキルは完全にスルーしてたが……射撃に関するスキルって多いんだな。
格闘や剣だと、単純に攻撃、防御、総合の三つだけであり、その分け方もさほど複雑ではなかった。だが、銃はもっと種類があって、それぞれが具体的にどういうものかは、パッと見ただけの俺にはわからない。
空さんが持っていたのは、拳銃リボルバータイプシングルアクション、二丁拳銃ガン=カタ、狙撃銃ボルトアクションの三つだった。そのうち、リボルバーと狙撃銃のスキルは4となかなか高く、ガン=カタは1で止まっている。
「……このガン=カタってなんすか?」
「映画に合った架空の武術。二丁拳銃とカンフー合わせたやつで、見た目はめっちゃかっこいいんだけどリボルバーには向いてないってことに取ってから気づいてさ……」
「そ、そっすか……」
架空の武術がスキルとして組み込まれてるって……。
い、いや、それについては忘れよう。
あとは空さんのパッシブだけど……こっちは、主に腕力や脚力と言った、文字通り身体能力そのものと言えるものに多く振られているようだ。
まあ、確かに空さんはどこからどうみても非力間違いなしだからな。もやしという言葉がこれほど似合う人は、なかなかないだろう。
だからだろうか。それらのパッシブは現段階でレベル4と俺より一つ高く、いかに自身の力のなさを警戒していたかがわかる。
「いーちゃんは、特殊能力のほうに力入れてたみたいだねー」
「は。能力を使って戦うと最初に聞いていたもので……まずそれが第一なのかと思い」
なるほど、これもよくわかる選択と言えるだろう。トーナメント側からの言葉に、素直に従った形と言える。
実際、織江ちゃんのアクアロードは、戦っていてかなり精度が高かった。でなければ、水鉄砲であれだけの威力、かつ精密な射撃はできないだろうし、雪が溶けた程度の水でカッターを飛ばすなんて難しいだろう。まして、タンクローリー満載の水を竜の形にしてぶちかますなんて大技は、そうそうできるものでもないはずだ。
おまけに、彼女はあの大量の溶岩を、タイムアップが来るまでしっかりとさばききって見せたのだ。能力を維持する時間も、相当なものがあると思われる。
ただ、パッシブスキルのほうはお世辞にも高いとは言えない。こちらで彼女から得られる恩恵は、残念ながらないと言っていい。
しかし、それとは別に彼女が剣術のは式をレベル2まで持っていたことはいい知らせと言える。
恐らく聖水剣のために取ったスキルだろうが、俺が装備品のレッドホークから得られるプラス効果は、このは式剣術だ。つまり、二つを掛け合わせて現状レベル3と同等のは式剣術を使えるということになり、これは今後のことを考えていくうえで重要になるだろう。
俺は格闘を、空さんは銃を、織江ちゃんは剣を。それぞれにポイントを振れば、俺はかなり広い状況に対応できるようになるだろう。
で、最後に湊さんだが……。
「な、……なんと……」
「す、すごい振り分けだね……」
「っていうか……これでよくあれだけ戦えたな……」
以上が、彼女のスキルを見た俺たちの反応である。
何をそう驚いているのかと思う人もいるかもしれない。だが、この反応は間違いなく当然である。
彼女の持っていたスキルは、以下の通りだ。
拳銃フルオートマチック レベル2
爆発物 レベル2
思考速度アップ レベル8
以上、三つである。
……繰り返す。以上、三つである。
「あとは全部、武器とタブレットに消えたわね」
そう言う湊さんは、いつも通りの薄い表情のままだ。
まあ、彼女の言う武器とは例のロケットランチャーとかプラスチック爆弾だ。あれらが相当高価だろうというのはわかるから、スキルの数が少ないかもという予想はあった。
だが、まさかここまでスキルの数が少ないとは誰も思っていなかったに違いない。
「こ、この思考速度アップって、何だ?」
「文字通りだけど……頭の中で考えていられる時間が伸びる、っていうパッシブ。
普通なら一秒で一つの計算ができるところを、もっとたくさんできるようにするって言えばいいかな」
「ああ……なるほど、考える時間をできるだけ多くとって、それであの緻密な戦いを……」
俺は空さんほど理解できたわけではないが、とりあえずたくさん考えられるようになるスキルというのはわかった。
俺みたいに頭が残念なやつじゃあまり効果はないかもしれないが、湊さんレベルの天才なら、考える時間が増えるのは間違いなく有利になるんだろうな。
「た、たったこのスキルだけであの戦いをしておられた、と……?」
「長く考えられればそれなりの答えは出るでしょ?」
「さ……左様でございますな……」
いや、たぶんそんな簡単に答え出せるのは湊さんくらいだからな……。
つまるところ、その思考速度だけで彼女は俺や空さんをあそこまで追い詰めたのである。
使っていた武器の威力やバグ技の使用は置いておくにしても、頭だけであれだけ戦えると言うのはとんでもないことだろう。どんな頭してるんだよ。
「ちなみに、拳銃と爆発物はレベル1しか取ってない。練習してたら、予選開始の前日くらいにレベル2に上がってたわ」
なあ神様!? あんた絶対、才能の与え方ひいきしてるだろ!?
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
スキルについて、今後の動向を決めるというお話でした。
まあ、相変わらずという感じの涼回な気もしますが……。
ちなみに、彼女はまだたくさんの知識を隠し持っています。が、そこは少しずつ順を追っていきますので……。




